運命の日
今日は何のパンにしようかな。大好きなパン屋さんに行くために街の中を歩いていく休日。
「今回の新作は中々面白かったよ。ただ中々素材がドロップしないから、協力した方が良いなって・・聞いてる?」
「え?ごめん、全然聞いてなかった。まず何の話?」
「全く・・三崎、またパンのこと考えてたんでしょ?」
「えへへ。」
頬をかく。私、三崎 菜々《みさき なな》は今日はゲーム好きの友達、高波 花楓と一緒にいる。私は大好きなパン屋の新作コロネを、彼女はパソコンを新しくするために電気屋にいく。
「花楓ちゃんみたいにゲーム上手だとかっこ良いなー。」
「奈々もやればいいじゃん。私、教えるよ?」
「ゲーム機の上下間違えてお兄ちゃんに笑われたから、そこからお願い・・。」
「それはもう、苦手とかのレベルではないのでは?」
なんて話していると、橋に差し掛かった。少し先に小さな男の子が橋を覗き込んでいる。何を見ているんだろう?何となく気になったので肩を少し叩いてみた。すると、こちらに振り替える。
「なに?」
「ずっと下を見てるから、どうしたのかなって。」
すると彼はすっと橋の下を指差した。指した先には、小さな風船が揺れていた。
「僕の妹のなんだ。」
「そうなの?でも、あそこのは危ないから。」
すると私を睨み付け、彼は隙間に身体を入れ、手を伸ばそうとしたのだ!花楓ちゃんも止めるがふと強く風が吹いた。彼の身体が前に、落ちた。
「っ!」
手すりを越え、私はすぐに橋から落りた。静かに流れる川だが、水量が多いことで有名なためあんなに小さな子供が落ちたらすぐに・・。泣きながら手脚をじたばたと動かす彼に手を伸ばした。
「手を!!」
手が伸ばされ、彼を抱きしめると頭に鈍痛が走った。そしてすぐに水の中へ。酸素の無い世界で、大きな力に身体を持ってかれまいと彼をぎゅっと抱きしめながら、水面へ向かった。
「っは!大丈夫?」
「ゲホっ、う、う・・」
「大丈夫、ちゃんと陸まで送るから。」
落ちたのが川縁だったのでそんなに距離は無かった。必死に泳ぎ、手を振って私の名前を呼んでいる彼女を目指す。だけれど、今は3月。水泳には合わない水温だ。早く、速く!
「奈々!」
手を伸ばした彼女の手に彼の手を。鍛えていた彼女は簡単に彼を引っ張り上げていく。彼は泣きながら、私の手から離れた。ホッとした、その時だった。急に流れが変わったのだ。身体が流れに勝てず飲み込まれてしまった。私の名前を叫ぶ彼女も泣いていた彼も水中では分からない、それどころか私の行くべき先も。苦しい、酸素を得ようとするも水が入ってくる。苦しい、耐えきれない苦しみに水面へ行こうとするがもう身体は動かなかった。静かに意識が薄れていった。さようなら、皆。
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小さな声がする。
「・・・。・・い、おい!」
「はいい!!」
急に耳元で出された大きな声に驚き身体を起こす。あれ、生きてる。
「中々起きないからびっくりしたよ。こちらの書類ミスだったってのに。」
目の前でぶつぶつと独り言を言っている人は、大きな黒いローブで顔を隠している。そういえば、ここどこだろう?やけに白い空間だ。
「ここは魂が通るところだよ。三途の川とかの方が君たちには馴染みがあるだろうけどね。」
「三途の川・・私、死んだってことですか!?」
「あれ、自覚無し?弱ったなぁ。」
それだと困るんだよねえ、とまた独り言を始めた。この人、不思議な人だな。
「自覚、はしてます。水に流されて、それで・・。」
「あー、あ、その話はいいから。うん、OK。なら、これから話があるから立てる?」
そう言って手を差し出してくれた。おどおどしながらもその手を取り、立つが大理石のように固くて冷たい手にぞわりとした。そして、彼?が宙に手をかざすと何かの書類のようなものが見えた。
「これ、君の情報ね。寿命とか、出会った人とかそう言うのが記録してある奴なんだけどさ、ここ、見てみて。」
トントンと指差しをされたところには死亡年齢99歳と描かれていた。あれ、今16歳なんだけど。
「めっちゃ生きる予定だった君とあの日事故で死ぬ予定だった彼。それが入れ替わちゃったわけ。僕の部下の書類ミスでね。魂の情報は定期的に更新するんだけど、どうやら本日の死亡者欄に君の名前を書いて提出してしまったみたいなんだ。ちなみに判子を押されると受理、実行されるって訳なんだけどね。」
「その間違って書かれた私の死亡も受理、実行されたってことですね。」
「正解!飲み込みが早くていいねぇ。君、僕の部下にほしいわぁ。」
「はぁ・・。」
「それで君の余命を彼にあげて、君にはそのお詫びとして転生させることになりました!」
パチパチパチパチと拍手をするが、全くもってどういうことなのか分かっていない私は頷くしかなかった。
「まあ、君の年齢に人気の世界に転生させてあげるよ。しかも運命もかなり良い感じにね。」
にこにこと唯一見える口が笑っているように見えたが、何故だか腑に落ちなかった。
「でも、それってイージーモード?を生きるってことですよね?」
彼はぴくりと反応し、笑うのを止めた。
「ゲームができない私がクリアできる設定で、そんな簡単な人生ってありでしょうか?何だか、不公平なきがします。」
「・・・君、面白いこと言うねぇ。なんで良い事した人たちは同じこと言うんだか。OK、OK、それじゃあ世界選は変えず他の人たちと同じ様にしておくね。」
あの書類に指でどこの国か分からない文字で書いていく。私の身体が熱くなる。
「ある程度お礼はさせてね、奈々ちゃん。」
意識が無くなる時、彼が優しく笑った様に見えた。