乃愛と、旅行 ③
「んー」
電車から降りて、腕を伸ばす。
少しだけ長い時間電車に乗っていたので、身体が少し硬くなっていた。
乃愛はそんな僕の様子を見ながら何が楽しいのか笑っていた。
そしてまずは予約している旅館に荷物を置く事にする。体力がない僕が荷物をきつそうにもっていたら、「持とうか?」なんて乃愛が聞いてきたけれどそれは断っておいた。
というか、絶対に女性の乃愛に持たせていたら僕は情けない男としか見られないし。結構観光客もいるしね。
僕と乃愛は、旅館にたどり着く。
事前に荷物を置ける旅館なので、荷物を預けて旅館の外に出る。
「こうやって荷物を簡単に預けるって、やっぱり此処って治安いいよね」
「旅館にもよるかも。すべての人が絶対に善人であるかというと、そうではないだろうし」
「でも治安いいよ。向こうだと、結構人が死ぬこと多いからね」
やっぱり日本と違って、異世界は物騒な部分が多かったりするらしい。日本でも突然の事件に巻き込まれて命を落とす人は当然いるけれども、此処で生きているよりもずっと、異世界は命を落としやすいのだろうなと思う。
そう言う世界で特別な存在で、神様である乃愛は改めて考えると僕の隣にいることが不思議な存在である。
「博人、初めに川下るんだよね?」
「うん」
旅館から少し離れているので、電車に乗って乗り場へと向かう。朝早くから向かっているので、あんまり他のお客さんもいないかな? そんなことを考えながら乃愛と一緒に向かう。
実はこういうのを経験するのは初めてなので、結構楽しみだったりする。
ただこういうのは、川の上を下るわけだから何か事故とかあったら大変だけど。やっぱり自然の力というのは怖いから、そういうのも念頭に置いておきながら乗ろうと思う。
「博人、落ちたらどうしようとかも考えているの? 大丈夫だよ。私は博人のことを絶対に守るからね?」
「……ありがとう」
うん、本当に乃愛は本当になんでも出来るような神様だから、そういうことも出来るんだろうなとは思う。
そんな会話を交わしながら乗り場にたどり着く。お金を払う。ついでに他の観光地とのセットプランがあったので、一緒に購入しておく。
朝の早い時間だったけれども、僕ら以外にも乗っているお客さんはいた。
川を下る用の小さな船に乗り込む前に、乃愛が嬉しそうにパシャパシャ写真を撮っていた。
「はしゃぎすぎてカメラを川に落としたりしないようにね」
「大丈夫だよ。落とさないよ」
本当かな?
見ている限り乃愛はとてもはしゃいでいるので、落とさないかなと少しだけ心配になる。
船に乗り込んで、船頭さんの操る櫂によって小さな船が進んでいく。
水が増水している時期だったらしく、水しぶきがかかったりもする。
観光スポットの案内を船頭さんがしてくれたり、野生動物の姿が見えたりもする。
あと秋なので、紅葉もとても綺麗に色づいていた。こういう自然の風景って、写真に撮るとまるで一枚の絵画が何かのようだ。
風景を撮ればいいのに乃愛は僕ばっかり撮っている。僕は乃愛からカメラを受け取ると風景だけも写真を撮った。
ところどころ水がかかるポイントがあるらしく、そういうポイントでは注意をされる。そこそこ水はかかったけれど、迫力満載で僕は結構楽しかった。
終わった後は、乗り場までバスで送ってくれるらしいので一旦バスが来る場所で待つことにする。
「博人、ああいうの好き? もっと迫力あるのを提供しようか?」
「いや、いいよ。しかもそれ何する気?」
「んー。空から落とすとか、激流の滝で博人を抱えるとか」
「絶対にやめようね」
乃愛ならそういうのも簡単に出来るだろうけれど、そうやって断っておく。
バスを待っている間に近くにあったお店で飲み物を購入して、飲む。
乃愛はそんな様子の僕を見て、にこにこしていた。
それにしても旅行が始まってから乃愛はずっとにこにこしているなぁ……と思ったのだけど、同じくライン下りに参加していた男性に話しかけられた時は、表情をがらりと変えていた。
話しかけてきた男性グループは、乃愛と仲良くしたかったようだが、乃愛からしたらどうでもいいのだろう。
そうやって過ごしているとバスが到着したので、一旦乗り場まで乗せてもらうことにする。
乗った場所から、ロープウェイまでのバスが出ているらしいのでそれに乗る予定である。
「博人、次はロープウェイっての目指すんだよね」
「うん。山を登るんだよ」
「歩いても行けるのに、こんなのに乗るんだね」
「乃愛には簡単かもだけど、僕はロープウェイの距離を歩くのは勘弁したい」
歩きで登る道も当然あるわけだけど……、正直言ってそうやって歩きで乗るのは勘弁したい。そういうのが趣味な人とか、体力が有り余っている人はありかもしれないけれど、僕は基本そういう運動をしない人間だからなぁ。
乃愛ならば簡単に登り切るというか、やろうと思えばびゅーんと飛ぶぐらい出来そうだけど……。




