文化祭でも気づかないふりをする ⑥
乃愛が飛び出してから、僕はどうしようかなと悩んでいる。
そして乃愛が隣にいないことに、僕は乃愛が隣にいるからこそ文化祭を楽しんでいたのだなと実感した。
だって僕は乃愛がいない文化祭は、正直こんなに楽しんでいなかったから。
一度目の文化祭の時もそこまで色んなものを見に行ったりしていなくて、結構本を読んだりしていた気がする。
そう考えると僕も乃愛に結構影響を受けている。
周りに悟られないようにちらりと校庭に視線を向ければ、なんか赤髪の炎を纏った男が見えた。なんか漫画とかにいそうだ。……というか、急に熱を感じたのはあの男のせいか。
それと対峙しているのは、杉山たちだ。で、その間に乃愛が割って入っていた。
うーん、なんか普段の様子と違うなぁ。
最近の乃愛は文化祭で頑張ればご褒美がもらえるってにこにこしていたし、特に怒っているなあ……って思った。
僕は乃愛が戻ってくるまで、少し時間をつぶすことにする。
外ではダンス部のダンスが行われているので……それを見るふりをしながらそのすぐ近くでドンパチやっている様子を見る。
ダンス部の生徒たちも、常識改変がきいていて横でこんなことが起きているの気づいていないのだろうけれど……、うん、改めて見ると不思議な光景だ。
ちょっと熱がっているのに、本当に大丈夫だろうかといった気持ちになった。
乃愛が炎を纏った男を氷に閉じ込めていた。うわぁ……綺麗な氷の像みたいになっている。杉山たちがなんか言っているけれど、乃愛は無視しているみたい。というか、杉山たちも凍らされていた。
『勇者』とその仲間が氷の像にされる。
あれ、ちゃんと溶けるんだよね? 殺してはいないと思うけれど……、『勇者』を氷の像にする神。邪神っぽい。
なんて思っていたら、なんか飛んできた。
あれは女神様の依り代? 乃愛が杉山を凍らせたからきたの?
それにしても女神様は杉山のことを気にしすぎでは?
なんて思っていたら、乃愛は不機嫌そうだ。不機嫌そうな乃愛が女神様に何か言うと、女神様は凍った炎の男をそのまま連れて行った。
そして杉山たちは女神様に溶かされていた。
乃愛はそのころには杉山たちに対する興味をなくしたのか、もう杉山たちが乃愛を認識しないように何かしたらしい。
「あれ? ノースティア様は?」
「何があったのかしら」
「え?」
「……まだ周りを警戒したほうがいいだろう」
なんかきょろきょろとしたり、警戒していたり大変そうだ。
そうしている中で、乃愛が僕と目が遭う。
乃愛が先ほどまでとは違った表情を浮かべる。満面の笑みだ。嬉しそうな笑みを浮かべて、乃愛が地面をける。
そしたら目の前に飛び上がっていて、驚いた。
「博人、ただいまぁ」
「……おかえり、乃愛。周りが気づいていなくても、浮いているとおかしいから、こっちに戻っておいで」
「うん!!」
乃愛は僕の言葉に、嬉しそうな顔を浮かべて、窓の外から僕の隣に戻る。
「乃愛、お疲れ様」
「全然疲れてないよー。でも本当に楽しい文化祭を邪魔しないでほしいよね! 博人が怪我しちゃうかもしれないもんね」
「あれ、どうなったの?」
「お姉ちゃんに連れ帰ってもらった。だから少なくとも今日はもう来ないと思うよ。だからね、文化祭を思いっきり楽しもうよ」
「うん」
とりあえずあの炎を纏った謎の男はもう文化祭にやってくることはないらしい。今日は……という言葉が少し気になったけれど、まぁ、今日は来ないならいいとしよう。
それにしても今までやってきた異世界のものたちってあんまりこちらに危害が加わりそうなものはなかったけれど、ああいうのもいるんだなと思った。ああいうのも来るなら大分危険だと思うけれど……。
でも乃愛から小声で聞いた話によると、あの炎の男は馬鹿らしい。それで杉山のことをライバル視していて、何も考えずに力を使っただけなんだとか。だから女神様に今怒られているだろうとのこと。
……というか、そういう考えなしの人までこっちにきているの?
「博人のことは私が守ってあげるから、心配なんてしなくていいからね?」
「ありがとう」
「ふふ、当然だよ。それより、博人、次はどこにいく?」
「じゃあ――」
そうしてその後も僕と乃愛は、文化祭の催しを思いっきり楽しんだ。今までの僕の文化祭の中でも一番充実した文化祭だった気がする。
乃愛がいるから思いっきり乃愛が楽しめる文化祭にしようって色々一緒に見て回ったからなぁ。
そういえば杉山たちは乃愛のことを探していたらしい。それで乃愛が何か起こすのではないかと心配していたのか、何か起こらないかと警戒していたようだ。
……警戒して学園中を見て回っていた結果、あんまり執事&メイド喫茶にはいなかった。
「ノースティア様は何をしにきたんだろうか」
……そんなつぶやきを聞いた僕は思わず心の中で何をしにというより、元から学園にいるし、すぐ近くにいるよとちょっと突っ込んでしまった。
乃愛は自分の名前を出されても気にした様子がなく、僕にべったりしていた。
そして文化祭は終わった。