文化祭の準備 ①
「ねぇねぇ、博人、文化祭って何するの?」
「何って、クラスによって違うけど……。乃愛、僕の部屋の漫画で文化祭についても知っているんじゃないっけ」
「漫画では知っているけれど、詳しいところは知らないもん。それに博人の口からちゃんときいておきたいしー」
「……毎年何するか違うから、今年何するかはこれから話し合いだよ」
「一度目はどうだったの?」
「凄く無難な展示だった」
一度目の高校二年生の時は、無難な展示だった。友達も特にいない僕は、のんびりと過ごしていて終わっていた記憶がある。
でも今回は、杉山たちだっているし、乃愛だっているし、そういうところを考えると今回は展示ではないのかもしれない。
それにしてもすっかり夏休みがあけて秋が訪れようとしていて……すっかり僕も、二度目の高校二年生生活を受け入れているなと思った。
というか、乃愛が現れてからそれどころではなかったし。
そういえば、僕は二度目の高校生活だった。
「私は博人と一緒だったらどんなものでも嬉しいなぁ」
「そうだね。僕もどんなふうになるか楽しみ」
多分一度目と違った形になるだろうとそんなことを想像が出来た。
そう思うとどんな風な文化祭になるのだろうかと楽しみになってくる。乃愛がいるからこそ、多分、去年よりも騒がしくて、楽しい文化祭になるのかもしれない。
「博人、何で私を見て笑っているの?」
「んー乃愛がいたら、もっと楽しい文化祭になるだろうなって」
そう言ったら、乃愛は嬉しそうに笑みをこぼした。
僕からそういう言葉がきけたのが嬉しいらしい。本当に心から喜んでいるのを見て僕も笑ってしまった。
さてそんな会話を交わしたしばらく後に、文化祭で何をするのか決まった。
『執事&メイド喫茶』という、一度目の文化祭の時とはかけ離れたものになっていた。……やっぱり杉山たちがいるから? フラッパーさんたちは何でメイド服着る気満々なんだろうか?
お姫様がメイド服……うーん、杉山に見せたいから? 杉山も執事をするらしい。まぁ、似合うだろうなと思う。
ちなみに僕は当然、裏方である。というか、そんなものやりたくない。乃愛は「私は博人専属のメイドならやるけど、他の人のメイドはやだ」って言って僕と一緒に裏方をするらしい。うん、乃愛らしい理由すぎる。
とりあえず執事服とメイド服は裁縫が得意なクラスメイトたちで作ることになった。フラッパーさんたちが「城から持ってくる」と言って杉山に止められていた。
というか、やっぱお城だと本物の執事やメイドがいるってことだろうか。ちょっと見てみたい気もした。
「博人、メイド、好き?」
「……いや、それで頷いたら変態っぽくない?」
「私、博人のメイドにはなるよ!」
「……うん、まぁ、やりたいなら家で着たら?」
「うん。着る!」
乃愛は何だか家でメイド服を着てくれるらしい。どこから持ってくる気なんだろうか……?
それにしても文化祭で執事&メイド喫茶をやることよりも、メイド服を着ることの方に関心があるらしい。乃愛はどちらかというと傅かれる方の人だろうから、メイド服なんて着ることもなかったんだろうなと思った。
そう言う会話をしていたらクラスメイトたちに羨ましそうに見られたり、面白そうに見られたりする。乃愛はすっかりいつでもこういう調子だからなぁ……。
僕と乃愛は当日は裏方業務。文化祭までの間はメニューを考えたり、飾りを作ったりする係になった。もちろん、乃愛は僕と同じ係に無理やりねじ込んでいた。というか、周りも笑いながらそれを許可していた。
そして放課後に、乃愛と部屋でこんな会話を交わす。
「それにしても、執事とメイドでもてなされる喫茶店で不思議だね。やっぱり地球はおかしな文化がいっぱい」
「……乃愛の世界だと、普通に執事とメイドが仕事な感じ?」
「うん。偉い人間は沢山囲まれていたりするよ」
「乃愛にもいた?」
「いたけど、私の場合勝手についてきただけだしね。『勇者』の方がその辺は関り多いと思う。お姉ちゃんが『勇者』はお城のメイドにも惚れられてたって。あの姫たちが牽制していなかったら多分、襲われてたかもって言ってた」
「へぇ、流石」
やっぱり『勇者』として異世界に召喚され、活躍していた杉山は大変モテモテだったらしい。
なんかそれだけ周りから好かれているとよっぽど鈍感じゃないと色々大変そうだ。まぁ、杉山は鈍感系主人公っぽいから、気づいてなさそうだしな。
「そうだ。私、何種類かメイド服持ってくるから、どれがいいか教えてね。博人が好みのもの着るから!」
「……えっと、どれも一緒じゃない?」
「一緒じゃないよ。色々あるんだよ」
そんなこと言っていた乃愛は、次に異世界に戻った時にメイド服を持ってくるみたいだった。
とりあえず無理やり奪わないようには言っておいた。乃愛は「えー?」って言っていたから、言って良かったと思う。