文化祭でも気づかないふりをする ①
文化祭がようやく始まる。文化祭の準備はちゃんと進められ、もうすぐ始まると学園内はざわめいている。
乃愛は相変わらず僕の側でにこにこ笑っている。僕の側から離れる気はなさそうで、加えてクラスメイトたちも乃愛を僕の側から離そうとは思っていないようである。
杉山たちは落ち着かない様子を見せている。
女神様がくるからだろうか? やっぱり『勇者』なんて立場だったとしても、女神様相手だと緊張するものなのだろうか。
乃愛が異世界の神様だって気づいていないから女神様のことしか気にかけていないようだけど。
それにしても神様が二人も参加する文化祭って中々ないんじゃないだろうか。
……二度目の高校二年生が始まった時は、全然想像もしてなかったな、こんな文化祭になるなんてとちょっと遠い目になる。
何だかんだ僕は乃愛がいることに慣れてしまったし、杉山たちや異世界のことにも慣れてしまっていると言えるけど……でもやっぱり突っ込みを入れたくなることは当然ある。
冷静に考えてみると、異世界の神様が僕の隣にいて、別の異世界の女神様が文化祭にやってくるっていうのも色々突っ込みどころ満載である。
僕らのクラスの『執事&メイド喫茶』は朝から大変人気であった。僕と乃愛は裏方で、料理を作ったり、飲み物の準備をしたりとせっせと動いている。
その時にちらっと接客している教室を見れば、杉山は大変もてもてだった。異世界の女神とか、異世界の住人とかにも好かれているけれど、杉山は見た目もいいので普通の生徒たちにも好かれているし。しかし取り合いみたいになってない? 大丈夫? 僕は行ったことがないけれど、漫画とかで見るホストとかの取り合いみたいな気がする。杉山ってそういうのも似合いそうだよなぁ……。
「なんか囲まれて大変そうだなぁ……」
「博人はあんなふうに囲まれないでね」
「……僕はあんなにもてないから大丈夫」
何だか乃愛がよくわからないことを口にしたので、僕はそういっておく。
乃愛は多分、お気に入りのものを誰かと一緒に共有するなんて許さないタイプだと思う。僕もそちらの方が気持ちがわかる。フラッパーさんたちと杉山はどんなふうになるんだろうか? だれも傷つけたくないとかならハーレムとかになるのか? ああいうタイプのハーレム系主人公って誰か一人選ぶって言うより、全部受け止める感じがするんだよな。
「博人、あーん」
「乃愛……駄目だよ。それはお客さんに出すようだからね。自由時間に他のクラスがやっているお店で買って食べようよ」
「分かった」
乃愛がお客さんへの注文分を用意している間に、僕に食べさせようとしてくるのでそう言っておく。
そうやって文化祭の裏方として動いている中で、窓の外に不思議なものを見かけた。
それはドラゴンである。
……かっこいいななどと思いつつ、僕は遠い目である。
しかも一匹じゃないし。
なんなの??
普通の学園の外で、ドラゴンが浮いているってなんなのだろうか。
数匹のドラゴン。牙が鋭くて僕はちょっと怯む。それにしてもドラゴンってかっこいいなぁ……。
「乃愛」
「お姉ちゃんだね!」
僕が乃愛に声をかければ、そんな風に満面の笑みで言われる。
ああ、やっぱり女神様か。いや、女神様だっては思っていたけれど……でもこんなドラゴンと一緒に来るとは思っていなかったし。
女神様ってやっぱり派手好きな感じなんだろうなぁ。しかし前に教室に降臨した時は存在感が凄かったけれど今はドラゴンが目立つだけでそうでもないしな。
そう思いながら僕はドラゴンたちに気づかないふりをしながら、裏方業務をする。
接客をしていた杉山たちが、ドラゴンたちに気づいたからかバタバタと出て行った。接客中に何やってるんだ? と思うけれども、まぁ、常識改変がきいていて周りは何も気にしていない様子なので一先ずいいか……と思った。
「博人、なんか『執事&メイド喫茶』って不思議だよね。こういうのでお金が稼げるなんて平和」
「そうだね」
乃愛の住んでいた異世界って聞いている限り、日本よりは大分物騒だからなぁ……。というかその物騒な異世界の中でも、一番物騒なのが多分乃愛なんだよな……っておもった。
しばらくして戻ってきた杉山たちは、一人の女の子を連れていた。あれが乃愛の言っていた依り代っていうものだろうか? 本体じゃないにしても、とても綺麗な見た目をしている。
乃愛は自分の姉だというのに、その女神様のことを見てもどうでもよさそうだ。本当に乃愛はぶれない。
それにしても女神様、杉山のことを本当に気に入っている様子である。フラッパーさんたちは女神様に対して敬愛を抱いているようだけど、それでも杉山と仲よくしているのには複雑な気持ちを感じているのが表情で分かる。
そんな中で楽しそうにしている杉山は、やっぱりちょっと鈍いのかもしれない。