運動会 ④
乃愛が走る番になる。乃愛はにこにこと笑いながら「いってくるね」と僕に言う。
乃愛は僕から離れたくなさそうだけれども、僕が行ってくるようにと告げたら乃愛は向かってくれた。
乃愛が僕の側からいなくなった後に、僕に話しかけてくるものはあんまりいない。たまにクラスメイトたちに話しかけられるけれど、それぐらいである。というか、僕に対して乃愛が異常に執着しているのを理解してきているからというのもあり、僕に話しかけてこないのだろう。その方が僕は楽なのでいいけれど。
乃愛の競技が始まったわけだが、やっぱり乃愛速い。それに何だかなめた様子というか……うん、僕の方見すぎじゃない? 手をふってくるし。そのくせ、乃愛はさらっと一位になっていた。二位の人が悔しそうにしていた。
乃愛の軽い様子を見ると余計にそう思うのだろう。
うん、乃愛はなんというか神様だからこその傲慢さがあるんだよね。乃愛を神だと知らなければそりゃあ、ただのなめている女の子にしか見えないし。
「博人ー!!」
走り終わった乃愛は、疲れた様子も全く見せずに僕の元へとやってきた。乃愛は嬉しそうな表情で僕に飛び込もうとする。いやいや、流石に抱き着かれるのは困る。僕が避ければ、乃愛は「むー」と言いながらこちらを不満そうに見る。
乃愛なら僕が避けようとも、僕に抱き着くぐらいは出来ただろう。でも乃愛は無理やり抱き着こうとしているわけではないんだよなぁ。
「博人、抱きしめてはくれないの?」
「……これだけ人が沢山いるしね」
「ふふ」
僕の拒否の言葉に、乃愛はにこにこ笑いながら僕の隣に座る。僕は乃愛と一緒に、競技を応援することにする。
「ね、ね、博人。私、頑張ったから褒めてね」
そう言いながら僕の方をじっと見る。
「うん。お疲れ様、乃愛。一着なのが流石だったよ」
「うんうん、もっともっと」
「ええっと、誰にも追随を許さない感じが流石乃愛って感じだった」
「もっと!」
「えぇ……うーんと、まるで走っている姿が女神みたいだった?」
「何で疑問形なの? なんて褒めようか悩んでいる博人もいいね。でももっと褒めてもいいよ」
とりあえずそんなことを言い出した乃愛の頭を撫でておく。撫でたら、乃愛は嬉しそうに笑って黙った。
昼ご飯の時間になったので、僕たちは母さんと父さんの元へと向かった。
昼ご飯までの間に杉山たちの活躍もあったけれど、流し見しかしてなかった。というか、乃愛が「私を見る!」といって、なんかすごい僕の顔、乃愛の方に向けてたし。
でも活躍していた影響でファンはまた増えていた様子は見ていた。女神様は嫉妬しているのか、なんか表情変えていたけれど。女神様って、本気で杉山のことが好きなのかな? 杉山が最終的に誰と結婚するのか、ハーレムになるのか分からないけれど、現代日本だと重複婚は出来ないし、どうするんだろ?
「博人も、乃愛ちゃんもお疲れ様」
母さんと父さんの元へ向かえば、母さんがそう言いながら笑顔で迎え入れてくれる。
「私は疲れてないよ! でも博人はちょっとお疲れかも」
「うん、まぁ、僕体力ないからね。暑いしちょっと疲れてはいるよ」
「だよね。ほら、博人」
乃愛は何だか僕を座らせると飲み物の準備をしたり、甲斐甲斐しく動く。僕が動こうとしても座って置くようになんていって、お弁当からおかずやおにぎりなどを取り分けてくれる。
って、何であーんって食べさせようとしているんだ。自分で食べるよ。
「乃愛、自分で食べるよ」
「私が食べさせたいんだけど?」
「……うん、自分で食べるからね」
そう言って僕は乃愛のあーんを回避して、食事をとる。
「ねぇねぇ、博人、美味しい?」
美味しいだろうかなんて口にして、乃愛は嬉しそうな顔をしている。
僕が美味しいと答えることが分かっているのだろう。というかさ、こうやって美味しいって聞かれて美味しくないって答える人はあんまりいないと思う。
「うん、美味しい。朝から作ってくれたものだもんね。ありがとう」
「いいよ。私には時間は幾らでもあるしね。博人のためなら幾らでも時間は使うし」
乃愛は実際にいくらでも時間は有り余っているのだろう。
乃愛の作ったお弁当は僕の好物ばかりである。僕が好きな味ばかりだし、乃愛も人間として暮らすようになってすっかり料理を上手にこなしていると思う。
美味しいなぁと思いながらお弁当を食べていると、騒がしい声が聞こえてきた。
それは杉山たちのいるエリアだった。杉山たちは凄く大人数で食事をしているようだ。というか、男女比率ヤバいな。男全然いないけど。あと女神様が杉山の隣を陣取っている。
そして料理がお弁当じゃない。フラッパーさんが異世界の権力使って作ってもらったのか、何だかあそこだけ宮廷料理みたいな謎空間……。運動会でその様子って中々変だなぁ。