夏休みに突入 ②
「博人、楽しみだね。海」
「うん」
僕と乃愛は、父さんの車で海に向かっている。
水着だけではなく、浮き輪なども購入している。鮫の浮き輪とか色々購入しているのだ。
乃愛の元々の世界だと、海というのは割と危険な場所でこういった浮き輪なんかもなかったらしいのだ。だからこそ浮き輪などを見るのも楽しかったらしい。
軽自動車の前に父さんと母さんが座って、僕たちは後ろの席に座っている。ちゃんとシートベルトもしている。
それはいいのだけど、何で暑いのに乃愛は指を絡ませようとかするんだろうか……。落ち着かないから離しても触ってくるし、暇なのかな?
「海だと、海の家とかもあるんだよね? そういうのも楽しみだなぁ」
「やっぱり焼きそばとか、かき氷がいいかな。乃愛って、かき氷食べたことないよね?」
「ない!」
「じゃあ、食べようか」
僕がそう言えば、乃愛はにこにこと笑って頷いた。
そういえば僕は眼鏡を普段かけているので、今回は海に入るから度入りのゴーグルを持ってきている。そこまで海に入らないかもしれないけれど。
それにしても海かぁ。
折角行くなら思いっきり楽しめたらいいな。……そして面倒なことが起こらなきゃいいとそんなことを考える。
乃愛は何が起こっても問題ないと考えているのか、嬉しそうに笑っている。
乃愛はきっと何があっても焦らないし、泣かないだろうし、躊躇いもしないだろうな。そういう強さは僕にはないものだと思う。
というか、僕と乃愛って性格的にいっても結構正反対の部分もあるだろう。乃愛は何も躊躇わない子だから、僕みたいに知らないふりをし続けることはないだろうし。そもそも自分だけ何かを気づいている状況でも乃愛なら飛び込んで行ってその状況を粉砕したりしそう。
じっと乃愛を見ながらそんなことを考えていたら、乃愛は首をかしげる。
「博人、何じっと見てるの?」
「乃愛と僕は割と正反対だなと」
「そうだね! 博人と私は全然違うよね。だからこそ博人は面白いんだよ」
乃愛は僕の言葉に笑った。
「博人、今から行くのって海水浴場って場所なんだよね? 人間、沢山いる?」
「そこは人って言おうね……」
本当に人間人間としか他の人のこと言わないなぁ。乃愛は。生物に対する興味が少ないというか、種族に対する関心はあっても、個別のその人に対する関心はないというか。
「沢山いるよ。他の人ともめないようにね。絡まれたら対応するぐらいはいいと思うけれど、手はなるべく出さないように。緊急事態なら仕方ないけど」
「そんなに絡まれる?」
「んー。海ってイメージ的にナンパとか多いイメージだから……。乃愛は見た目がいいからそういうのはあるかもなと」
海ってどちらかというと明るい人間の方が多くて、出会いを求めている人も正直多いと思う。そういう場だと乃愛はナンパとかされるのかもしれないと思った。僕は女の子と海に行ったことなんてないし、そもそも海にあまり行かないから、いまいち分からないけれど。
「ふーん。人の雄って、結構声をかけてくるよね」
「雄って言い方はやめようね。まぁ、年頃の男だと彼女を欲しがっている人が多いから」
「博人は?」
「僕は興味ないかな」
聞かれてそう答える。
彼女を欲しがる人はいっぱいいるけれど、僕のようにそういうのに興味がない人も結構いるものだ。
乃愛とは海に向かうまでの間、結構話をした。乃愛は海に行くのが楽しみみたいで、ずっとにこにこしながら僕に海のことを聞いていた。
母さんと父さんは、僕らの会話に時々入ってきたりしながら楽しそうである。それにしても常識改変で僕と乃愛は幼馴染ってことになっているけれど、僕たちにとっての初めての海というのは不自然な気もする。まぁ、皆常識改変がきいているから、僕以外違和感なんてないのだろうけれど。
本当の幼馴染だったら、海とかも結構行くものなのだろうか? 仲が良い幼馴染なんていないので、僕はそんなことを思った。
そんなことを考えているうちに海に到着する。
海水浴場の駐車場に車がとまる。ちなみに下に水着を着ているので、車の中で上を脱いで水着に着替えた。帰りは更衣室もあるのでそこで着替えるかと考えている。
海に入る前に、母さんに日焼け止めを塗るように言われ、乃愛と塗りあいっこする。僕としては自分で大体塗るでいいかと思ったけれど、乃愛に「博人に塗る!」と日焼け止めをとられた。そんなにぺたぺた塗るためとはいえ、触られると不思議な気分だ。
別に腕とかは自分でぬれるのだけど……。
あと乃愛は神様なのもあり、そういう日焼けとかはしないらしい。太陽にさえも打ち勝つというか、うん、やっぱり乃愛は規格外だと思った。でもなぜか日焼け止めを塗ってほしいと言われたので日焼け止めを塗った。
そしてそれが終わってから僕たちはようやく車から出て海へと向かった。
父さんと母さんも水着に着替えている。久しぶりの海だと二人とも何だか楽しそうである。