転移
私とお姉ちゃんは両親に手伝ってもらい荷物を簡単にまとめた。武器と大きな手提げ鞄、中にはお気に入りの本やお父さんがくれた護石、お母さんがくれた1瓶の飴など少ない荷物が入っている。お父さんが小さく分厚い本をもち、私とお姉ちゃんと目線を合わせた。
「汝らに告ぐ。彼の者は空を舞い、彼の者は地を走り、彼の者は牙をむく。汝らは彼の者を知り共に歩み、彼の者は汝らに加護を与えん。何時か来るその時に彼の者は生まれるだろう。」
二人の手に小さな魔法陣が刻まれ、スッと身体になじむかのように消えた。そしてお母さんが私たちに2つの笛を渡した。お姉ちゃんが細く滑らかな白樺で出来たネックレスチャームで、私はいびつな形をした骨で出来たものだった。
「守護獣の卵をお父さんが貴方たちに送ったの。もしもの時はその子たちが貴方たちを助けてくれる。だから大切にしてあげて・・。」
「シルビア・・。その笛は母さんが作ったものだ、きっとお前たちを家まで導いてくれる。」
無理だけはしないでね、ぽろぽろと泣くお母さんとお父さんは最後に私たちを抱きしめた。私は涙を押さえながら抱きしめ返し、両親の熱を残した手を握り絞めて、ローティスさんが作った蓮池の形をした転移魔法陣に飛び込んだ。
着地と同時に見えたのは甲冑を着たガタイの良い人たち、そしてたくさんのテントが張られた草原の広大な景色だった。
「ローティス殿、新入りを連れて来たのですか?!」
驚いた様子で駆け寄ってきたのは小柄の女の子。可愛いキャンパスハットからザンバラに切った赤茶髪をのぞかせる彼女は私の顔をじっと見る。赤色の瞳は吸い込まれそうになるほど綺麗でつい、目線を逸らしてしまった。すると彼女の頭をパシンと叩いた男性がお姉ちゃんと私を見て少し驚きながらもニコリと笑った。
「すまんなあ、嬢ちゃんたち。このババアはどうも新入りを苛めるのが好きらしくてな。」
「何を言っているんだカロン殿!邪眼位見極められん新入りなんぞ足手まといでしかないだろう!?」
「だからってまだ幼子だ。加減位してやれ。なあ、ローティス大魔導士。」
「ナシュアは仕事熱心で優しい子だからね。でも、程々にね。」
「御意。」
ローティスさんはカロンさんと一言二言伝えるとすぐにどこかへ飛んで行ってしまった。私とお姉ちゃんはナシュアさんに連れて行かれ大きなテントへと入って行った。