女神の来訪、記憶改変もするらしい。 ④
「それにしてもこの子の力が通じないなんて本当に異常です。本当に人間ですか?」
僕の方を向いた女神様にそんなことを言われて、僕は頷く。
本当に人間かと問われても人間であるとしか言いようがない。これで僕が人間じゃないなんてなったら僕は驚く。
「お姉ちゃん、博人はただの人間だと思うよ。正直言ってこう、なんか湧き上がる力とかも感じられないでしょう。私たちのような神の力があるわけでもなくて、かといって人間としての雰囲気しかないし。本当に不思議なんだよね」
「ふーむ。確かに神や異種族かと言われればそういう感覚もないですね」
「寧ろそういう何かがあるなら私たちは気づけるはずでしょう。そういうのがないから私は博人が私の力がきかないって最初気づかなかった。お姉ちゃんもそうじゃない? 博人はお姉ちゃんがこちらに来た時に声を聞いたっていってたよ。でもそれもお姉ちゃんは気づかなかったでしょう」
「そうなのですか? そうですね……。こういう稀有な人間がいるとは気づかなかったです。そもそもの話、力がきいていない状況だというのならば、違和感で溢れていたと思います。その状況で普通に生活をするなんて……この人間、変ではありませんか?」
「お姉ちゃん、そこは博人の良い所だよ。何かがあった時にそれだけ自分を律することが出来るなんて素敵じゃない。博人はとても用心深いんだよ。そういう博人だからこそ、私だけが見つけられたんだよ」
女神様に変だって言われてしまった。
……変って言われても、僕は杉山にも女神様にも、異世界なんてややこしいものに関わりたくなかったのだから仕方ないじゃないか。
とはいっても今はすっかり乃愛と関わってしまっているから、女神様とも話してしまっているけれど。
ただ女神様の記憶からは乃愛が消してくれるだろうし、この後も普通に学園生活を送る気しかないけれども。
「……というか、貴方、私を見て何か思ったりしないのですか? この世界の神ではないにしろ、異世界の神が目の前にいるのですよ?」
「何かって?」
「何ですか、その平然とした声色は! 普通は、私に見惚れたり、私に願いを口にしたり、私に跪いたりするものですよ! 貴方、私を見ても何も感じないんですか?」
ものすごく自意識過剰な発言をされた。こういう物言いをする人……いや、神だけど、実際にいるんだなぁと僕はぽかんとする。
見惚れる……うん、確かに綺麗だとは思う。素直に美人だとは思う。だけど正直それだけ。
最近では乃愛を見慣れているから、余計に女神様の姿を見ても何も思わないのかもしれない。まぁ、元々僕は見目が整った人間を見てもそこまで心が動かされない方だから乃愛がいようといまいが変わらなかったかもしれないけれど。
願い……うん、神様が相手ならばお願いをする人もいるだろう。自分の望むことを叶えてもらおうとして神に願いを口にするものはいるだろう。僕もお正月や神社にいった時は、お願いをしたりする。でもいざ、神を前にしてみて、願いを口にするなんてのは考えていなかった。
そもそも僕は神に叶えてもらう願いなんてないし、平凡に今まで通りの日常を送りたいと思っているのに神様に願いを叶えてもらうなんて他にない経験したくない。
跪く……うん、これもとくに思いつかなかった。目の前にいるのは神様だけど、そういう発想はなかった。乃愛と初めて会った時は殺されたくないと土下座したけれど、この場でその必要もないと思う。
そんなことをしたら乃愛に止められるだろうし。
……で、何か感じるかというと。
「……乃愛が女神様は英雄と恋仲になることがあるっていってましたけど、杉山もそういう対象ですか?」
「な、何を聞くんですか!」
先ほど乃愛にいわれたことを思い出して、異世界で『勇者』をやっていた。そして杉山はどこぞの主人公かとでもいう風に女性に囲まれている。
もしかしたら女神様もそうなのだろうかと思った。
そしたらその予想は当たっていたらしい。女神様は顔を赤くしている。でも恋人ではなく女神様が気になっているだけみたいな印象だ。
異世界に『勇者』として召喚されて、戻ってきた世界に異世界人を連れて来て、女性に囲まれていて、異世界の女神様にもそういう思いを向けられ……うーん、なんて人生を送っているんだろうかと思う。
そんな状況であんな風に生きられる杉山は凄いなと思った。僕には無理だ。
それにこの調子だと異世界で杉山に憧れている女の子は多そうだ。異世界だったら一夫多妻制もありだろうけど、地球で日本だとそういうのないし、杉山はどうするのだろうか?
などと少し考えた。
「博人、それよりお姉ちゃんに聞きたいことあるんでしょ?」
「あ、そうか。……えっとあとは、女神様、何でわざわざこっちの時間を巻き戻したんですか? 僕、三年生にあがるはずが、二年生になってびっくりしたんですけど」
「そちらの方がひかるにとってやりやすいでしょう」
はっきりとそんなことを言われ、女神様だからこその『勇者』贔屓があるんだなぁと思った。
まぁ、僕は何でか知らないけれど時間が戻ったことに気づいただけで、他の人は気づいた様子がないから別に僕以外には支障がないことなのだろう。