乃愛と、旅行 ①
運動会の前に、僕と乃愛は旅行の準備をしている。
文化祭が行われる前に、乃愛と話していた一泊二日の旅行は運動会前に決行されることになっていた。
というか、乃愛が張り切ってさっさと決めてしまったから。
僕も一泊二日で個人的に出かけるとか、ほぼないし、何だか不思議な気持ちになる。
「ねぇねぇ、博人。旅行の準備って、こんなに荷物いるの?」
「着替えとかは最低限いるでしょ。……まぁ、乃愛は別に着替えなくても清潔保てるのかもしれないけど、僕はそんな能力ないし」
「そうだね。下着も可愛いのにしといた方がいいよね! 博人も見る?」
「見ないから!」
結局母さんと乃愛に押し切られて、同室だし。神様で、とても強い力を持つ乃愛を相手に襲うなんて僕は出来ないけれど、そういうの心配したりしないんだろうか。
……まぁ、乃愛のこの調子だと僕がそういうことをしても喜ぶだけなのだろうけれども。
というか僕の服も乃愛が準備するのが多いのだけど……。僕は服にそこまで関心はないから乃愛が選んでくれるのは助かるけどさ。
乃愛をちらりと見ると、準備の段階から乃愛はとても嬉しそうだ。
「乃愛、ご機嫌だね」
「うん。だって、博人とお泊りでお出かけだよ! 楽しい以外の何もないでしょ?」
「そう……」
「うん、博人も楽しみ?」
「うん。僕もこうやって泊りがけで出かけるのはあんまりないから」
僕がそう言ったら、乃愛は嬉しそうに笑っている。
それにしてもこういう風に旅行の準備をするのもやっぱり不思議な気持ちになる。僕は基本的に外にあまり出ないというか、結構一人で過ごすことが好きな方なので、こうやって誰かと泊りがけで出かけるなんて考えた事もなかった。
なのに、そんな僕が乃愛と泊りがけで出かけることを楽しみにしている。
見た事がないものを見れることも何だか楽しみだし、単純に旅行って楽しいと思う。
「乃愛は乗り物酔いとかもしない方?」
「乗り物酔い?」
「うん。人によっては、乗り物に乗ると酔ったりとかもするんだよ」
「そんなのしないよ。博人は酔うの?」
「僕はあんまり酔わない方だよ。でも酔わないなら良かった。色々回れるね」
乗り物酔いがしやすいと、どこかに出かけるのって結構大変だもんなと思う。
僕はあまり乗り物酔いはしないほうだけど、乗り物酔いする人は大変だと思う。
「紅葉も綺麗に見れるだろうし、折角だからカメラも購入してもいいかも」
「それいい!」
折角旅行に行くならカメラを購入しててもいいかなという話になった。というか、母さんがそれも買っていいよと言ってくれたので、デジカメも購入しに行くことにする。というか、母さんも父さんも、僕と乃愛が仲よくしているのを嬉しそうにしているんだよなぁ。
乃愛が僕の幼馴染っていうのは、完全に乃愛の常識改変の結果で、事実ではないけれど……まぁ、母さんたちも嬉しそうにしているならいいかなと思う。
「乃愛は、何処を見たいとかある?」
「んー。こういう滝とか見に行きたいかも。飛び込みたい!」
「……滝に飛び込むのは、やめた方がいいよ」
「私は風邪とかひかないよ?」
「それは知っているけど、周りからしてみればおかしいからね」
僕がそう言えば、乃愛は少し不満そうに頷いた。
「乃愛、代わりにライン下りとかする?」
「ライン下り?」
「うん。川を下るやつ。結構楽しいと思うよ」
僕も経験したことはないけれど、スマホで見た限りとても楽しそうだと思う。
少しこの季節だと肌寒いかもしれないけれど、紅葉も見れるし、気持ち良いんじゃないかなと。
「ふーん」
乃愛は僕のスマホを覗き込んで、ライン下りに興味津々である。でも次にこんなことを言う。
「ねぇねぇ、こういうのやりたいなら私が博人を抱えて川を下ろうか??」
「え、何それ」
「ほら、こうやって」
「待って、僕を抱えようとしないで」
「えー」
乃愛が僕の背後に回って、僕のことを両手で抱えようとしていたので慌てて止める。
いや、まぁ乃愛ならば僕のことを抱えて水面を下ると言うか、そういうのも出来るだろうけれど。
……ちょっと楽しそう? とは想像してみたら思ったけれど普通の生活を求める僕はそういうのはやりたくないからね。
それにしてもこうして旅行の予定をつめていくのは結構楽しい。
……学園に行った時に、乃愛が「博人と二人で旅行に行くのー」なんて言いふらしていたので、すっかりクラスメイトたちにも乃愛と出かけることを知られてしまった。
僕と乃愛は恋人でもなんでもないのでだが、その事実はそれはそれで「付き合ってもないのに二人で旅行はおかしいだろ」って言われた。客観的に見るとそれはそうだよななんて思ったりもした。
あと旅行に行く前に、母さんと乃愛と一緒にカメラも買いにいった。乃愛がパシャパシャと写真を撮ってみて面白そうに笑っていた。撮っているのはいいけど、試し撮りで僕のこと、とりすぎるのはやめてほしい。
読書している僕とか、どこにも需要はないだろう。