週末に乃愛は出かけてる。②
家に帰って、のんびりと過ごす。
時々クラにまとわりつかれながら、本を読んだり、ゲームをしたり、いつも通りの日々だ。
だけど最近は乃愛がいるのが当たり前になっていて、乃愛が僕に話しかけてくるのが多かったから僕は「乃愛」と話しかけそうになっていた。
寂しいとか、そういう気持ちではない。ただ何というか、当たり前になってしまっているから違和感があるというか……、そういう気持ちである。
RPGのゲームを進めながら、乃愛のいた異世界はこういう感じなのだろうか? 魔物がいて、剣士などがいて、神がいて……で、こういう世界で言う邪神的なのが乃愛か? 何だかファンタジー的なものが現実であるというのが分かってからそういうことを時々考えてしまうようになった。
それにしても乃愛のいる世界と、僕のいるこの地球はかかわりあっているけれど、異世界が実際にあるということは他にも異世界というものはあるんだろうか?
異世界転移物が実在するというのは杉山が示しているし、逆もあったりとか? 正直あったとしても関わりたくはない。異世界から来た人とか、確実にややこしいし。……僕が異世界に行くことがあったらまずすぐ死ぬだろうから、そういうのには巻き込まれたくはない。
というか、杉山って『勇者』だってことはそれだけ生き物を殺したり、戦いの中に身を費やしてきたってことだって言えるんだろうか。考えただけで無理だな。
「博人、夕飯よ」
「うん」
勉強をしたり、ゲームをしたり、本を読んだり、そういうことをしていれば夕飯の時間になった。
乃愛はまだ帰ってきていない。僕と出会ってからずっとこの世界にいたから、色々と積る話でもたまっているのかもしれない。
「乃愛ちゃん、まだ帰って来てないのね……乃愛ちゃんがいないと寂しいわ」
「いつ帰ってくるんだ?」
「さぁ……?」
母さんと父さんにそう問いかけられても、僕には「さぁ」としか言いようがない。うん、ちょっと行ってくるっていって去って行ったしなぁ。母さんには何で聞いてないのって目で見られるし、今度からはいつ帰ってくるかちゃんと聞いた方がいいのかもしれない。
というか、そもそも異世界って普通に考えて日帰りで行って帰ってくるものではないだろうし、今日は帰ってこないかもしれないな。乃愛ってフットワークが軽すぎる。……乃愛の力だと、瞬間移動的なのも出来るんだろうか。まぁ、異世界にも簡単にいくぐらいだから出来るんだろうなぁっては思うけれど。
乃愛が僕との関係を幼馴染みたいにしているから、僕が乃愛の事を知らないと違和感を持たれたり、面倒だ。僕は誰かに疑問に思われることなどせずに、生活していきたい。もう少し幼馴染設定を詰めた方がいいんだろうか……?
昔の話みたいなのを聞かれても僕、答えられないし。
夕食を食べた後はテレビを見た。今日は芸人さんの旅番組を見ている。僕はあまり外に出ない方だけど、旅番組を見るのは結構好きだったりする。バラエティみたり、ドラマみたり、アニメみたりそれなりにテレビは見ている方だと思う。
のんびりとテレビを見ながらスナック菓子を食べる。
こうしてお菓子を食べながらのんびりするのも結構好きな時間だ。普段なら乃愛が僕の隣で色んな言葉をかけていたりするけれど、今日はいないから少し不思議な気持ちになった。
その後、見たいテレビ番組を見終えたので部屋に戻って勉強に励んだ。
お風呂に入る時間になった。その時間にも乃愛は帰ってきていなくて、母さんに声をかけられた。
「乃愛ちゃん、明日は帰ってくるの?」
「多分……?」
「もう博人はどうしてそれを聞いてないのよ。ご飯がいるかどうかも含めて聞いといた方がいいでしょ」
「今度から聞く」
厳密に言えば乃愛はご飯なんて食べなくても、生きていけるからご飯の準備はなくても問題ない。でも母さんからしたら気になるようだ。
お風呂から上がった後はクラが僕の周りをうろうろしていたので、撫でたり抱っこしたりした。クラは気持ちよさそうににゃぁあんと鳴いている。乃愛がいないからかクラはご機嫌である。
そしてその後、眠りにつく。
ぐっすりと眠っていたら、僕の名を呼ぶ声がした。
「博人」
「ん?」
「博人ー。おーきーて!」
しばらくその呼び声を聞いて、乃愛の声だと目を開ける。
そこには僕のことを見下ろしている乃愛がいた。最近見慣れている黒髪黒目の乃愛ではなく、異世界での本来の姿だ。
真っ白い髪に、赤い瞳。
何だか神秘的な雰囲気を身にまとっている。
「……乃愛」
「ふふ、博人寝ぼけている?」
「……うん。寝てたし。乃愛、今何時?」
「夜中の二時!」
「そんな時間に僕を起こさないで……」
「ごめんね。博人。ただいまって博人にいいたかったの!」
「……おかえり、乃愛」
「うん。ただいま、博人」
乃愛は満面の笑みを浮かべて、幸せそうに笑っている。
「ねぇねぇ、博人、私ちゃんと向こうで頑張ってきたの。博人のために! だから、博人、添い寝してもいい?」
「……う、いや駄目だろう」
寝ぼけていて「うん」と頷いきそうになって断った。
――乃愛は少し不満そうな顔をして、「むー。じゃあ今度ね」といって去っていった。
その後、僕は寝た。




