にこにこと笑う乃愛は、何かを見つけて飛び出す ③
「むー。博人、これ、何が何かわかんない」
「えっと、乃愛は何食べたいの?」
「私、ご飯食べなくてもいきていられたから、あんまりその名前知らないんだよね。博人、どれがいい?」
「……じゃあ、適当に頼むけどいい?」
「うん!! 博人が選んだものがいい」
乃愛は僕の言葉に満面の笑みで頷いた。
僕はその言葉に、乃愛は何を食べたいのだろうかと思考する。
乃愛は母さんの作った料理をにこにこしながらいつも食べていて、乃愛がどんな料理が好きなのかというのを僕は知らない。
すっかり乃愛は僕の傍に居るのが当たり前のようになっているけれど、まだ出会って少ししか経っていない。乃愛が何を好きで、どういう人なのか、僕は知らない。
……でも少しずつ一緒に過ごしていると、乃愛がどういう存在なのか分かるようになってくる。
乃愛は退屈していて、誰からも何もかもを与えられていて、全てを持っているようなそんな存在。それでいてなぜか僕に興味を抱いてずっとにこにこと笑っている。
乃愛が下手な事を起こさないように乃愛が好きなものとかあるならあげてみるのもいいかもしれない。
僕は幾つかのケーキと、紅茶を頼む。
乃愛にも同じものにしている。とりあえず何種類か頼んでみた。乃愛はそれだけで笑っている。
「博人、楽しいね」
「うん」
「博人はこういう喫茶店はあまりこないの?」
「うん。僕は基本引きこもり気味だから。乃愛は結構外に出るほう?」
「興味があったら結構出るよ! 博人と一緒に家でのんびりするのもいいけど、こうやって出かけるのもいいなぁって思うけれど、もっと連れて行ってくれる?」
「別にいいよ。僕もそこまで外に出るわけではないけれど、理由があるなら外にも出るし」
僕は必要がなければ外には出ないけれども、乃愛が行きたいという理由があるのならば出かけるのも別に構わない。
「嬉しい。ところで、博人、このチョコレートケーキ、美味しいね」
「ああ。このチョコレートのクリームも滅茶苦茶美味い。流石、評判の喫茶店だな」
僕はこの喫茶店には初めて来たけれど、クラスメイト達が噂していただけあって美味しかった。
たまにこうして外で食べるのもアリかもしれない。まぁ、僕は漫画とかを買いたいから、あまり外で外食はしないけれど。結構外で食べるとお小遣いが減るしなぁ。
「博人は、お気に入りのケーキある?」
「僕はそうだなぁ。チーズケーキとかも好きだけど。甘い物は結構好きだからどれも好きだけど」
「じゃあ私もチーズケーキ好きになる!」
「いや、乃愛、こういうのはさ、誰かに言われて好きになるものじゃないよ。僕が好きだから食べたいってのはありだけど、好きになるって気持ちは誰かに言われてやるものじゃないし」
「そう? でも全部一緒に見えるしなぁ」
「……乃愛ももっと色んなものを食べて、食事を楽しむことが分かるようになったらもっと好きなものとか出来るんじゃない?」
「ふーん、そう?」
「うん。僕はさ、乃愛が折角日本で過ごすなら僕は僕について回るではなくて、もっと楽しんでほしいって思うよ」
乃愛が僕について回るのは、止めるのは無理なので諦めるとして……、どうせ乃愛が異世界から日本に来て楽しむなら、ちゃんと自分で好きなものを見つけてもらった方がいいのではないかとそう思った。
誰にもばれないように気づかないようにすることを目標にしていたけれど、乃愛に見つかるという事が起こってしまったものは仕方がない。
「博人は私に楽しんでほしいんだね! 私は興味を持つけれど、中々長続きしないんだ。でも博人と一緒にずっとはまれるものが探せたらいいかも。一緒に探してね、博人」
「うん」
「でも安心して。多分私、博人にはずっと飽きないからね?」
「いや、それは飽きてもいいよ。でも僕に飽きたとしても、物騒なことはしないでくれると助かる」
「しないよ? 私は嫌いな人には容赦しないけれど博人がいるこの世界を気に入っているもん」
……いや、本当に僕に飽きたらこの世界ごと壊すんじゃないかって思うから、この世界が楽しいものだって思ってくれたらいいなと思った。僕も自分の世界が乃愛に滅ぼされるとか嫌だし。
喫茶店で、ずっと乃愛はにこにこしていた。
楽しそうに笑って、ケーキを食べて、紅茶を飲んで、学園での話を話す。
なんだかこうして当たり前の日常だけ話していると、乃愛が普通の少女のように見えたりしてしまう。
実際はそうでもないけれど……でもそんな風に思うぐらいに乃愛は、まだこの世界にきて間もないのに、馴染んでいる。
喫茶店から出た後はすっかり夕方になっていた。
夕方に家に向かって歩いていると、猫の鳴き声が聞こえてきた。どこかに野良猫でもいるのだろうか? と思っていたら、乃愛が「何かいる?」と言いながらそちらに向かっていた。
そういえば異世界って猫っているんだろうか?
魔物とかがいるわけだし、普通の動物と共存できるイメージはあまりない。それとも魔物をペットのようにしているのだろうか。