色々情報を知っても相変わらずの日常 ②
「うわぁ……」
数日が経って、僕はたまたまあの日、聞きなれない音がした場所の近くを通った。
そして目の前の光景に、思わず引いたような声が漏れてしまう。
土砂崩れ防止のコンクリートの壁が破壊されていた。工事の人がヘルメットをかぶって作業をしている。これだけの大きな破壊行為がされていれば、普通に考えれば報道され、原因が徹底して調べられるはずである。
だけれども――そのことはニュースにもならず、噂にもならず、調べられてもいない。
――それだけでも杉山たち関係の事が起こっているというのが良く分かった。
恐ろしい存在が起こしたこととなると、僕にはどうしようもないので僕はそのままその破壊された場所を横目に歩き出す。そうしていれば、運が悪いことに――たまたま杉山たちが歩いてきていた。相変わらず目立つ存在である。僕が彼らに視線を向けていても、元々目立つ存在なので、特に驚かれることはないだろう。
そんな風に思っていたのだが、予想外に杉山たちに話しかけられた。
「薄井じゃないか。これから帰宅か?」
「え、あ、うん。このまま帰る予定だよ」
杉山はコミュニケーション能力の化け物である。僕のようなぼっちな人間にも話しかけてくるのだ。というかちゃんと僕のことをクラスメイトとして認識してくれていたんだなと驚いてしまった。
というか認識していたとしてもこんなに話しかけられないし。フラッパーさんたちは僕には関心は特にないようだ。
そんなクラスメイトいたな……みたいな感じらしい。
「じゃあな、また明日、薄井」
「う、うん」
……というか本当にコミュニケーション能力の化け物すぎない? 僕には全く持って真似が出来ない。
あと杉山たちが、全くあの破壊痕を気にしていないのもよく分からない。情報を持っているからこそ気にしていないのだろうか? 杉山たちがすたすたと歩いていくのを見ながら僕はそんなことを思った。
まさか、杉山たちがこの突如現れた破壊された痕を違和感を感じていないなんてことはあるのだろうか? 異世界の『勇者』である杉山が違和感を感じないなんてないと思うけれど。でもこれだけの痕跡を前に、事情を知っていたとしても反応しないなんてことあるだろうか。
考えても仕方がないことを僕は考えて何とも言えない気持ちになる。
仮にである。
この常識改変が僕にだけ通じなかったとしても、ただ僕はいつも通り知らんぷりするだけである。知らないふりをしなければ、この常識改変だらけの今を生き残ることは出来ないだろう。
僕はそんなことを考えながら、そのままその場を後にした。
それにしても最近慣れてきたものの、こういう破壊痕を見ると恐ろしくて仕方がなくなってしまう。僕みたいな平凡な人間に、何で常識改変がきかないなんて恐ろしい事態に巻き込むんだか。ああ、神様、どうしてですかなんて謎な事を思いそうになったけど、僕、女神様の声聞いてるんだよなぁ。異世界のだけれども。
この地球にも神様がいるんだろうか。
……いたとしてもその神様が僕の現状を把握しているのかとか、僕に常識改変がきかないのは神様のせいとかあるのかとかそのあたりは不明である。でもそれでなんかややこしい事態になるのは勘弁なので、このままの方がいいのだけど。
「母さん、ただいま」
「おかえり、博人。夕飯出来ているわよ」
「今日の夕飯何?」
「今日は生姜焼きよ」
家に帰宅すると母さんが夕飯を準備してくれていた。そういえば、一度目の二年生の時は僕は一切、家事を手伝っていなかったわけだが、今回は時々は手伝って料理を覚えようかなと思った。
僕は大学生になったら一人暮らしすることになるかもしれないし、そういう料理の技術は学んでいたほうがよさそうだし。
「――母さん、僕も今度から料理手伝う」
「あら? どうしたのよ。何か変なものでも食べた?」
「いや、僕も高校三……いや、高校二年生だからあと数年したら一人暮らしするかもしれないから、覚えたいなと思って」
「ふふ」
なんだか母さんに微笑ましい目で見られた。何だか恥ずかしいけれども、折角の二周目だし。まぁ、今日はもう母さんが作ってくれている生姜焼きを食べるけれど。ただ食べ終わった後に、皿洗いはした。母さんにも父さんにも驚かれたけれど二人とも笑っていた。
皿洗いしている間にびっくりするぐらい大きな音と鳴き声が聞こえたけれど、僕はスルーした。どうせこれも杉山たち案件である。僕は気にしても仕方がないので、放っておくことにした。
……それにしても杉山たち異世界はこの世界に影響を与えすぎじゃないのか。そう思いながら夕食後に風呂に入って、眠りにつく。
ちなみに当然のように翌日、通学路に道路に穴があいている場所があった。工事の人が一生懸命修復作業をしていた。地震でもないのに、原因不明で道路が陥没していて、明らかにおかしな感じに穴が複数空いてるとか怖すぎる。
……なんか大きな魔物でも戦っていたのだろうか。