文化祭でも気づかないふりをする ⑤
本日は文化祭二日目。
大きな学校とかだと、文化祭が一週間ぐらいあったりするらしいけれど、僕たちの通っている学園では二日間で終わる。
乃愛は朝から今日も元気だ。
僕に抱きしめてもらうのを楽しみにしているらしい。……両親の前でその調子は流石に恥ずかしいんだけどな。
「ねぇねぇ、博人、今日も沢山、二人で文化祭の思い出作ろうね」
「うん」
僕が頷けば、乃愛も嬉しそうににこにこ笑っている。
そういえば今日も女神様はいるのかなと軽く乃愛に聞いたら「今日は来ないみたいだよ」と言っていた。
いつ女神様と連絡を取ったのだろうか?
女神様がいないにしても、杉山たちは何か起こすものなのだろうか。
まぁ、正直杉山たちが何か起こそうとも僕にはどうすることも出来ないので放っておくだけだけど。……ただ流石に色んなものに影響がありそうなら乃愛に頼むかもだけど。
乃愛は文化祭を本当に楽しみにしている。だからこそ、なんか面倒なことが起きない方がいいなとは思っている。
「博人、今日もちゃんと良い子でいるから抱きしめてね」
「……うん」
なんか改めて言葉にされると恥ずかしいな。乃愛は多分本当に大人しくしているだろうから抱きしめることになるだろう。……うん、なんか考えてみると全然落ち着かない。
「ふふ、博人、考えてドキドキしている?」
僕の考えていることをお見通しだったのか、耳元でささやかれて、思わずびくついてしまう。
そんな僕を乃愛は面白そうに見ている。
そう言うやり取りを両親に微笑ましい目で見られるから余計に恥ずかしい。
それでそういうやり取りをした後、僕と乃愛は学園に登校した。今日も僕と乃愛は裏方なので、のんびりと過ごす。最も今日は杉山たちも真面目に過ごしているので、結構忙しいけれど。
相変わらずキャーキャー言われているなぁと思う。
ちなみに美男美女コンテストみたいなのをやっているらしく、それに杉山も参加するらしい。杉山たちはとても見た目が良いので、優勝するかもしれない。
乃愛もとても見た目が良いので、乃愛が本来の姿で出たら優勝するんだろうなと考えながら乃愛を見る。
「博人どうしたのー?」
「いや、乃愛は美男美女コンテストに参加したら優勝しそうだなと思って」
「博人が参加してほしいのならば、私も参加するよ?」
「……いや、それは参加しなくていいよ」
「そっか」
「何で嬉しそうなの?」
「博人が私のことを独占してくれているのかなってそんな風に思えるもん」
「いや、まぁ、うん。乃愛が誰かにべったりしていたらちょっと複雑な気持ちにはなるかもだけど」
だって乃愛は僕にべったりくっついている。僕の名前を楽しそうに呼んで、嬉しそうににこにこしている。僕はそんな乃愛に慣れてしまっている。乃愛が僕の側から離れたら少し寂しくなるだろうし、ちょっと複雑な気持ちになるだろう。
そのことを素直に口にしたら乃愛が嬉しそうに笑って僕にべったりとくっついた。
「博人、私はずーっと博人の傍にいるつもりだからね。博人が嫌って言っても博人の傍にいるから」
「はいはい」
そう言う会話を交わした後、僕たちは相変わらずの裏方業務を行った。
それで昨日と同様に自由時間が与えられた。というわけで今日も僕と乃愛は一緒に見て回ることにした。昨日見て回っていなかったところを見ることにする。
まぁ、全部を見て回ることは出来ないので今日は吹奏楽部の演奏会を見に行った。僕は楽器を演奏することは出来ないので、そういう演奏を出来る人は凄いなぁと思う。
乃愛は結構退屈そうにしていた。
乃愛はやっぱりこういうのには興味がないんだろうな。僕も少し眠くなる。
「博人、自分で見に来たのに、退屈?」
「まぁ、ちょっとは眠くなったけれど……」
そんな会話を小声でしながら会話を交わしていれば、演奏会が終わった。その後、ぞろぞろと体育館から出ていく観客たちと一緒に体育館の外に出る。
その時に、なんか熱のようなものを感じた。
「……いや、なにこれ」
「あー、なんか来たね」
「え?」
「火を操る存在がやってきている。多分、『勇者』のことを気にしてだと思うけれど」
「いやいや、こんなに熱気感じるのヤバいよ。近くにいないのにこんなに熱いとか……怪我人とか出るんじゃ」
「うん。博人はあいつに燃やされたらヤバいと思う」
「だよね……」
うわ、そういう恐ろしい存在がこの学園にやってくるとか本当にやめてほしい。
別に一般の学生に影響がなく、杉山たちの間だけで全てを完結するのならば問題ないけれど、こっちにまで影響がされると困るなぁ。
そんなこんな話していると、視界に炎が映り――やばいと思った瞬間にそれは消えた。
乃愛が消したらしい。
「私の博人が火傷してしまうじゃん。そういう馬鹿な奴はどうにかしないと!」
乃愛はそんな言葉を口にして、何かを行った。何をしたかは分からないけれど、冷気がこの場を支配する。感じていた熱が、生命の危機の感覚がなくなっていく。
「博人、此処でちょっと大人しくしてて」
そう言って乃愛は僕の周りに何かする。何をしたかは分からないけれど、多分、僕を守ってくれるものだろう。
そして乃愛は窓から飛び出た。