文化祭の準備 ②
「おはよう、博人」
「……乃愛、何でメイド服を朝から来ているの?」
「この前言ったでしょ。私が博人のメイドになるって」
朝、目が覚めたらメイド服を着た乃愛がいてびっくりした。
シックな雰囲気の、黒いメイド服。白いエプロンを身に着けていて、露出の少ないメイド服である。うん、なんか普通にこの服で仕事をしていても違和感がなさそうな感じ。本当に仕事としてメイドをやっている人の服なのだと思う。
それにしてもメイドになるとか確かにこの前言っていたけれど、こんな風にすぐにメイド服に着替えて僕を迎えるとは思っていなかった。
「そのメイド服どうしたの?」
「頼んでもらった」
乃愛は頼んだなんて言っているが、明らかに乃愛に頼まれたら脅しと思ってそのまま差し出してしまうものではないかと思った。
でもまぁ、乃愛がにこにこしているのでそれ以上突っ込まないことにする。
それにしても乃愛はメイド服に合うなぁ。元が良いからというのもあるけれどなんでも似合う。
髪型は特に変えていないけれど、乃愛は髪が長いから色んな髪型が出来そうだけど。
「ん? 博人、私をじーっと見てるね。私に見惚れちゃった??」
「……似合ってるからね」
「何で髪の方見てる?」
「乃愛は違う髪型も似合いそうだなって思っただけ」
「髪型? 博人の好みの髪型は?」
「好み……? 好みって言われてもなぁ」
そう口にした僕のことを、乃愛がキラキラした目で見ている。どうしても僕に好みの髪型を言わせたいらしい。
じーっと乃愛が答えるまで僕を見つめ続けそうだったので僕は思案して答える。
「……ポニーテールとか?」
「ポニーテール! じゃあ、その髪型する」
などといった乃愛はすぐに長い黒髪をポニーテールにしていた。
「似合う?」
「うん。似合ってる」
そう口にしたら乃愛はにこにこ笑っていた。
乃愛の足元にいたクラは、乃愛のメイド服姿が珍しかったのか不思議そうにシャーッと鳴いている。
「クラ、煩い! 私は博人のメイドなの。タイツに爪たてたら怒るよ!!」
クラは乃愛に両手で抱えられていた。クラは不機嫌そうに手足をバタバタさせている。
乃愛はその後、クラを部屋から追い出す。クラが扉の外で鳴いている。
「ねぇねぇ、博人、メイドさんって、漫画とかだと主人にご奉仕とかしているんだよ! 博人、やってほしいことある? 着替えとか手伝おうか?」
「……いや、いらない」
「えぇ? 私はご主人様のメイドさんだよー? ご主人様、やってほしいことありますかー? なんでもやるよー?」
何だかわざとらしくご主人様って呼びながら乃愛は嬉しそうにしている。まぁ、本物のメイドならば主人の着替えを手伝ったりするものなのだろう。漫画とか小説で見る貴族って何でもかんでも使用人から世話されているイメージだし。
でも僕はそういう高貴な存在ではないので、そういう世話はされなくていい。
「博人!」
「ええっと、じゃあ乃愛。飲み物が欲しいかな」
なにか頼むまで乃愛は部屋から出ていきそうになかったので、とりあえず飲み物を頼む。
そうしたら乃愛は満足した様子で部屋から出て行った。
乃愛が出て行った間に僕は着替えを済ませる。
今日は休日なので、パジャマのままでもいいけれど……そのままだと乃愛に着替えさせられそうなので着替えておいた。
リビングに向かえば、メイド服姿の乃愛が飲み物をコップについでいた。
「ご主人様どうぞー」
「乃愛……母さんと父さんいるからやめよう?」
「大丈夫。違和感ないようにしているから。博人が望むなら全人類博人のメイド計画とかも出来るよ!」
「いらないから、そういうの」
「ふふ、博人って本当に欲があんまりないよね」
「いや、僕はやりたいこと結構あるから欲がないわけじゃないけど」
「ほしい本が読みたいとか、ゲームしたいとかそういうのだけでしょ? 博人は、私って言うなんでも出来る、周りを自由に出来る存在に好かれているのにそういうことを望まないから。そういうところが好き」
なんか真剣な表情でさらりと言われた言葉に少しドキリとした。
けれど、多分、乃愛はそのうち僕に飽きると思うし、ひとまず椅子に座る。乃愛がコップを持って横に座り、「口移しで飲ませようか? ご主人様」なんて言ってくる。
「普通に飲む」
「えー? 博人になら口移しで飲ませるのもやりたいのになぁ。だめ?」
「……うん。駄目」
そう言ったら乃愛は少し不貞腐れた様子を見せていた。
でも僕が飲み物を飲むのを何だかにこにこと見ている。
「今日は博人のメイドだからね」
「……一日、その恰好しているつもり?」
「うん!!」
乃愛は何だか一日メイドをするつもりらしかった。
一日メイド服を着るのって恥ずかしいとか、落ち着かないとか、乃愛はないんだろうか……?
まぁ、乃愛は異世界出身で、神様で、常識何て僕では測れないだろうけれども。