乃愛と、旅行 ⑧
「ふぅん、けっこう大きな建物だね」
「そうだね。僕も初めて来たけれど、歴史的な建造物って面白いよね」
「博人はこういうのが面白いんだね。まぁ、でも確かに人間が作ったにしては結構細かい作りかも」
乃愛はそんなことを言いながら目の前の神社を見ている。
折角なので、入り口の前で写真を撮ることにする。近くにいたおばあさんの観光客が写真を撮ってくれるというので乃愛と二人でとった。乃愛は僕がピースしていたら、真似してピースしていた。
写真撮影が許可されているエリアの写真を撮ったりもする。
あとはお祈りも。
乃愛に関しては相変わらず挨拶をしているみたいだけど。
そうやって見て回っていた時に、上空に何かを見た。
「乃愛、あれ、なに?」
「なんか落ちてるね」
「こっち来てる?」
「うん」
「……どうにかできる?」
「うん。ちょっと待ってて」
文化遺産の建物めがけて上空から何か落ちてこようとしていた。丸い物体。それが何なのか僕には分からなかった。
此処にそれが直撃しても多分乃愛は僕を守ってくれるし、僕の命に支障はないかもしれない。でも僕はこの建物が壊れるのは嫌だと思った。
歴史的な建造物で、ここが組み立てられるまでに多くの人の努力があって、一度壊れてしまえばきっとそれは戻らないものだから。
僕の言葉に乃愛は笑って、飛び上がった。
助走も何もなしに、ただ上空へとあがる。一瞬にして認識阻害をしたのが、上空へと飛び上がった乃愛に誰も気づかない。
僕だけが、乃愛を認識している。
というか、スカートだから中が見えそうなので視線をそらした。
乃愛はその落ちてきた塊を何をしたのか、一瞬で消した。なんか吸い込んだ? みたいに見えたけれど、異世界的な力は僕にはさっぱり分からない。
なんにせよ、乃愛が落ちてきた物体をどうにかしてくれたので僕はほっとした。
「博人、ただいま」
「おかえり、乃愛。ありがとう」
「いいよ、博人の頼みだし」
「あれなんだったの?」
「巨大な魔法鉱石」
「え? なにそれ?」
「異世界の資源の一種だね。あの大きさのものが漂っているダンジョンとかあるの」
凄いファンタジーな単語が聞こえてきた。
というか、鉱石って掘るものじゃないの? 漂っているってなんなんだろう……? しかもあんなに大きなものが漂っているって、中々危ないダンジョンな気がする。
しかもどうして上から落ちてきたんだろうか……?
「何で上空から落ちてきたかまではわかんないけど、まぁ、早々落ちてくるものじゃないから気にしなくていいよ。それよりまた見て回る」
「うん」
一先ず、乃愛の言う通り、毎回落ちてくるようなものではないと思うので一旦頭からあの落ちてきたものについてのことはどけておくことにする。
……でもどうして上から落ちてきたのか。また同じことがあったりしないかぐらいは後で考えておこうと思う。
僕が考えたところでどうにもならないかもしれないけれど、あらゆる可能性を考えていることは良いことだろうから。
「博人、人いっぱいだね」
「そうだね」
やっぱり土日だからか人もそれなりに多い。
昼までその神社を見て回った。僕ばかり楽しんでいるんじゃないかと思ったけれど、乃愛も結構楽しそうにしていたのでほっとする。
昼ご飯を近くのレストランで食べた。
「旅行って、博人と朝から晩まで一緒で楽しい!」
「……家でもあんまり変わらないでしょ」
「でも博人を独り占めだよ! 博人に話しかける人もいないし、クラもいないし、寝る時も一緒だし。とてもいい」
何だかそんなことを乃愛に言われる。
僕にとってまぁ、そこまでいつもと変わらないけれど乃愛は結構僕とずっと一緒にいるのが嬉しいらしい。
「またこうして旅行行きたいなー」
「……僕も学生だから行くならもっと大人になってからかな。大学生とか、社会人とか」
「ふふ、約束だよ? それまでに行きたいところ、考えないと」
僕も口にしていて、乃愛と一緒に将来もいるのが当たり前みたいな気分になっているなぁと思った。
……やっぱり僕は神様である乃愛が僕に飽きる日は来るんじゃないかなってなんとなくは思っている。だって正直乃愛が僕をずっと気に入っているってなんか信じられないし。うん、僕はそんなに魅力ないと思うし。
でも逆に、乃愛がずっと一緒に居る気分にもなっている。
うん…、僕乃愛が居なくなれば寂しいとは思いそうだからなぁ。
というか、乃愛は僕に飽きたらどうするんだろう? 玩具に飽きた子供のように処分……うん、流石にそれはしない気がする。ただ離れるだけかな?
「博人? 食べないの?」
「食べるよ」
乃愛の不思議そうな声に、僕はそう答える。
まぁ、今は気にせず旅行を楽しもう。
昼ご飯を食べて、僕と乃愛は滝を見に行くことにした。
また移動である。