女神の来訪、記憶改変もするらしい。 ③
「ノースティア!! 貴方、異世界に居座っているのもそうですけど、私の事を無理やりこの場所に引きずり込むなんて、本当に規格外です。というか、此処はどこですか??」
「ようこそ、お姉ちゃん。お姉ちゃんは今日も元気だね? 此処が何処かは秘密だよ」
乃愛に話しかけているその女神様の姿は神々しい。だけれど、なんというか……乃愛がいることに慣れてしまっている僕は、その女神を見ても案外普通だなと思ってしまった。
見た目は結構乃愛と違う。
その杉山と親しくしていると言う女神様は、美しい金色の髪と、透き通るような瞳を持つその人は確かに女神様というのにふさわしい見た目をしていると言えた。
神だからこそ、姉妹とはいっても色々異なっているということだろうか。そもそも血の繋がった人間でも兄妹で似てなかったりすることはあるから、似てない姉妹というのも不自然ではないか。
なんて考えながら僕は乃愛と女神様を見ていた。
ちなみにこの場所に女神様が訪れた段階で、僕の部屋の雰囲気は中々おかしなことになっている。何だか僕の部屋じゃないみたいなそんな感じな気がする。あとクラは今、母さんに見てもらっている。
乃愛がいうには流石に図太いクラでも女神様を前にしたら大変かもしれないとのことだった。
それにしても女神様、僕に気づかないな。
……それとも気づいてても乃愛に操られていると思われている可能性もあるかもしれない。僕はそんなことを考えながら、どのタイミングで乃愛がこっちを見るかななどと思う。というか、僕は流石に話している乃愛と女神様に割って入ることはしにくい。
「本当に貴方は!! この異世界で何をやらかすつもりです? 貴方が本気で暴れればどんな世界だって壊れるってわかっているでしょう? 異世界に興味を持っているのは分かるけれど、そんなにずっとこの世界に留まる必要はないでしょう? 帰りましょう。ノースティア」
「お姉ちゃんは酷いなあ。私だってずっと暴れているわけじゃないよ? それに暴れないよ? 博人が暴れるなって言っているから、私は暴れずに此処にいるの。それに帰らないよ? 少なくとも博人の寿命が尽きるまで帰る気ないもーん」
「はい……? 博人……?」
「ほらほら、お姉ちゃん、全然しかいに留めてないけれど、これが博人だよ。私のダーリン!!」
「はい……?」
何を言っているんだとでもいう風に、その女神様の視線が僕に向いた。……いたたまれない。
「えっと、初めまして。異世界の女神様。僕は薄井博人と言います」
「はい……?」
「ふふふ、お姉ちゃん、ぽかんとした顔している。なんと、博人は私の力、効かないんだよ! 凄くない?」
「は?」
「ついでにいうと、お姉ちゃんのやってる常識改変も効いてないよ! すごいでしょ!」
「は?」
「一年巻き戻ったことや『勇者』のこと気づきながらも、気づかないふりしてたんだよ!」
「はぁああ?」
女神様が、信じられないものを見る目でこちらを見ている。
それにしても声だけ聴いていた時は、流石異世界の女神様と言える雰囲気だったけれど、今はそういう感じはない。
まじまじと見つめられる。ちなみにそんな女神様を見て乃愛はにこにこしている。
「……本当ですか? 私の力が効いていない?」
「ええ、と、はい」
「……それにノースティアの力も? ありえないです。ノースティアの力は本当に強い。誰にでもこの子は言うことをきかせられる。私だってこの子の力に抗えない。なのに、ただの人間が……? 信じられません」
「そんなことを言われても……」
僕も何で自分に常識改変が効いていないのかと疑問で仕方がない。
僕が周りと同じように杉山たちのことを疑問に思わなければ、楽だっただろうなぁと思う。スルー力をこれだけ磨くこともなかったし、何か色々考える必要もなかった。
でも乃愛と過ごすのは楽しいし、それにこの世界に何が起こっているかわからないままにこの世界が異世界から影響を受けていると言うのは何だか面白くないし、そもそもそんなたらればのことを考えたところで僕がそういう影響を受けないことは変わらないし。
うん、まぁ、考えても仕方ないかなって思ってる。
「お姉ちゃん、私ね、誰もが私の影響を受けて、誰もが私の言うことを聞くって思ってた。でも博人は違うんだよ。私の力がきかないから、私は博人の傍にいるって決めたんだ。だからね。お姉ちゃん、私は帰らないよ。博人の側にいるって決めたから。博人が郷に入って郷に従うようにっていったから大人しくするし、人間としての名前ももらったし」
「……人間としての名前?」
「うん。私、白井乃愛って名前で博人と一緒にいるの。だからお姉ちゃん、博人が私にくれた名前で呼んでほしいな」
「……そうですか。貴方が、名前を。それにそんなに嬉しそうにしていて、本当にこの少年の傍に居たいと思っているのですね」
「うん」
「良かったですね。ノースティア。いいえ、乃愛」
優しい笑みを浮かべて、女神様は乃愛に笑いかけていた。




