GWの、いつもと違う日々 ③
GWの間、ずっと乃愛は僕の傍にいた。
夜だって僕の家に泊まろうとしていたぐらいだ。ただ流石に隣人っていう認識なら、毎回僕の家に泊まるのはおかしいって言い張ったら、渋々隣の家(空き家)に住まうように常識改変していた。最初は支払いもせずに住もうとしていたので、そのあたりはきちんとしてもらった。
乃愛は少し不満そうに、だけれども嬉しそうに笑った。
やっぱり乃愛にとってみれば、何でもかんでも自分に与えられるのが当然だったのだろうと思う。
さて、大人しく隣の家で寝起きするようになった乃愛――とはいっても寝る必要は乃愛にはないらしいけど――は朝から僕の家にやってきて、夜まで僕の家にいる。
僕がリビングに居ればリビングにいるし、僕が自室に居れば僕の自室にいる。……親ガモを追いかける子ガモか何かなのだろうか、と正直そういう気持ちになってしまった。
もちろん、乃愛は子ガモなんて可愛いものではなく、異世界の女神様の妹で、強大な力を持つ存在なわけだけど。
僕のGWは乃愛が現れたことで、いつもと違うものになった。
まぁ、そもそも今年は二度目の二年生で、杉山たちが現れたのもあって、普通の生活とは若干ずれていたけれど。
僕はちらりと乃愛を見る。今、乃愛は隣に座って一緒にテレビを見ている。
乃愛は本来の髪と瞳の色をすっかり隠して、黒髪黒目にしてある。
僕は見ていれば、乃愛は「どうしたの、博人」とにっこりと笑って告げる。
「ええと、乃愛。僕について回って飽きない?」
「飽きる? なんで?」
心の底から不思議そうに乃愛はそんなことを言う。
本日は実はGW最終日だったりする。僕はGW中に乃愛が僕のことを飽きて、明日の学園から通常通り――乃愛のいない暮らしが出来るのではと淡い期待を抱いていたのだ。
だけれども、乃愛は全く持ってそんな僕の期待に応えてくれる気はないらしい。
「乃愛は僕の傍に居るつもりって言ったけれど、僕は平凡じゃないか。面白い所なんてどこもないと思うけれど」
「あはは、何言っているの? 私の力もお姉ちゃんの力も――何も効力をなさないことが面白いんだよ」
「乃愛は僕よりも面白い、僕みたいな人探した方がいいと思うけど」
「しー、そういうのはなし! 私が博人の側から離れるわけないからね? 楽しく学園生活送ろうね?」
乃愛が僕の唇に人差し指を当てて、そんなことを言う。至近距離でそんな仕草をされると少しドキリとしてしまった。だけど、すぐにそんな気持ちを振り払う。
乃愛を力づくでどうにかする力など僕にはない。それどころか乃愛が全力を出せば僕なんてひとたまりもない。
僕は早急に諦めることにした。
「うん。分かった。じゃあ明日から乃愛と学園に通う」
「うんうん。それでいいの。楽しみだなぁ、博人と通う学園」
「……本当に杉山たちにはバレないんだよね?」
「心配しているの? 大丈夫だよ。私の力が効かない存在なんて――博人だけなんだから。私を信じて、博人」
「……うん、わかった」
僕には頷く以外の選択肢は与えられてなかったので頷けば、何だかその言葉が嬉しかったのか、乃愛は嬉しそうに笑っている。
「そういえば、乃愛、ここ数日魔物の遠吠えが夜には聞こえないけど、何かした?」
「うん。悪い子にはおしおきなの。博人は魔物の遠吠えだってちゃんと知覚できちゃうでしょ。だから、ちゃんと仕留めておいたよ」
「……というか、結構魔物入り込んでいる?」
「うん。『勇者』をこの世界から呼ぶ時と、『勇者』をこの世界に返す時、あと私がこの世界に来る時も含めて、この世界と私の世界は接触したから、そこで魔物が漏れてたりするよ。あと私が面白そうだなって開けちゃった穴もあるし」
「え、やめて! そんな恐ろしい真似、本気でやめて!」
「ふふ、大丈夫。博人に出会ってからちゃんと意図的に開けた穴は閉じているから。魔物なんかより博人が面白いし、博人は悪い子な私よりも良い子の私の方がいいでしょ?」
「うん! そっちの方がいいよ。というか、本当に周りの人を巻き込むようなことはやめてほしい」
問いかけられた言葉に全力で頷いておいた。
少なくとも今は、乃愛は僕のことを気にかけているからこそ、僕の言葉を聞いてくれるはずなので、そう言っておく。
だって乃愛が起こしたことで人が亡くなったりしたら僕の心臓に悪い。面白半分で色々行動しないでほしい。
「わかってるよ。だから私良い子やるからね。あと博人は安心していいよ。魔物が漏れているのもそのうち収まるはずだから。意図的に魔物をこちらによこそうとしているなら別だけどね」
「恐ろしいこと言わないでほしいんだけど」
「博人は大丈夫。私が守ってあげるから」
乃愛の意図的にやったら別だという言葉に思わず、恐ろしい気持ちになる。
そんな僕に乃愛は満面の笑みで告げるのだった。
明日から再開する学園生活……乃愛が一緒に通うと言う不測の事態が起きているので、どうなるかは分からないけれど、はやく乃愛が僕に飽きてくれるようにしたいなと思った。