運動会の準備 ①
旅行を終えた翌日、僕と乃愛は学園に登校した。
乃愛が僕と旅行に行くことは伝えていたので、そのことで話しかけられる。流石に旅行に行くと言っておきながらお土産を買ってこないのもなということで、クラスメイトにお土産も買っている。まぁ、母さんが買ってきなさいとその分のお金もくれていたからというのもあるけれど。
乃愛と一緒に旅行に行かなかったら、僕はクラスメイトと喋りもせずにお土産も買ってこなかっただろう。というより、そもそも旅行にも行かなかった気がするが。
でも乃愛は手渡しはしないんだよなぁ。僕以外に愛想よくする気は全くなくて、「この席からとって」と適当である。でも嬉しそうにクラスメイトたちは取りにきている。
杉山たちもそうである。
というか、杉山は乃愛がノースティアという女神だとは相変わらず気づいていないが、クラスメイトとして乃愛と仲よくしようとはしている様子だから。
フラッパーさんたちの視線が凄い。
乃愛がノースティアだって知ったら彼らはどんな態度になるだろうか? 乃愛のことを警戒しているけれど、こんなに近くにいても気づかないのはちょっと面白い。
「ねぇねぇ、博人、お土産に皆群がっているね」
「言い方考えようね。乃愛」
「ん? 駄目?」
「うん。もうちょっと優しい言い方しようよ」
「ふふ、博人が言うならそうする」
乃愛は地球に少しずつ慣れてきていると思うけれども、やっぱり人としての感覚が本当にない。幾ら人間に擬態していても、乃愛はあくまで神様なんだなぁなどと引っ付いている乃愛を見ながら思う。
「博人、楽しかったね、旅行」
「うん」
「博人と同じへ――」
「乃愛、旅行の話はあとでしようね?」
「博人、周りは気にしなくていいよ?」
「僕は気にするの」
「そっかぁ」
「乃愛、急にクラスメイトたち見渡して脅そうとしない」
「あ、分かった? こっちの声聞かないようにーって言おうとしたのに。博人と楽しく旅行のこと話したいしさ」
「うん、駄目だよ」
……ナチュラルに、乃愛が女神としての力を使わずにクラスメイトを脅そうとしていた。
乃愛は女神としての力を使わなくても十分、強いからなぁ。
しかも乃愛がぎっとクラスメイトたちを見たからか、視線を僕たちからそらしているし。
……流石に同じ部屋で寝てたこと知られると、なんか色々クラスメイトたちに言われそうだし。
もうすぐ運動会が行われるということで、運動会の練習がこれから行われる。僕は正直あまり乗り気ではない。運動って苦手だし。でも最低限は頑張ろうと思う。
乃愛は運動神経も抜群なので、軽い調子である。というか、乃愛には練習はいらない。
僕は玉入れなどに出る予定だけど、乃愛が何だかすごく応援してくる。
「博人―、頑張れー」
「……乃愛、自分の練習は?」
「私練習いらないし! いらないけど、博人と一緒に帰りたいから待ってるの」
他のクラスの生徒たちもいるので、何だかすごい目で見られた。多分彼女が居ない人達だろう。それにしてもクラスメイトたちはすっかり僕と乃愛の様子に慣れているしな……。
乃愛に遭遇するまでの僕は、こういう視線を向けられることがない人間だったんだけどなぁ。
「ふふ、一生懸命運動会の練習している博人見るのも楽しい」
「良かったね……僕は玉入れしているだけなのに疲れたよ」
「あと、二人三脚の練習もしようね!!」
「うん」
乃愛は二人三脚にも僕と出る。あとは乃愛はリレーとか。というか、走る競技にクラスメイトたちは出てほしかったらしいが、乃愛は僕と二人三脚に出るとか言い出したのでこうなった。うん、乃愛は女神の力がなくてもそれだけの力はあるからなぁ。
運動会の練習は、僕には疲労するばかりである。
乃愛は家に帰った後、僕の肩を甲斐甲斐しく揉んだり叩いたりしている。気持ちが良いけれど両親の生暖かい目にも少しずつ慣れてきてしまっている気がする。
「博人、気持ち良い?」
「うん。ありがとう、乃愛」
「私が博人の肩たたきしたいもん。博人以外にはこんなことしたことないからね?」
乃愛はにこにこである。
あと旅行の時にやってくれたように足とかもマッサージしてくれた。
僕の部屋で乃愛が僕をマッサージしていると、クラも周りをうろついていた。というか、マッサージの邪魔もしていた。
マッサージしてもらった後は、クラを膝の上に乗せて撫でる。クラが嬉しそうにごろごろないている。乃愛は「私も!!」とかいってなぜか張り合おうとしてくる。僕が乃愛の頭を撫でれば、乃愛は嬉しそうに笑う。
……何だろう、乃愛とクラって中々似た者同士な感じだと思った。
それにしても運動会も、異世界関連の人たち来るんだろうか? あまり来ない方が平穏でいいけれど、杉山たちが居る限りきっとくるんだろうなぁ。