クリスマスの近づき ②
2022/7/17 三話目
それにしても死者蘇生ってそんな簡単に出来るものなのだろうか?
そもそも女神様の力で生き返ったのは、そのままのその人だと言えるのだろうか。
「それって副作用とかないの?」
「んー、お姉ちゃんは勇者の心を守るために生き返らせているだけだから適当だよ。記憶が欠けていたり、何かしら生活に支障がない程度の欠けは当然あるよ。完全にその人のまま死者蘇生をするのは大変だし。そもそも神の世界にも、死者蘇生に関しては誓約があるからね。勝手にぽんぽん人を生き返らせたりしたら混乱に陥るから」
「うわぁ……。てか女神様は蘇生しているんだよね?」
「うん。まぁ、勇者関連だからと許されていると思うけれど。そうじゃなければこんなことやったら罰を与えられちゃうよ。でもお姉ちゃんは自分が少し削られても勇者のためになるならいいと思っているかもしれないけれど」
生き返ったからといってそれが全てそのままというわけではないらしい。生き返らせるというのはそれだけ力を注ぐものなのだろう。
それにしてもそこまでして杉山の心を守りたいって過保護というか、杉山のメンタルは勇者だとしても結構弱いのだろうか。
「死んで生き返るってことは、前と少しずつ変わってしまうことだからね。私は博人が人間として死んでも離すつもりはないけれど、今の博人が寿命以外では死なないようにしたいっては思っているの」
「そっか」
「うん。だから博人のことは私が守るから安心していいんだよ? それより、博人、クリスマスの話をしようよ」
乃愛はそう言いながら僕に笑いかける。
やっぱり乃愛にとっては周りが死んで生き返らせられていようともどうでもいいのだろう。乃愛らしいなと思いながら、結局杉山たちに僕は関わるつもりもないのでその話題は一旦置いておくことにした。
「クリスマスケーキは、私とおばさんで博人が好きなもの作るからね!」
「うん。ありがとう」
乃愛はクリスマスの料理やケーキも自分で作るつもりのようである。相変わらず全部僕の好物で埋めるつもりらしい。
最近は練習と称してケーキを幾つか作ったりしている。これも僕に食べさせたいがためらしい。
しかしこんなに食べると少し太りそうなので、僕は最近乃愛を連れてジョギングを少しだけしている。
一人でジョギングするよりも乃愛がいる方が効率が良い。一人だとだらけてしまいそうになるものだし。
乃愛は僕の体形が変わろうが気にしない様子だが、流石に太りすぎるのは僕は嫌だ。
「博人、クリスマス前後にクラスメイトに誘われてもいっちゃだめだからね」
「……クラスのクリスマス会のこと? 行かないよ?」
「うん。それは行かないものなの。博人は私とクリスマスを過ごすんだからね。でも他の人にも誘われても私と一緒にいるんだからね?」
「そりゃあ、乃愛が先約なんだから他の予定は入れないよ。僕は一人しかいないし」
「ふふ、私は博人を二人にすることぐらい出来るけれど、博人はそれもやろうとしないよね」
「……面倒じゃん。そもそも二人にする意味が分からない」
「世の中には色んな所に良い顔するために自分が複数人いれば~とか思っている人もいるんだよ」
「絶対に面倒だよ。僕は他の予定はないし、大丈夫」
それにしても僕が二人……? それって両方僕が動かすってこと? それとも独立した意志があるってこと? 僕の場合だと二人になっても面倒だなってなるだけだけど、その人の性格によってはどちらが本物なのかみたいな諍いになりそうな気がする。
もしかしたら乃愛は異世界で誰かを二人にしたりして遊んでいたりしたのかもしれない。退屈していた乃愛にとってはそれも暇つぶしの一貫だったんだろうし。
「博人が二人……。二人の博人に囲まれるのは楽しそうかも?」
「乃愛は楽しいだろうね。僕は嫌だよ」
「ふふ。博人が嫌がっているからやらないよー。博人は一人でいいもん」
乃愛はにこにこと笑っている。
「私、博人にクリスマスプレゼントちゃんと用意するからね」
「マフラーと手袋で十分なんだけど」
「駄目だよ。あれはただ作っただけだし。クリスマスプレゼントって大事なものなんでしょ? 私も博人からのプレゼント楽しみにしてる」
「僕があげないとは思ってないんだ?」
「くれないの?」
「あげるけど」
「だよね」
乃愛にクリスマスプレゼントをあげることは当然のように考えている。
そもそも普段からご飯作ってくれたり、色々献身的な乃愛にクリスマスを一緒に過ごすのに何もあげないとか普通に考えてありえないし。
それにしても乃愛にクリスマスプレゼントかぁ。何でも喜びそうだけど、何をあげようか?
なんでも喜ぶからといって、適当に選ぶのは嫌だしなぁ。どうせ選ぶなら乃愛に似合う物の方がいいだろうし。
じーっと乃愛を見ていたら、「博人、じっと見てるけど私を抱きしめる?」とか聞かれた。首を振って断っておいた。