二学期の始まり ①
「博人、二学期だね」
「乃愛は楽しそうだね」
「楽しいよ! 博人と一緒に学校に行くんだからね」
夏休みが長く続いて欲しいと願う学生も多いだろうが乃愛は 僕がいれば夏休みでも学校でもどちらでもいいようだ。何だか本当にブレない。
僕は正直学校よりも家でごろごろするのが好きなので、夏休みがもっと長ければいいのに……って思っている。でもそんなことを乃愛の前で口にしたら乃愛が何をしだすか分かったものじゃないので、一旦黙っておくことにする。
そもそも乃愛って僕が何か口にするとそれを叶えようと動き出したりするしなぁ……。
何だかんだ乃愛と出会ってしばらく経っていて、僕も乃愛がどういう行動に出るかとか理解してきている気がする。
「博人、夏休みは制服姿の人全然見なかったのに、沢山だね」
「そりゃあ、夏休みが終わったからね」
「こうやって学生たちが一斉に夏休みってとって、一気に動き出すって不思議」
「国によって休みも違うけどね」
異世界にも学園があるだろうけれど、彼らがどんなふうに授業を受けて休みを取っているかとか、乃愛は知らないんだろうなと思う。興味なさそうだし。
異世界ものだと、学園ってよく出てくるけど乃愛の世界はどんな感じなのだろうか。
二人っきりの時にもっと聞いてみてもいいかもしれないと思った。
「違う国って此処と結構違う?」
「うん。俺も国外行ったことはないけれど、日本よりは治安悪いらしいけど」
「そうなんだ。博人は海外もいきたい? 博人と一緒なら行きたいな」
「僕は学生だし、行くお金もないよ。結構お金かかるし」
「私が全部払ってもいいよ?」
「……それはちょっと僕が嫌かな。行くとしたら社会人になって自分でお金稼いでからか、母さんたちが払ってくれたらとかになるけど」
「じゃあ博人が社会人ってのになったら一緒に行くの!」
「大学にも通う予定だから、何年も先だよ?」
「何年先でもいいの。だって私は博人の傍にずっといるもん」
乃愛はそんなことを言いながらにこにこ笑っている。
当たり前みたいに乃愛はずっといるなんて言うから僕はやっぱり戸惑いも大きい。
「……乃愛は、大学は僕と一緒の所行きたいっていったけれど前に話した卒業後のことって何か考えてる?」
「んー、まだ分かんないかなー。博人とずっと一緒に居れなくなるってのはあんまり考えたくもないし。まだ考えてないよ。でもどうにでもするもん」
そんなことを話していると学園に到着した。
そのまま二人で並んで教室へと向かう。
「ねーねー、博人、今日は放課後出かけようよ」
「どこ行きたいの?」
「博人とならどこでもいいよ」
「それが一番困るんだけど」
「じゃあ商店街ぶらぶらする!」
乃愛がそう言ったので、放課後は商店街をぶらぶらすることになった。
乃愛は商店街に行くだけなのに楽しそうだ。鼻歌を歌っている。夏休み中に僕と一緒に見ていたアニメのOPである。
そして教室へとたどり着き、席へと着く。
クラスメイトに乃愛が話しかけられている。
「白井さんは夏休み何をしていたの?」
「博人と、海行ったりファミレス行ったり買い物したり沢山したよ!」
「やっぱり薄井君と仲良しよね」
「私と博人は仲良しだよ」
乃愛は自慢するようにそんなことを言っている。
乃愛は周りに興味がないし、関心もないけれど夏休みは楽しかったらしい。
そんな会話を聞きながらのんびりとしていたら、不思議な人をみかけた。
普通に廊下を歩いているのは、褐色の肌に、角まで生えている不思議な人物だった。……騒ぎになっていないので、当然僕はスルーした。
何だろう、また増えた??
杉山たち関連だとは思うけれど、このクラスに入ってこなかったってことはまた別問題なのか??
杉山たちを見ていて異世界人をスルーするスキルはあがっているだろうけれど、どんどん増えると収拾がつかない気がする。
僕は乃愛にちらりと視線を向ける。
『博人、あの子、別に博人に何もしないよ?』
乃愛に心の内で話しかけられた。
というか、乃愛の知り合いなのか。海にも乃愛の知り合いが遊びに来ていたし、世界を渡れるだけの力を持つ存在にとって地球は気軽な旅行先になっているのだろうか……。
僕はじっと乃愛を見る。僕の思考を乃愛は読めない。だから伝わらないだろうと思いながらも見つめた。
『私の知り合いの子だよ。所謂神獣って呼ばれる子。私が異世界に留まりっぱなしだから様子見に来たのかも』
思考を読めなくても、なんとなく僕の言いたいことを乃愛は分かったらしい。
というか、神獣? 神の獣ってこと? そういうのってやっぱり人の形をとれるものなのだろうか。
なんて思っていたら、杉山の大きな声が聞こえてきた。
「あー!! どうしてお前が此処にいるんだ。ノースティア様の神獣が!」
……周りが何も違和感感じないように女神様がしているとはいえ、声でかすぎでは?
『博人、別に私の神獣じゃないよ! ただ私についてまわってただけだよ』
うん、乃愛、その情報はどうでもいいよ。