貴方のお探しの女神は、すぐそこにいます ①
「ノースティア様の痕跡が見つからない」
「ノースティア様がこの世界に居るのならば、何か起こしているはずだが……しかしあの方の常識改変が誰よりも得意だから、俺たちが気づいていないだけの可能性があるが……」
なんか深刻そうな顔をして話しているなー。
それにしてもあの神獣とか言う人、名前はクダラっていうらしいんだけど、杉山たちにも突っ込みを入れたいけれど、こいつら何でこの地球で暮らす気満々なのに、常識改変がきいているから問題ないとばかりに、変装みたいなのさえしないのだろうか……。
僕は違和感を感じる連中が増えて何とも言えない気分だ。
「ねぇ、博人が嫌なら全員飛ばす?」
「……物騒なことを言わないの。僕の心、読めないはずなのに分かったの?」
「うん。見てたら分かるよ? 博人は私にもこの世界に合うような姿の方がいいって言ってたし」
僕の心を読めていない乃愛だけど、僕がどう考えているかなんとなくわかっているらしい。
そのことは素直に嬉しく思える。乃愛が神だろうが、どうしようもないほどの力を持っていようとも、それでもこうして乃愛が僕を理解してくれてきていることは素直に嬉しい。
乃愛はにこにこ笑いながら、僕を見ている。
乃愛はいつも楽しそうだ。
それにしても乃愛の神獣を自称していても、乃愛のことはよくわかっていなさそうだ。
乃愛がこの地球に居るのならば、何か必ず起こすはずと思い込んでいるようだ。まぁ、乃愛はいつも退屈しているから、退屈しのぎに色んなことをやったりはしていたみたいだけど……でも何かを起こすことが好きなわけでは決してないだろう。
全部が自分の思い通りになるのが、ただ退屈で……そのためだけに行動を起こしていただけなのだから。
今の乃愛が、ただ普通の高校生として過ごしているなんて思っていないのだろう。乃愛はそれだけ力が強い女神で、誰よりも目立つ存在だからこそ――色んなことを決めつけられたり、そういうものだと思われたりしてきたのではないかと思う。
僕は全く目立つことなく生きてきているが、そんな僕でも~しなさそうなどと決めつけられることはあったしなぁ。
「乃愛、あいつらはとりあえず無視。それよりも今日の放課後はどうする?」
「んー。今日は普通に家に帰る! やりかけのゲームやる」
「あのRPGゲームか」
「うん」
ファンタジー世界からやってきた乃愛は、そういうファンタジーゲームをするのも何だかんだ楽しいらしい。
というか、あいつら乃愛を探しに行くって授業をさぼったり、授業中も乃愛のことを話していたりしていた。
学園に生徒として通っているのならば、もっと真面目にしたらいいのにななどと思う。そんなこと突っ込みをいれたら面倒だから言わないけれど。
僕と乃愛は授業を受けた放課後、帰路につく。
乃愛は僕の手を引いてにこにこと笑っていた。
「博人、おばさんから買い物も頼まれてるよね。スーパー行こう」
「うん。乃愛は何だかんだ僕の母さんと仲よくしているよね」
「博人の両親だしね」
乃愛は僕が勉強やゲームに熱中している時に、母さんと一緒に二人で話していたりもする。結構世間話で盛り上がっている。僕の話ばかりよくしているようだ。
僕の昔の話とか、乃愛に出会うまでの僕の話をよく聞いているようだ。
そして僕が知らないうちに乃愛は、母さんや父さんから頼みごとをされていたりとかする。あとご近所さんと僕を待っている間に話していたりとかもしているようだ。
母さんからトイレットペーパーを買ってくるように頼まれているらしい。
そういえば乃愛はトイレとかも行く必要はないらしい。流石神様っていうべきなのだろうか。僕がトイレに行くと不思議そうにいつもしている。
「博人、このお菓子買おうよ」
「うん」
スーパーをぶらぶらと歩きながら、乃愛がお菓子を持ってくる。食事を必要としない乃愛だが、地球で過ごすうちに気に入っているお菓子も出来ているようだ。というか、僕の両親は乃愛を気に入っている様子でお菓子代もよくくれたりするのだ。
まぁ、乃愛は大体自分でお金を持っているけれど。
僕にも色々奢ろうとしてくるけれど、必要以上に誰かにそうやって奢られるのも嫌いだから大体断っている。
スーパーで買い物をした後、何だか遠くから大きな音が聞こえた。
「乃愛、この音は?」
「なんか、戦闘訓練してるっぽいね」
「……何でこんなはた迷惑な戦闘訓練しているんだろう」
「なんも考えてないからだよ。それより放っておいて帰ろう」
「うん」
何だかよく分からないけれど、戦闘訓練を派手にやっているらしい。杉山たちと神獣って、特に何も考えずにそういう訓練を派手にやっているようだ。
近くを通ってややこしいことになるのも嫌なので、僕と乃愛はさっさと家に帰った。
家に帰った後も一度だけ大きな音が聞こえて来て、どれだけ派手にやっているのだろうかと何とも言えない気持ちになった。