運動会の準備 ④
あの生徒はしばらく学園にきていない。
これで不登校とかになられたら少し何とも言えない気持ちになるので、そのうち登校するようになればいいなとは思う。
乃愛があの調子だったので、翌日以降乃愛を遠巻きにするものたちは多かった。クラスメイトたちも何となく乃愛の性格を分かっている様子だったが、ああいう冷たさを見ると恐ろしかったらしい。乃愛に話しかけてこないクラスメイトも多かった。
乃愛は全く何も変わっていないし、乃愛はただ自分の好きなように行動している。
僕の傍にいるからにこにこしていて、無邪気な様子を向けているけれども乃愛は本質的にはとても冷たい。というより、周りをどうでもいいとさえ思っている。
いつもにこにこしているから、そういう冷たさをただしく理解していなかったのだろう。
昨日は杉山たちは運動会の準備の時に居なかった。多分何らかの用事があってさぼっていたのかと思われるけれど。
だからこそ、乃愛を一部の人たちが遠巻きにしているのを不思議そうにしていて事情を聴いていた。
「白井さんは本当に薄井のことが好きなんだな。でも他のクラスメイトとももっと交流をもった方がいいんじゃないか?」
「不要」
「不要って、そういういい方は――」
「不要」
乃愛が杉山の言葉に凄く嫌そうに簡潔にそう答える。
まぁ、乃愛にとってみればこの地球にいるのも僕が此処にいるからで、それ以上の理由はないぐらいだからなぁ……、
「貴方、光が――」
ルードさんが乃愛の言葉に文句を言おうとした瞬間、その場の時間が止まった。あー、乃愛が一瞬何かした?
「ねぇ、博人、こういうのも力使わない方がいい?」
「……うん、まぁ、出来る限り。だって乃愛は人間として此処にいたいんでしょ?」
「うん」
乃愛は僕の言葉に頷いて、すぐに時間を動かさせる。
「光が折角貴方を――」
「ねぇ、博人、これ美味しいよ。食べて」
完全に無視することを決めたらしい。
杉山たちが何を言っても乃愛は無視していた。僕の方にも視線が向けられていたけれど、なんか僕に杉山たちが何か言う前に杉山たちのことを乃愛が睨みつけて黙らせていた。
それにしても女神としての認識を表してもいなくても、それでもやっぱり乃愛は特別というか、目立つというか……。だからこそ、こうなのだろうなとは思う。
「ねぇ、博人。人間って面倒だね? 私が誰と居ようが私の勝手なのに」
「まぁ、それは完全に個人の自由だから、周りが色々言うことじゃないしね。でも乃愛はそれだけ目立つんだよ」
「目立つからって色々言ってくるの本当面倒」
昼休みに誰もいない屋上で、僕たちは会話を交わしている。乃愛は先ほどの事が嫌だったらしく文句を言っている。
でも乃愛が我慢して力を使わなかったことを思うと、本当に乃愛は我慢強くなったなと思った。
「でも乃愛、ちゃんと我慢していて偉かったよ」
「ふふ、でしょ? 私、博人と一緒にいるために我慢しているんだからね? もっと褒めてね?」
「うん」
乃愛の頭を撫でれば、乃愛が笑った。
「ねぇねぇ、博人。運動会で、私が活躍したらもっと面倒なのくる?」
「んー。来るかもしれないけれど、分からないかな。でも最低限、人間の枠組みに入る活躍だったら好きなようにしていいよ。でもあんまり活躍すると部活とか、あとは大会とかに呼ばれたり面倒だと思うよ。乃愛、別にスポーツ選手になりたいとかないでしょ」
「あるわけないじゃん。んー、じゃあ、そこそこ? そのくらいでも頑張ったらちゃーんと、ご褒美頂戴ね。いっそのこと、手を抜いてもいいのかなぁ」
「いや、練習でそこそこ運動神経いいの示しているからいきなりやったら手加減したのバレバレだから」
「そっかぁ。まぁ、変なのからんでこなきゃいいけど」
乃愛はそんなことを言った後に、ふと、僕に言う。
「そういえば、お姉ちゃんは運動会も見に来るかも」
「……女神様が運動会見に来てどうするの?」
「あの勇者の活躍みたいだけでしょ。また変なのついてきても博人のことは私が守るからね」
女神様がやってきたらまた杉山たちはさぼったりするのだろうか? 流石に自分の競技にはちゃんと出るかな? 女神様もそんなに杉山のことが気に入っているのだったら異世界にそのまま留めておけばいいのに。
杉山たちが行ったり来たりしているから色々アレだしなぁ。
僕は杉山たちが異世界で何をしているのかも知らないし、女神様がどんなふうに杉山たちに接しているかも詳しくは知らないし興味もないけれど、生徒とか校舎とかに被害がなければいいなぁと思った。
乃愛がいたらどうにでも出来るだろうけれども、なるべく乃愛の力も使わずにいられたらいいのになとは思う。だって乃愛は普通に人として生きようとしているんだから。