バタバタしている勇者たち ③
「でも俺が帰ってきたいなんていったから、それで……」
「大丈夫ですわ。ひかる。幸いにも亡くなった方もいませんし、ひかるが心を痛めることは必要ありませんわ」
死人が出てなくても大分やらかしているのならば問題な気がする。
それに本当に魔物たちが入り込んでいて誰も亡くなっていないなんてことはあるのだろうか? 杉山たちに知らされていない、もしくは常識改変がきいていてそれを理解できていないだけなのか。
……本当に運よく誰も亡くなってないなんてことはあるのかな。
「俺は悩んでしまうんだ。両方を求めたからこそ、こんなことになっているんじゃないかって」
「ひかるは『勇者』ですから、全てを求めても当然ですわ」
悩んでいるならどちらかに決めてもらった方がいいけどなぁと常識改変がきかない僕は思ってしまう。
杉山は高校を卒業して、社会人になったとしても両方を求めるものなのだろうか? 日本と異世界の両方で結果を求めるとなると……多分、色々大変だろうと思う。
両方の成果を求めているとなると中々大変そうだけど、やっぱりナチュラルにハーレムを作成している杉山だと、両方で上手くやっていけるのだろうか。
「それにしても……女神様が向こうでおさめてくれているというのに、これだけ入り込んでいるとなると……女神様に反旗を翻している者がいるのかもしれない。それにあの方も……何をしているか分からないし」
「ノースティア様が先導している可能性もあるよな」
……いや、乃愛のせいにしないでよ。乃愛は僕に言われて大人しくしているよ。
でも乃愛が僕に出会わずに退屈していたら、うん、暇つぶしに何かしてそうなのは想像が出来る。乃愛は退屈していたら色んなことをやらかしただろうから。
「乃愛、冤罪かけられてる」
「んー。別にどうでもいいよ。それより博人、ここ行こう」
「カフェ?」
「うん。クラスメイトがお勧めだって教えてくれた。あとこっちも」
「これ、どこ?」
「此処で過ごすとずっと仲良く出来るって」
乃愛はクラスメイトたちからカフェとあと夜景スポットを聞いたようだ。というか、クラスメイトたちは乃愛によくそう言うスポットをよく教えている。
それに僕は結構付き合わされているが、まぁ、僕も楽しんでいるのでよしとしよう。
それにしても乃愛は自分の名前を出されても何も気にした様子がなくマイペースである。
乃愛が本気でこの世界で遊ぼうとしていたらきっともっと大変な事態になっていたことだろう。
僕は想像しただけでもそれが分かる。
そうやって会話をしている中で、窓の外に不思議な光を見た。
その光は、学園から大分離れた位置に落ちていった。
……周りが一切慌てていないことを考えると、明らかにこれも異世界関連だろうか。
というか、先ほど来たばかりなのに杉山たちがもう学園から去ろうとしている。びっくりするぐらいさぼりすぎていて僕は驚きで一杯である。
というか、異世界からこちらに人がやってこれるのならば女神様たちも何かしら派遣するとか出来ないのだろうか。全部杉山たちが対処する必要はない気がするけれど……。
学生の本文は勉強で、少なくとも普通の学生として通っているのならばさぼりまくりはヤバいと思う。常識改変が効いていけなければ確実に留年である。
『なんか雑魚がこっちに色々きてるね』
乃愛が僕の脳内に直接そんな風に話しかけてくる。
雑魚って、いやまぁ、乃愛からしてみれば誰であろうとも雑魚なんだろうけれど。
中々大きな光だったけれど乃愛にとっては雑魚なのか……。
『色々こっちにきているから、博人も気を付けてね。私が博人を守るけどさ』
……僕には誰がどんなふうにこちらにきているかとか、異世界からやってきた人達の強さも全く持って理解が出来ないけれど乃愛がそう言うのならばそうなのだろう。
それにしても色々って、そんなにきているのだろうか?
僕はただ気づかないふりをするだけだけれども、その異世界からの来訪者のせいで面倒なことになるのは嫌だなぁとは思う。
さて、そんな僕の気持ちとは正反対に相変わらず異世界のものは僕の視界にちらほら入ってくる。
中には乃愛を崇拝しているものというか、乃愛を探しに来ているものもいるらしい。
この人たちは単純に乃愛を探しているだけで、この世界に害ある行動は起こしていないみたいだけど。
……乃愛の崇拝者、凄く多いなぁと僕は思った。
そしてそういう乃愛を特別視している人達も、誰一人乃愛のことを気づかない。
「何かが起こっている場所に、ノースティア様の姿があるはずなのに! いない! 何をしておられるのだろうか!」
「ノースティア様、我らが神!」
……なんだろう、杉山たちのいる場所に乃愛が現れると思っているのか、ちょくちょく学園でそう言った集団の姿が見える。中々煩い。正直授業の邪魔である。そういう声がはっきり聞こえているのに全く気にした様子もなくスルーしている乃愛は本当に周りに無関心すぎると思った。