乃愛との学園生活のはじまり ①
「おはよう、博人」
「……おはよう」
GW明け。
久しぶりに学園に通うその日、僕が目を覚ましてリビングに向かうと、そこには乃愛の姿があった。
乃愛はにこにこと笑いながら、僕におはようなんていう。
僕は正直言って朝から乃愛が当たり前みたいに僕の家にいるのに驚いた。でもここで騒いでも母さんと父さんに変な目で見られてしまうだけなので、平然を装いながら声をかける。
制服を着た乃愛は……髪の色や目が違和感ないように黒にしているとはいえ、それでもこの世界にいるのに違和感を感じる。それだけ乃愛が特別な雰囲気を醸し出しているからと言えるのかもしれない。
それにしてもこれだけ存在感があふれ出しているのに、乃愛に違和感を感じるのが僕だけとか信じられないよ。
乃愛と一緒に母さんの準備してくれたご飯を食べる。朝から白ご飯を食べられると少し気分が上がる。
乃愛はあまりご飯を食べたことは異世界ではなかったらしい。聞いている限り西洋風の異世界だから、米を食べるというよりパンを食べることが多かったようだ。
乃愛はお米を気に入ったみたいで、GWから興味深そうに食べていた。乃愛は食事をしなくても生きていけるらしく、そんなに毎食食べているわけでもないらしい。
「乃愛、食べる必要ないなら僕と一緒に無理して食べなくていいんだよ」
「ううん、私一緒に食べる!」
「……そう。ならいいけど、一応ご飯代ぐらいは母さんに渡してもらえると助かるかなぁと」
僕の家も生活には困ってないが、お金持ちというわけでもないので、一応そう言っておく。
それにしてもただ朝食を食べているのに乃愛は心の底から楽しそうである。何だろう、おもちゃを見つけた子供みたいな? それを考えるとおもちゃって僕のことなのだろうか? そう考えると少しだけ複雑な気持ちになった。
「うん。もちろん、人間はお金が大事だもんね。私知ってるよ。お金のために家族を殺した人とか結構見てるし。権力とお金は人間を狂わすから」
「……そっか。でもとりあえず朝食の間にそういう会話はなるべくしないで。あと母さんたちが気にしないようにしていたとしても、僕は物騒な会話ご飯中に挟まないでほしいから」
「了解。博人がそういうならそうするよ。だから良い子って褒めてね?」
「当たり前のことなんだけど……」
「博人、褒めてくれないの?」
「……えっと、褒めます」
何故だか褒めてほしいらしい乃愛。
僕の言葉に、乃愛ははにかむように笑った。
あれだな、僕の平穏な生活のためにも細かい事でもなんでも乃愛を褒めまくった方がいいかもしれない。乃愛のことを褒めまくって、機嫌よくなってもらってへたな事にならないようにした方がいい気がする。
でもまぁ、乃愛って嘘か本当かとか見破れそうだから、嘘は吐かないようにした方がいいだろうけれど。
でも案外乃愛を褒めることに関しては簡単かもしれない。
乃愛は出来ることが多くて、魅力的な点が多いと客観的に見ても分かるから。
「乃愛、ちゃんと学園に行く準備は出来てる?」
「うん。博人が昨日一緒に準備してくれたそのままで鞄につめてあるよ。こんな重いもの持って毎朝いくの面倒だね」
「まぁ、乃愛にとっての初日だから多いだけだよ。ロッカーに置くことは出来るから。でも宿題はちゃんとやらなきゃだよ。というか、乃愛の扱いってどうなってんの?」
「ん? 私の扱い? 普通に最初から博人のクラスメイトにしたよ! こうして博人と一緒に学園なんてものに通えるなんて楽しみなんだよね」
「あー。そう……」
本当に乃愛は万能感があるなぁと驚いてしまう。
このGWの数日ですっかり乃愛の非凡さに慣れてしまっている気がする。
去年の、一度目の高校二年生を平凡に送っていた僕は、こんな未来が待っているとは全く思っていなかったな……と遠い目になった。
「博人、何をぼーっとしているの? そろそろ行かないと遅刻するわよ」
「あ、本当だ。いってきます。母さん」
「いってきますー」
ゆっくりしていたらそろそろ家を出なければいけない時間になった。
母さんに行ってきますと僕が告げれば、乃愛も真似をして告げる。
乃愛と一緒に学園に通うなんてやっぱり不思議な気持ちでいっぱいだ。
いつかこれが当たり前になったりするんだろうか。まぁ、乃愛が僕に飽きる可能性が高いけれど。学園で杉山の方に興味を持ったりしないかな?
杉山ってナチュラルにハーレム作っている系の存在だから、異世界の神枠の乃愛もヒロインとしてぴったりだと思うんだけど。……あと現実でハーレム作って最終的に杉山は何処に向かう気なのだろうか、なんてちょっと考えた。
「博人、びゅっていったら駄目?」
「ええと、びゅってのは?」
「一瞬で移動するの!」
「駄目だよ。乃愛は普通に学園に通うんでしょ。そのまま歩くよ」
「はーい」
乃愛は転移的なものも出来るらしいが、とりあえず止めておいた。
……なんかもう本当乃愛が規格外だなぁと実感しながら学園に僕は向かうのだった。
隣を歩く乃愛は何が楽しいのか、にこにこと笑っていた。