にこにこと笑う乃愛は、何かを見つけて飛び出す ④
「見てみて、博人、猫! こーんなに小さくてか弱いのに、私に爪をたてようとするんだよ! 動物的な本能とかないのかな? ちょっとおばかさん?」
「……乃愛、猫相手に何言っているの?」
嫌がる黒猫を抱えた乃愛は面白そうに笑っている。
乃愛に抱きかかえられた黒猫は不機嫌そうに乃愛をひっかこうとしている。だけれど、乃愛は気にした様子はない。
「魔物だと私の怖さとかを本能で感じるのか、すぐ逃げるんだよね。だからこそこんな風にされたことなかったんだよ」
「へぇ」
「まぁ、この子がちょっと抜けているだけかもだけどね。本能が強い人は私から逃げるし。その点は博人にも言えるけどね?」
「え、僕、抜けてる?」
「抜けてるっていうか、楽観的っていうか、んー、それとは違うか。なんていうんだろう、博人は私がどういう存在か知ってもそのままだからね。でも抜けてはいるのかなーって思うよ」
乃愛はそんなことを無邪気に笑って言う。
僕は抜けていると言われるとちょっとショックだった。でも乃愛は嬉しそうに笑いながら言っているから、悪い意味で言っているわけではなさそうだ。
クロネコを抱えたままの乃愛に僕は問いかける。
「ところで、乃愛、その黒猫、どうするの?」
「どうって? 食べるかってこと?」
「……あの、乃愛、他の国は知らないけど日本だと猫は食べないよ」
「そうなの?」
「うん。それでどうするのかって聞いているのは飼うのかって思って」
「あ、ペットとして?」
「うん」
「んー」
僕の言葉に乃愛はどうしようかなとでもいうような表情で、両手で抱えた黒猫と見つめあう。
黒猫は生意気そうな顔をして、乃愛をひっかこうとしている。
「うん! 飼う!! でも博人ん家で飼いたいなー」
「……僕ん家で?」
「うん。だって私、博人ん家に入り浸っているから、それの方がいいじゃん。駄目?」
「えーと、母さん達がいいって言ったらいいよ。それに乃愛が拾うなら乃愛が面倒を見るんだよ。途中で飽きたからって捨てたりするのは駄目だからね」
「こいつが死ぬまでずっと?」
「うん。というか、そういう言い方しないで。動物を飼うっていうことはその命まで責任をもって面倒を見るものだからね。飼った猫を捨てるのは犯罪だし。この世界で暮らすならちゃんとその辺のルールは守って猫を飼うんだよ」
「んー。なるほど、この生意気な猫の一生の責任を持てばいいってことだね! いいよ! 持つ持つ」
「……軽くない?」
「大丈夫だよ。ペットを飼うのは初めてだし、気になるから飼うよ」
「飽きたからって殺したりとかしないでよね?」
「しないよー。私ってそこまで簡単に誰かを殺したりしないよ? 敵対者は殺すけど、この子は私が拾って、私が育てることにした私のモノだしね」
本当かなぁ……と思いながらも乃愛と一緒に黒猫を連れて帰る。その黒猫はずっと乃愛をひっかけようとしていた。ちなみになぜか僕には懐いていてゴロゴロいっていた。なんでかは不明だけど、まぁ、いいやと思っておく。
あと父さんと母さんにもその猫は冷たかった。
だけど近所のおばあさんには懐いていたから、その猫の好みなのか、気まぐれなのだろうか。
「生意気! 博人にくっつきすぎ。私もくっつく!」
「いや、なんで? 猫に張り合ってどうするの。ところで、乃愛、母さんが許可出していたけれど、この猫の名前どうするの?」
「名前? つけなきゃ?」
「うん。普通にペットには名前をつけなきゃだよ」
「んー。じゃあ、クラネットで」
「何でその名前?」
「適当に思いついたから。理由はなし」
「そう。まぁ、いいや。じゃあクラって呼ぼう」
クラは僕が名前を呼ぶと嬉しそうにしていた。
そうしてクラ――クラネットがペットになった。
ちなみにクラ以外の動物には、確かに乃愛は逃げられていた。本能が強い存在はそういって逃げていくのだろう。
……そう考えるとクラって、随分図太いというか、抜けているというのは確かなのだろう。
それにしても鳥とかもすぐにぱって乃愛を見た瞬間逃げていくからなぁ。乃愛が言うには「人間は見た目で判断する事が多いから逃げないけど、ああいうのは逃げるよ」って言ってた。
あとは乃愛の強さを知っていても乃愛に立ち向かおうとしてくる存在もいるらしいけれど。乃愛はクラに歯向かわれて楽しそうにしている。
それにしてもクラも乃愛に爪をたてたりしようとはしているけれど、何だかんだ少しずつ乃愛と仲良くなっていっているようだ。まぁ、あんまり乃愛には自分から近づこうとはしないけれど、構われると仕方ないなーって顔をしている。
乃愛と一緒に学園で黒猫の話をしていると、クラスメイトに話しかけられて、ペットを飼っているクラスメイトとは少しずつ話すようにもなった。大体乃愛が話して僕は会話しないことが多いけれど。
家でも僕が本を読んでいると乃愛とクラが気づけば近くにいたりして、なんか僕の日常も少しは変化しているんだなぁと思った。