夏の近づきを感じている ②
「ねぇねぇ、博人、私にどれが似合う?」
目の前で乃愛がそんなことを言いながら、僕のことをじっと見つめている。
僕と乃愛は土曜日にショッピングセンターにやってきていた。……乃愛と初めて会ったショッピングセンターである。ちなみにすっかり乃愛が破壊した跡は復旧している。
それで何をしているかといえば、水着売り場にきていた。
乃愛がきわどいビキニの水着を幾つも見せてくる。黒だったり赤だったり様々な色の水着。あとレースがついていたり模様が違ったり、うん、種類が多すぎる。
乃愛は僕に選んでほしいとでもいう風に僕を見ているけれど、正直どれがいいかなど僕には分からない。
「……えーと」
「博人、適当に選ぼうとしてない? 駄目だよ。私は博人が似合うっていうの着たいんだから!!」
「そんなこと言われても……」
僕は女性の水着に対してそこまで詳しくないし、正直乃愛は見た目が良いのもあってなんでも似合う気しかしないんだけど……。
乃愛にちゃんと選んでほしいとでもいう風にじっと見られて、僕は改めて水着を見る。
というか、水着売り場って種類多すぎじゃない? こんなに大量の中から選べとか中々難しいと思うんだけど。
これはもう、乃愛のイメージで決めるべきか? 元の乃愛が白い髪と赤い瞳だから、白か赤の水着でいいかな。
「僕にとっての乃愛のイメージが白とか赤だから色はそれで」
「ふふ、そうなのね」
何だか乃愛は楽しそうににこにこしている。
色を絞ったとしても、水着の数が多すぎて僕はどれを選んだらいいのか正直言って全くもって分からない。……さて、どうしようかなと考えていたら僕らに声がかかった。
「あれ、薄井と白井さんじゃん」
振り向いたらそこにいたのは、杉山含む異世界集団だった。何で僕に声をかけてくるんだよ。クラスメイトの顔を杉山が覚えているのは知っているけれど声をかけてこないでほしい。
……ただでさえ乃愛の見た目が良いのもあってそこそこ注目を浴びていたのに、美形や美少女ばかりの杉山たちのグループに声をかけられたら注目を浴びて嫌だ。
「ねぇねぇ、博人。赤と白だったらさー」
で、乃愛は華麗に杉山たちをスルーするな。思いっきり話しかけられているのに、全く……。まぁ、乃愛からしてみれば杉山のことなんてどうでもよくて、それよりも僕に水着を選んでほしいようだけど。
「杉山、こんにちは。僕らは水着を選んでいるんだ。杉山たちも?」
「ああ。そうだ。薄井たちも海に行くのか? 一緒に行くか?」
「……遠慮しておくよ」
うん、絶対に嫌だ。
クラスメイトだからと僕らのことを誘うのもやめてほしい。
というか、フラッパーさんとルードさんは乃愛のことを警戒したように見ているしな。一緒に来られると杉山に惚れるのかもと思っているのかもしれない。
相変わらず乃愛の常識改変がききすぎていて、彼らは乃愛が彼らの世界の神様だなんて思ってもないようだ。
あと多分僕が此処で一緒に行くなんて頷けばきっと乃愛は不機嫌になるだろう。それにきっと杉山たちのことだから、きっと海でも何らかのことに巻き込まれるだろうし。
海の魔物とかもこっちの世界にきていたりするのだろうか?
僕はそういうことを考えながらも、はやく杉山たちどこかいかないかなと思った。
けれど杉山たちも水着を選びに来たのもあり、選ぶのに時間がかかっているようである。というか二人とも杉山にぐいぐいと迫っている。トラジーさんは無言で見守っているけれど、鋼の心過ぎない? これだけ杉山に好意を寄せている様子を見て何か思う所はないのだろうか?
そんなことを考えながら乃愛の水着を選んでいたら、杉山のハーレム要員が増えた。
「あれ。ひかる先輩!」
「ひかるじゃない!」
……なんなの? 土曜日にたまたま水着売り場にやってきたらハーレム要員がどんどん集まるって、そういう星の元に産まれているの?
なんか学園でも見た事がある美少女が揃いだした。僕は一刻も早くここを抜け出したくて、僕は慌てながら乃愛の水着を選んだ。
それで適当に選んだら駄目だから、僕はなるべくはやめに……だけど適当にならないように選んだ。
結果として選んだのは白の生地に赤い花柄の水着である。
乃愛はにこにこと笑っていた。
で、僕の水着はぱっと選んだ。
「乃愛、行くよ」
「もっとじっくり見たいのに。博人の水着」
「僕のは適当でいいの。それより行くよ」
僕は乃愛の手を引いて、その場を後にする。ついでに杉山たちには、「じゃあね」と告げてその場から去った。
「博人、『勇者』と関わるの嫌がりすぎだね。私は博人の水着、もっとちゃんと選びたかったのに」
「嫌だってあの中で関わるとか絶対面倒でしょ」
「まぁ、私は博人が手を引いてくれているの嬉しいけどね! で、博人、ご飯でも食べる? 昼だし」
「ああ。そうだな。何か買ってかえるか」
「此処で食べないの?」
「此処で食べてたらまた杉山たちに絡まれるかもだろ」
僕がそう言えば、乃愛は面白そうに笑っていた。
それから僕らはハンバーガーを購入して家に帰るのだった。