女神の来訪、記憶改変もするらしい。 ②
「博人、今日、お姉ちゃん来るからね」
「うん」
何だかんだ僕は乃愛の言葉に頷いてしまったため、女神がやってくることになった。
乃愛はやると決めたらやる存在なので、女神がその後、忘れるようにしてくれるとのことなので、僕はそれを信じることにした。そもそも乃愛が嘘なんて吐くわけがないだろうし。僕に嘘なんてついても乃愛に得もないし。
女神がくると聞いたところで、僕は特に何も準備などはしていない。乃愛は準備しなくていいっていったし、そもそも神様なんて存在をどうこうする力など僕にはないし。
それにしても女神がやってくる……うん、全然実感が湧かない。
そもそも乃愛がいることにはようやく慣れてきたけれども女神ねぇ……。僕は杉山たちがやってきて、時間が繰り返されているのを知ってからスルー能力は高くなってきたけれども何だか少し落ち着かない。
「博人は、お姉ちゃんに聞きたいこととかあるの? なんでも私が答えさせるよ?」
「答えさせるよって、なんで無理強いしようとしているの」
「だって当然だよ。お姉ちゃんがこの世界に『勇者』を返したからこそ、博人の人生結構変化させられてるもん。まぁ、『勇者』がこの世界に戻らなければ私は博人と会えなかっただろうから、感謝してるけどさー」
乃愛はそんなことを言いながら椅子に腰かけて足をぶらぶらしている。ちなみにその膝の上には、無理やり乗せられたクラがいる。
「……敢えて聞きたいとなると、わざわざ時間を巻き戻した理由とかぐらいか? 杉山のことを行方不明者のままにしなかった理由とか。まぁ、二回目だからこそ勉強ははかどっているけどさ」
「んー。多分、そこまで深い理由はないよ? お姉ちゃん結構考えなしだし。あと神だからこその傲慢さもあるから、優しい女神って言われていても結局『勇者』のことを一番贔屓しているからね。もちろん、私は博人を一番に贔屓しているよ」
神と呼ばれている存在だからこその、傲慢さというものがあるらしい。
神と呼ばれる存在でなんでも自分の思う通りに出来たからこそ、そういうのがあるのだろう。乃愛も十分にそういう傲慢さがあるけれどさ。
なんでも自分の思うようになると思っている乃愛。乃愛はだからこそ、僕に執着していると言えるだろう。僕が自分の思う通りにならないから、というそれだけに理由である。
「博人、私は博人のことをずっと贔屓し続けるからね。博人も私のことを贔屓してね。特別に思ってくれたら嬉しいな」
「……いや、それは確約出来ないけど」
乃愛は僕に向かって笑いかけるけれど、僕は乃愛が求めているものを返せるかどうかというのは確約出来ない。なのではっきりとそう言えば、乃愛はおかしそうに笑った。
「本当に博人は、素直っていうか……。そういうところがいいと思うわ。お姉ちゃんにもきっとそういう態度をするんだろうね。ふふ、お姉ちゃんがどういう反応するか楽しみだなぁ。ああ、でも博人、お姉ちゃんが博人に興味を抱いた瞬間、私はお姉ちゃんの記憶消すからね?」
「いや、他の世界の女神が僕に興味なんて抱かないだろう」
「ううん。そんなことない。博人は変わっていて、素敵だもん」
「というか、流石に女神にこういうずけずけいわないよ」
「私には言うのに?」
「乃愛が相手だから。でも女神はなんか、他の世界の神様だし……なんていうか、そこまでずけずけは言えないっていうか」
「ふふ、私にははっきりいってくれるんだもんね」
なんだか乃愛は僕の言葉に嬉しそうににこにこと笑った。
……というか、よく考えたら乃愛も神様なんだよなぁ。普通に考えて、異世界で特別な力を持っていて、人を操る事が出来るような乃愛にずけずけいっているなんておかしいよなぁ。
でもなんというか、乃愛と接しているとそういう態度になっているというか、僕も乃愛に慣れてきたっていうそういう証なのだろうと思う。
乃愛はこういう態度をしても怒らないし、寧ろこういう風にはっきり言ってほしいと思ってそうなので、そう言う風になっていったというのもあるだろうけれど。
「お姉ちゃんの姿って見たことあるんだっけ?」
「いや、声だけ聴いただけ」
「お姉ちゃん絶世の美女って言われているんだよ。お姉ちゃんの美しさに英雄が感激して、求愛したりしたぐらいなんだよ。お姉ちゃんも気に入った人とは身体の関係結んだりしたんだよ。……博人もころっといく?」
「やっぱり神様って英雄とそういう仲になったりするものなの? ファンタジーの小説とか読むとそういうの見たことあったけど。あと僕の平凡な生活のためにそういうのはいらないかなぁ……」
神様というのは、英雄と関係を持ったりとかするらしい。
それにしても『勇者』とかかわりがある女神とか、もっと貞淑なイメージだったけれど、神だからこその奔放さというのがあるのかもしれない。
そんなこんな話していると、その場の空間が固まったのが分かった。
乃愛の姉である女神というのが来たらしい。