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第4話 独り占めはダメ、ゼッタイ

~前回までのあらすじ~

おっちょこちょい系ヒロイン、弁当を忘れててんやわんや。

 学生たちの束の間の休息、楽しいはずの昼休み。それは脆くも崩れ去る。那海が晃へ問い掛けたことが諍いの引き金となったのだ。


『いや、違うよ。今、ウチの両親は海外にいるからさ、俺が作ったんだ。だからこれは、俺の手作り』


 誰がハンバーグを作ったのかなど、晃にとっては些細なことでしかない。しかし、共に昼食を摂ろうとする、三人の乙女たちには日本経済の行く末よりも遥かに重要な問題だったらしい。


「……晃、貴方は食べ盛りの男の子です。ここでおかずを減らしては、今後の成長に差し障ります。燈花のお弁当のフォローは私とアリスで充分ですよ。燈花、晃にハンバーグを返しなさい」

「俺、もう高二だぞ? 身体の成長の余地はほとんど無いと思うけど?」


 那海のトンデモ理論に晃は首を傾げた。流石に二次性徴が終わっているという自覚のあった晃は己の身体を見渡したが、今後の成長に期待はできなさそうだ。


「そうね。トウカちゃん、コウくんに悪いわ。その点、私達は長い付き合いの幼馴染ですもの。遠慮なんてする必要はないわ。可及的速やかにハンバーグをコウくんに返すべきよ」

「やだっ! 絶対に嫌だよっ!! このハンバーグ、例え親の命と引き換えでも譲らないもん!!」

「いや、親御さんはもっと大事にしような」


 アリスの言い分はまだ納得ができそうなものだが、晃の厚意で提供したおかずだ。今更返す必要なないだろう。燈花も燈花で、ハンバーグと親の命を天秤にかけるなど、相変わらず訳の分からないことを言っており、晃はどうしたらいいのか判らなくなった。


(晃の作ったハンバーグ……。おいそれと燈花だけに渡す訳にはっ!!)

(トウカちゃん。コウくんの手作りのおかずなんて、まだ早いわ)


 那海とアリスは、どうしても燈花に、“燈花だけに”晃が作ったハンバーグを渡したくないらしい。しかし、九澄晃という男はそういった彼女たちの心の機微に疎いようだ。


「本当にさ、俺は別に構わないけど……」

「構います!!」

「構うわ!!」

「…………」


 晃は改めて「おかずを燈花にあげる」という意思を示そうとしたが、那海とアリスの極めて強い否定に、閉口した。


 燈花VSアリス&那海の状態になり、互いに譲る気は一切無いようで、それぞれからオーラめいたものが出ている。


「うん、今日は机をいつもと違うところまで動かして昼飯にしたいと思わないか、佐々木?」

「お、俺もそう思ってたぞ、山本! 」

「そ、そう言えばさ、D‘Zの新曲、聴いた? 超良くない?」

「明日の体育のソフトボールってさ、バッティングのテストだよな。俺、自信ないわ」

「あ~、私、購買に行ってジュースでも買って来よう」

「わ、私も行く! う、う、運動がてらなるべく遠回りしない?」


 危険を察知したクラスメイトたちは、気付けば四人から数メートルは距離を取り、まるで彼らが居ないかのように振舞っている。中には、理由を付けて教室から逃げ出す者もいる。


(ああ、そうか。燈花にだけハンバーグをあげるから二人とも機嫌が悪いのか。だったら……)


 取り敢えず、平穏無事に、速やかに昼食を摂りたい晃は、この規模の小さ過ぎる冷戦を終わらせるために、彼なりに解決を図ろうとした。


「ハア、しょうがない。二人にも俺のハンバーグあげるから、それでさっさと弁当食べよう。昼休み、無くなるぞ?」

「!!」

「!!」

「そんなっ!?」


 晃の提案に驚きと歓喜の表情を見せる那海とアリスに対して、燈花は眉をしかめ、落胆ともとれる表情をとっている。自分だけが独占して食べられると思っていたハンバーグが、幼馴染かつライバルたちの手に行き渡るのだ。面白くないはずだ。


「フフッ、嬉しいわ。ありがとう、コウくん!」

「……仕方ありませんね。晃がそう言うなら、いただきましょう。いいですか? 晃が言うから仕方なくですよ?」

「別に要らないなら、無理して食べなくても――」

「要ります!! 是が非でもいただきます!!」

「オ、オウ……。分かったよ」


 食い気味に、凄い剣幕で迫る那海に押されて、晃は素早く燈花以外の二人にもハンバーグを取り分けた。燈花は不満げだが、二人は満足げだ。対照的な表情を浮かべる彼女らに、晃は怪訝な面持ちだった。


「フフフ、平等って、とっても良い言葉よね。トウカちゃん?」

「むうぅ~」


 ヒートアップした三人が落ち着いたところで、漸く昼食と相成った。しかし、ここでも一つ問題が起こる


「ああっ、お箸が無い!」


 それは至極単純な話で、弁当の用意を丸々忘れたのであれば、箸も同じくここには無い。


「うええ、どうしよう……。そうだ、晃ちゃん! 晃ちゃんが食べさせ――」

「お箸なら、割り箸が購買で売られていますよ。一善五円です、燈花」

「ナミちゃん。それには及ばないわ。私、予備のお箸を置いてあるから、それを貸すわ」


 燈花が言い切る前に那海とアリスが氷点下に迫るほどの冷たい表情で彼女に視線を合わせ、代替案を提示した。恐怖で身体の自由を奪われた燈花は、頷くことしかできず、渋々、アリスから予備の箸を受け取った。


 因みに、燈花が何気なくアリスから受け取ったこの箸、宮内庁御用達の超高級漆器で一膳当たり五万円もすることなど、彼女は知らない。


「アリスは用意がいいな。良かったな、燈花。ていうかさ、初めから購買にパンか何か買いに行けば良かったんじゃないか?」

「ぶううぅぅ~」


 「そういことじゃないんだよ」と、小さく不満を漏らす燈花だが、その声は周りの雑音に掻き消され、晃には届いていないようだった。


※2022/1/2 部分的に修正をしました。

※2022/2/23 部分的に修正をしました。

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