離れている間の報告 ②
乃愛の言葉を聞いているだけで涙ぐんでいるだなんて……、僕なんて毎日乃愛に声をかけられているけれど、もっとありがたがった方がいいんだろうか。
「僕もありがたがった方がいい?」
「なんで? 博人はそのままでいいよ?」
「いや、本当に神様なんだなぁって」
「ふふふ、そうだよ? 私、すごいんだよ? 博人のために面倒だけど異世界に戻ったんだよ?」
乃愛が後ろからぎゅっとくっついたままいう。いい加減離れてくれないかなぁ。
でも何だか後ろから聞こえてくる声が楽しそうだからまぁ、いいかと思う。
「ふふふ~ん」
「……なんかご機嫌だね。でも耳元で鼻歌歌われるとくすぐったいんだけど」
「ふふ、だって博人にくっついてお話出来るだけで楽しいもん。ねぇねぇ、博人はどうしてた? 私がいなくて寂しかった? 私は寂しかったよ!」
何だか声がはずんでいる。
僕に寂しいと言わせたいようだ。
「うん。まぁ、少しは寂しかった」
「ふふ、そっか。少しってのがちょっと不満だけど、もっと博人を寂しがらせられるように頑張る」
「うん。頑張って。あ、そうだ。乃愛」
「なぁに?」
「乃愛がいない時に、公園で変なの見かけたんだ」
「変なのって?」
「……僕もなんて表現したらいいか分からないんだけど、僕以外に見えてなかったなんか小さい生物。人みたいな姿してたけど、近づきはしなかったから詳しくは分からない」
「ふーん。こっちにきている異種族かな? 博人が見たのってどんなサイズ?」
「クラより小さいぐらい」
「小さいね。そういうサイズの人型の生物って確かにうちの世界にはいるよ。ただとても力が弱いはずだからこっちにただ来ているってのも不思議だね」
「力が弱いって、でも周りの人、誰も気づいてなかったよ?」
「それはお姉ちゃんが『勇者』が生きやすいようにそういうのに普通の人は気づかないように常識改変しているからだね。というかお姉ちゃんの常識改変全部スルーしているって流石私の博人だよ」
乃愛には何となくその小さな存在がどういう存在なのか心当たりがあるらしい。
それにしても僕はファンタジーなアニメ作品とかでしかそういう異種族を知らないけれど、やっぱり異世界には沢山の異種族がいるのだろう。
ちょっと見てみたい気もするけど、やっぱり怖いので関わる事はしたくない。そういうのって一回関わったらずるずる沼にはまっていきそうなイメージだし。
……乃愛にがっつり捕まっているので、もう手遅れかもしれないけれど。
「博人は、その生物気になる? 捕まえてこようか?」
「え、いや、いいよ。捕まえるとかやめて。ただどういう生物かなってのは気になるけど……あと僕の平穏な生活を脅かされるのは嫌だなって」
「じゃあ殺す?」
「殺すのはもっと駄目だから! 乃愛、一旦、物騒な思考はやめようね? 本当に乃愛が命の危険があるとかなら相手を殺してしまうのも仕方ないかもだけど、乃愛は誰よりも強いからただの弱い者いじめになるだけでしょ……」
「ふふふ、やっぱり博人はいいなぁ。私に弱い者いじめなんていうの博人ぐらいだよ?」
乃愛は楽しそうに笑いながらようやく僕の背中から離れて、真正面に座る。
何が楽しいのか、にこにこと笑っている。
「ねぇ、博人。博人が気になるなら私、その博人が見た小さな生物に接触してくるね? それでどうして此処に来たかとか、何をしたいかとか全部聞き出してくるよ。ちゃんと殺したりも脅しもせずにゆっくりお話ししてくるからね? だから博人、ちゃんと聞きだしてきたら褒めてね?」
「うん。ありがとう。ちゃんと平穏に聞いてくるんだよ」
「博人がいうからそうするよ。ふふ、私がこうして誰かの言うことを素直に聞くのも珍しいんだからね? まぁ、博人の言うことなら幾らでも聞いてあげる」
「……本当に嫌なことは断ってもいいから。僕もただ何で異世界のその小さな生物がこっちにきているのかってちょっと気になってるだけだし」
「他でもない博人の望みだから断らないよ。博人、他には何か変わったことあった?」
「いや、他は普通かな。あ、でも乃愛。母さんが乃愛がいつ頃帰ってくるか気にしていたから、こうして出かけるときはいつ帰ってくるかはちゃんと教えてほしいんだけど」
「分かった。今度からそうする」
乃愛がいない間はあの小さな生物を見た以外は普通の日々だったと言えるだろう。なので、僕が乃愛にいう変わったことは特にない。
「じゃあ、私の異世界での話の続きしていい? 私、博人には私がどうやって過ごしていたかも全部知ってほしいの」
「うん。いいよ。でも勉強とかもしたいからそれまでの間ね」
「うん!」
それから乃愛は異世界でのことを色々と話してくれた。
乃愛が久しぶりに異世界に帰っていたから、力試しにやってきた人とかもいたらしい。あと知り合いのドラゴンに会いにいったりとかもしていたらしい。
ただ向こうで誰かを操ったりというのはあまりしなかったようだ。とりあえずこっちにはやく帰りたいなと思っていたらしく、無駄な事は何もしなかったんだとか。
そう言う話を僕は聞いた。