恋するあの子は宇宙人
最近、俺は悩んでいる。
というのも‥‥。
「ねぇねぇ、お弁当作ってきたの、一緒にお昼ご飯食べよう?」
隣の席に座るふわふわボブの少女についてだ。
あれは3ヶ月前の事。
2xxx年。俺らのひぃひぃ爺さんの頃から、地球外生命体と地球人が交流をし始め、今では一つの学校に何名かの宇宙人が留学生として共に学業に励んでいる時代。
俺が通う高校にも、何人かの宇宙人が通っていて、今日もう一人クラスメイトとして、この教室に来る予定だ。噂では女子らしく、女性もソワソワしつつも、男はそれ以上に、色めきだっていた。
暫くして、先生が入って来るとの様子を感じたのか、一つ咳払いをして、挨拶した後「では、皆も知っての通り、今日から地球外からの留学生がクラスメイトになります。入ってどうぞ」と廊下に向けて声をかけた。
「はじめまして、リー・リー・ルーです。えっと‥リリーって呼んでください」
白髪のふわふわの髪の毛、星が浮かんでいるような大きな瞳、頭には触角と、尻尾が着いていた可愛らしい女の子が立っていた。
女子は、「可愛い~」と呟き、男は無言でガッツポーズ、ハイタッチを決めた。「良かった~、二年のカルロ先輩みたいのじゃなくて」と呟く奴もいた。
勿論俺も、男なので友達と一緒に無言ハイタッチを決めたり、見た目ゴリマッチョトカゲの男子家庭科部所属なカルロ先輩みたいじゃなくて良かったと激しく同意した。
そんな浮き足立っているなかで、ふと留学生と目が合った。目でっかいな、キラキラしてんだなと思っていたら、彼女の髪の毛がだんだんと白髪から‥。
「‥は?ピンク?」
「見つけた、私の運命の王子様」
彼女の髪の毛が完全にピンク色に仕上がると、先生の制止やクラスメイトのざわめきを無視して、俺の前に歩いてくる。そして、ダン!と机に両手をついて、
「私と、結婚を前提として、お付き合いしてください!」
生まれて初めてのプロポーズを受けた。
そのときは、何が何やらで頭が混乱していたが、後日、彼女の星の人間は人口がどんどん減っていて最早絶滅危惧種となっているらしく、彼女が地球に来た理由も勉学の他に、子どもを産むのに相性がいい地球人との早めの婚活も目的だと聞いた。
あれから3ヶ月ずっと、家の前で待ち伏せを受け、弁当付きでお昼を誘われ、一緒に帰ろうと帰りも待ち伏せされている。
友達も面白そうがって、「一緒にいてやれよ、王子様ww」と面白がってるわ、先生も「頑張れ」としか言わないわ、全く味方がいない。
今日も今日とて、最早敵と化した友人共の罠にハマり、リリーと二人で裏庭にて昼飯を食べている。
(でも、本当旨いんだよな‥)
初めて弁当を作って来たのは、初対面の翌日で、相手が宇宙人ということもあり、かなり警戒して拒否したが、昨日の味方は今日の敵と化した友人にハメられ、恐る恐る二人で弁当を食べたが、弁当の蓋を開けると以外と普通、というか旨そうな見た目で味もしっかり美味しかった。
「今日の出来はどうかな?お、美味しい?」
「え、あぁ美味いよ」
「良かった、嬉しい」
こっちが食べてる間、そわそわしながらこちらを伺い、感想を告げると嬉しそうに頬を染める彼女。
(顔も可愛いんだけどな‥)
本当に何で俺なのか‥。
お互いに弁当を食べ終えた後、いつものように「一緒に帰ろう」とのお誘いを受けた。が、今日の俺は少し用事があり、いつもより遅くなる予定だ。
「すまん、今日は用事が‥」
「じゃあ、終わるまで待ってる」
「でも、本当にいつもより遅くなるけど‥」
「待ってる!」
まぁ、そうなる事はこの3ヶ月で嫌というほど分かっていたので、どうしても待てなくなったら帰ることを約束して、慣れつつも若干恥ずかしい思いをしながら一緒に今日に戻っていった。
そして、放課後。俺は、ある部室の前に来ていた。
「カルロ先輩!本日は、よろしくお願いします」
「そんなかしこまらずに、よろしくね」
家庭科部の二年生カルロ先輩。見た目が、ゴリマッチョトカゲだが、中身は料理、裁縫が得意な穏やかで優しい先輩だ。
俺は、そんな先輩に、菓子作りを教えてもらいに来た。
「いやぁ、君たちの噂は聞いていたけど、まさか君が僕にお菓子作りを教えて欲しいなんて来てくれるなんてね。それも、リリーさんへのプレゼントに、なんでしょ?」
「うぅ、気恥ずかしいんであんまし言わないで下さいよ‥」
先輩が教えやすいという時短クッキーの作り方を教えてもらいつつ、材料を混ぜながら、少し項垂れる俺を見て、また先輩はカラカラと笑った。
「地球外生命体も感じているけど、地球の人と僕らの見た目や習慣や歴史とか、とにかくギャップがあるじゃない?ギャップがあるからこそ、伝えたいことが上手く伝えられないことも、僕達にはあるけどさ。」
先輩が、ゆっくり嬉しそうに目を細める。
「こうして、地球人が歩み寄ってくれるのは、僕にとっても嬉しいからね」
先輩は、「彼女待ってるんでしょ?」と可愛らしいラッピングも準備してくれ、「片付けも任せて」と洗い物の方へ向かっていった。神様のような先輩にご厚意に甘え、慣れない手つきでラッピングと格闘していると、
「ねぇ、噂の『王子様』だよね?少し手伝おうか?」
「うげ、そのあだ名やめて欲しいんですけど‥、自分でやりたいんでコツとか教えてくれませんか?」
「わかった、いいよ」
優しそうな、家庭科部の女の先輩が声をかけてきた。先輩は綺麗に見えるコツとかを手を貸さず、丁寧に教えてくれた。家庭科部の先輩方の優しさに心で感謝しつつ、コツを頼りに何とか可愛らしいラッピングが完成した。
「ありがとうございます!」
「いえいえ~、‥上手く渡せるといいね」
「が、頑張ります」
「‥ねぇ、ついでに餞別として、いいこと教えてあげるよ。リリーさんはね‥」
「‥‥は?」
あの後、ラッピングしたクッキーを持って先輩方に大声でお礼を言った後、夕陽が差し込む廊下を駆け足で進んで、リリーが待ってる教室に向かった。
教室には、もうリリーしかいなくて椅子に座りながら本を読み待ってる姿が目に入った。それも一瞬で、すぐに俺に気がついた彼女は、ハッと顔を上げ目を細めてにこりと笑いかけた。そんな姿に俺は、唇を噛みしめ頭に血が上るのを感じ、少しだけ手に持っていたラッピングがクシャリと音を鳴らした。
「おかえり?えっと、どうしたの?」
そんな俺の様子に、少し戸惑う彼女。ぐっと俺は、彼女の顔をもう一度見て少しだけ息を吸って吐いた。
「あのさ、本当はずっと前から言いたい事があって言えんかったけど、だけど、今言うわ」
「え、え、な、なに?」
本格的に戸惑い始めた彼女。でも、自分でも頭に血が上っている。
本当にずっと言いたかった。でも本当は不安だった。彼女は偶々同じ教室で、目があって、隣の席で、もしかしたら比較的扱いやすい奴だったから、俺に関わってるのかも知れなくて、でも俺の方は、本当は最初の頃から、目が合った頃から‥‥。
「初めて会った頃から、君が好きです!結婚を前提に付き合って下さい!」
「リリーさんはね、どうして絶滅危惧種にまでなったか知ってる?彼女達の星の人達は、運命の人じゃないと子どもを授かれないの。でね?運命の人と目が合うと好きな気持ちや嬉しい気持ちが髪の毛にまで色付いて見えるんですって」
「ねぇ、彼となに話してたの?」
「あら?嫉妬ですか?優しいカルロ先輩」
「そりゃ嫉妬もしますよ、可愛い彼女と後輩が楽しくお話ししてたらね」
「嬉しいね、でも私の好きな人はカルロ君だけだよ」
「‥‥、そういうところちょっと地球人はズルいな」