貴方のお探しの女神は、すぐそこにいます ②
杉山たちは、神獣であるクダラさんと一緒に行動することも多いみたいだった。
それにしても乃愛を探すっていう目的の元、行動しているみたいだけど……杉山の隣に居れば乃愛が現れるとでも思っているのだろうか。
杉山も人に囲まれて生きている人間なので、乃愛も自分から寄ってくるはずと思っているのかもしれない。
乃愛をちらりと見れば、乃愛は僕と目が合ってにっこりと笑った。
「博人、なーに?」
「……いや、杉山は乃愛が自分から近づいてくるって思っているみたいだなって」
「ふふ、勝手に勘違いしているだけだよ。私は博人の傍にしかいかないよ?」
乃愛は面白いことが好きで、楽しいと思っているものに寄っていく。
だけれども今は多分……僕がいるからそういうことをする気が乃愛はないのだ。自惚れみたいな発言だけど、多分、僕のことを面白がっているから他のものに手を出す気がないとか、そういう感じのように見える。
「……このまま乃愛が見つからなかったら、あいつらただ乃愛を警戒しているだけの人にならない?」
それはそれで中々イタイ人ではないだろうか。
……乃愛はその気はないのに、乃愛から近づいてくるって思っているとは中々勘違いが激しい。
「いいんじゃない。それで。だって私、博人にしか興味ないもーん。それにあの『勇者』たちにはお姉ちゃんとか、色んな人が興味津々だしねぇ。博人は私以外に興味を持たれないようにねー?」
「僕に興味を持つ人なんて早々居ないよ」
「いや、絶対に博人の常識改変とかきかないの知ったら、みんな興味を持つはず!」
……乃愛のそんな言葉を聞きながら、絶対に嫌だなぁなどと僕は思った。
だって乃愛だけでも僕は手がいっぱいなのに、乃愛以外にも寄って来られたら困ってしまう。
「乃愛、僕は目立ちたくないからそういうの寄ってこないようにしてもらえると助かる」
「当然だよ。私は博人を独り占めしたいからね」
乃愛がにこにこ笑いながらそんなことを言う。
何だか頼もしい発言だ。
というか、僕は本当に乃愛だけで手がいっぱいって、乃愛を受け入れている感覚で不思議な気分だ。
乃愛が何だかんだ僕の嫌がることはしないからだろうか。……まぁ、乃愛にそういうことを言ったら抱き着かれたりしそうだし言わないけれど。
僕と乃愛がのんびり過ごしている間に、杉山たちは騒がしくしている。
乃愛が見つからないと、そういうことばかり話しているのがよく聞こえてくる。というか、幾ら周りに聞こえないとはいえ、乃愛のノースティアって本名出しすぎでは?
本当に乃愛が何処に居るのだろうってそればかり口にしているクダラさんには、隣にいるよって言いたい。実際に乃愛が近くにいる時も気づかないからなぁ……。
そしてクダラさんの情緒が乃愛に会えないからか、凄く不安定になっている感じがする。力がある人が不安定になるって中々怖い状況だよね。僕はいつその情緒不安定が爆発するのだろうかと僕はハラハラしている。
乃愛曰く、クダラさんが暴走しても問題がないなんて言っていたけれど……。
僕は不安で仕方がないけどね…。まぁ、そんなことを口にしたら乃愛が物騒なこと言いだすから口にはしないけれど。
「ねーねー、博人。周りの人から聞いたけど、博人が好きな漫画のコラボカフェあるんだって。行くの?」
「うん」
というか、一度目の時は行かなかったわけだけど、二度目なので事前にそういうものがあることを把握していた。なので、事前にお小遣いも少し貯めてある。母さんたちの手伝いをしてお小遣いもらったりもしているしな。
「私も行く!」
「うん。そうだと思って予約しようとしてる」
「ふふ、博人が行くなら私が行くのも当然だからね!」
乃愛とそういう会話をしながら廊下を歩いていたら、髪を染めた男子生徒に「オタクかよ」みたいな陰口をたたかれる。
うん、まぁ、僕はそういう漫画とか好きだから否定はしない。
とりあえず「んー?」と不機嫌そうな顔で何かしようとしているので、手を引っ張って止める。乃愛は手を繋いでくれたと思ったのか、にこにこしたのでそのまま乃愛を連れて靴箱へと向かう。
乃愛はにこにこと嬉しそうに笑っている。何だか初対面の時とはまた違うへにゃりとした笑みを浮かべている。手を離せば不機嫌そうな顔をされた。
「博人、何で手を離すの?」
「……あの男子生徒見えなくなったから。乃愛、さっき何かしようとしていたでしょ」
「だって博人のこと、馬鹿にしたもん」
「あのくらいは気にしなくていいから。殴られたりしたらまぁ、別だけど」
「分かった! でも、博人、手! 博人から繋いで」
「はいはい」
乃愛が手を伸ばしてきたので、今度は手を引っ張るではなく、手を繋ぐ。
そしたら乃愛は嬉しそうに笑っていた。
何だか機嫌がよさそうだなぁ。
このまま乃愛が機嫌が良いままだといいなぁと思っていたのだけど、想像通りクダラさんが徐々に情緒不安定になっていた。