乃愛と、旅行 ⑦
何だか柔らかい感触がする。
僕は何に触れているんだろうか? なんだろう、これは?
なんて思いながら、意識が起き上がってくる。
ああ、そうだ、眠っていたのだ。
「ふふふ、博人、もっと触る?」
そんな楽し気な乃愛の声が聞こえてきて、僕の意識は覚醒する。
目を覚ました僕は思わず手を引っ込めた。
だって、僕の手は乃愛の胸に触れていたのだ。というか、別々の布団で眠っていたはずなのに、なんで向き合っているんだろうか。あと近い。
「乃愛、ごめん!」
「胸をもんだこと? 気にしなくていいよ? 博人なら幾らでももんでいいよ?」
そんなことを言いながら、胸を突き出してくる乃愛。
柔らかかったって違う! そういうのはしない。僕が拒否すれば乃愛は残念そうな声をあげる。
「ねぇねぇ、博人、まだ朝早いからもう少し寝ててもいいんだよ? 私のこと、抱き枕にしても可!」
「いや、しないから、起きるから」
そう言いながら起き上がったら、乃愛は「じゃあ、着替えさせる?」などと聞いてきた。首を思いっきり振っておいた。
……本当に羞恥心がなさすぎじゃない? 奔放な感じは神様って感じだけど。
僕はまだ少し眠いけれど、乃愛は全然眠たくないらしい。僕が顔を洗ったりするのを見ながらにこにこしている。
「乃愛、朝ごはんはバイキングだから行こうか」
「うん!!」
この旅館の朝ごはんはバイキングである。朝食を食べるために僕と乃愛は、その会場に向かった。朝早い時間だからか、あまり人は少ない。もう少し時間が経ったら混むだろうから先にさっさと食べることにする。
乃愛は朝からあれもこれもと沢山お皿に載せていた。
「博人、これ、食べる?」
「僕は自分の分はとっているから大丈夫」
「そんなこと言わずにさ、あーんって」
「……少ないとは言え、人いるからね?」
「それか、博人も私にあーんってしていいよ!」
「やらないよ?」
そんな会話をしながら朝食を食べた。
あとからバイキングの会場にやってきた男たちに恨めしい目で見られてしまった。彼らは男だけでの旅行らしい。
朝食の後に部屋へと戻る。
もうしばらくしたら荷物をまとめて出るのだが、まだ時間があるからと乃愛はもう一回露天風呂に入っていた。朝風呂というものである。
それはいいのだけど、裸のまま戻ってこようとするの、本当にやめない?
その後、荷物を纏めてチェックアウトする。
バスに乗って神社に向かう予定なので、事前に調べていたバス乗り場へと向かう。
「なんか朝だけどそこそこ人いるね?」
「良い天気だし、観光地だからね」
僕と乃愛が乗ろうとしているバスは、観光地を通るバスなのでそれなりに人がいた。あとは天気が良いからというのもあるだろう。これで雨だったらもっと人は少なかったはずだ。
雨の日だと観光地を巡るのも結構億劫になるので、晴れて良かったと思う。
「天気ってそんな大事?」
「うん、大事だよ。濡れたら嫌じゃない?」
「あんまり気にしたことなかった。晴らせばいいだけじゃない?」
「普通の人は晴れにするなんて出来ないから。乃愛もこっちではそれしないようにね」
……乃愛って、異世界だと自由気ままに天気を変えたりしていたのだろうか。
そもそも天気を変えるってどうするものなのだろうか。僕にはさっぱり想像もつかない。
物理的に雲とかをどうにかするとかそういう感じなのかな。
バスに乗り込んで、後ろの方の席に座る。
隣の席に座るのはいいけれど、くっつきすぎだと思う。
「乃愛、ひっつきすぎ」
「いいじゃん。博人にくっつきたいもん!」
そんなこんな言っている乃愛に押し切られて結局乃愛は僕にべったりだった。旅行で気分が高揚しているのもあって押し切られてしまったのだ。僕も結構、旅行を楽しんでいる。
そういえば、乃愛って神様だから異世界だと乃愛を奉る社とかあったりするんだろうか?
異世界だと神様が実在する場所で、人と関わっている場所みたいだからより一層崇拝のための場所とか、祈りとかあるのかもしれない。ただ気まぐれで自由気ままな乃愛がその信徒の祈りをどのくらい聞いているのかは分からないけれど。
僕にくっついて嬉しそうにしている乃愛は、力を使ってなければただの女の子にしか見えない。
神様かぁ……と改めて考えると不思議な気持ちになるが、すっかり乃愛と過ごすのも慣れてしまった僕は神様だろうとも乃愛は乃愛だしなとしか思えなくなっている。
「博人、神社ってお祈りするところなんだよね?」
「そうだよ。あとは建築物が古くて見どころ満載なんだよ。ああいうのは」
「ふぅん、そっか! 私も挨拶しようと」
乃愛はやっぱりお祈りではなく、挨拶らしい。
そんなこんな話しながらしばらくバスに揺られて、目的地に到着した。
結構同じ場所で降りる人も多かった。




