文化祭でも気づかないふりをする ②
それにしても女神様の依り代の姿を見て、ぽーとした表情を浮かべている人たちが結構いる。やっぱり見た目が良いとそれだけ目を引くのだろう。
「博人は見惚れてないね」
「乃愛で見慣れてるから」
うん、最近は乃愛が傍にいるから綺麗な顔をしている人っていうのは見慣れている。あと別に女神様がとても綺麗な見た目をしていようが、僕にとってはどうでもいいから。
乃愛は僕の言葉に嬉しそうに笑った。
「ひかる、今日は私をエスコートしてください」
「もちろんです。女神様」
「今の姿では名前で呼んでください。イミテアと」
「はい。イミテア様」
なんかラブコメしているなあ。
女神様が嬉しそうな顔をしている。それにしても何だろう、やっぱり女神様っていう呼び方じゃなくて、名前で呼ばれた方が嬉しいのだろうか。
それにしても女神様と杉山が良い雰囲気になっているからか、周りの視線が中々恐ろしくなっている。杉山はモテるから、杉山に好意を抱いている存在からしてみれば女神様は突然現れた女って感じなのだろうか。
……その状態で平然としている杉山ってやっぱり凄いと思う。うん、ハーレムを築く資格があるというか。僕はギスギスした雰囲気の段階でまず無理だ。そういうことにはならないだろうけれど、なんかそういうギスギスした三角関係みたいなのとかになったら僕は逃げそう。
というか、僕は乃愛だけで精一杯だからなぁ。
女神様は杉山から執事として奉仕されて、嬉しそうな顔をしている。
何だか気づけば、女神様専門の執事になってない? 他にもお客いるよ? と思いつつ、多分常識改変を行って女神様以外に接客しなくても違和感がないようになっているみたいなので、口出しをすることはやめておく。
そう言う風に自分に都合よく常識を書き換えて楽しそうにしている様子は、やっぱり女神様は神なんだなと思う。乃愛にしてみてもそうだけど、神様だからこそ、自分の思い通りに世界が動く事は当然でそれ以上のことはない。だからこそこうして周りを自在に動かしても罪悪感なんて感じないし、寧ろそれが当たり前だと思っている。
フラッパーさんたちも相手が女神様だと、あまり強くは言えないみたいだ。……これ、女神様が杉山と恋仲になった場合、どんな風に落ち着くのだろか。
そんなことを思いながらちらりと窓から外を見れば、女神様が連れてきたドラゴンたちは校庭で思いっきりくつろいでいた。学園の校庭でドラゴンたちがくつろいでいる光景って違和感ありすぎる。周りが何も騒いでいないからスルーするけれど。
ドラゴンって、自然界の王とかそんな感じがするけれど案外大人しいんだなぁ。いや、これは女神様が一緒に連れてきたドラゴンだからだろうか? やっぱり異世界だと敵キャラのボスにドラゴンとかいたりするんだろうか。
そういう強者であるドラゴンも当然いそうな気がする。
杉山は『勇者』なんて立場で異世界に行った様子なのでもしかしたらそういうドラゴンとも戦ったりしていたのかもしれない。『勇者』が敵対するドラゴンと戦いあうなんてよくある物語だし。
こういうドラゴンって、前に海で見かけたドラゴンとは別なのだろうか? あの時のドラゴンみたいにサイズを変えられたりとかもするんだろうか。
あとくつろいでいるドラゴンの周りに人影があるけれど、彼らってなんだろう? 女神様の使徒とか、配下とかそんな感じなのだろうか。一生懸命ドラゴンたちの世話をしているようだ。でも中にはそれが気に食わないと思っているドラゴンもいるのか、一人がドラゴンの尻尾に薙ぎ払われていた。
……案外大人しいとさっきは思ったけれどそれは違うみたいだ。
というか、お世話をしている存在を吹き飛ばすとか怖くないか? 僕だったら尻尾で薙ぎ払われた時点で死んでいる。吹き飛ばされた人影は流石女神様が連れてきた存在というべきか、普通に空を飛んでいた。なんか先ほどまでなかった真っ白な翼がはえている。それ、出し入れ自由なの?
……もしかして天使とかそういうやつ? 異世界からの存在には少しずつ慣れてはきているけれど、そういう天使っぽいのを見ると思わなかった。でも結構いかつい見た目の男の人に天使の羽がついていると何とも言えない気持ち。イメージとしては穏やかそうな美形や美女が天使みたいなイメージだったけれど、天使にも色々あるのだろう。
上司(女神様)に付き合って異世界にまでやってきて、ペット(ドラゴン)の世話を任される。うん、大変そうだと思う。しかも異世界にやってくる理由が女神様が『勇者』である杉山の学園の文化祭を見に来るためとか……うん、大変だ。
そんなことを思いながら天使っぽい人達に少し同情した。
「博人ー、あの人たちいなくなったね」
「あ、本当だ。どこいったの?」
「お姉ちゃんが見て回りたいっていったから一緒にどっかいった」
「あー」
女神様が一緒に文化祭を見て回りたいといったから、杉山は仕事時間中だがそれを放棄したらしい。
『勇者』である杉山からしてみれば、そういうクラスで決まったことよりも、女神様の言うことの方が重要なのかもしれない。