第1話 彼と彼女たちの朝
別作品を執筆していましたが、諸事情により数か月以上、執筆(更新)停止していました。
そろそろ再開しようと思いまして、とりあえず練習がてらこちらの作品を執筆してみた次第です。亀更新に変わりないですが、コツコツと頑張ります。
一昔前のよくあるハーレムものですが、宜しければ読んでやってください。
「ねえねえ、アリスちゃん。昨日の古文の宿題、やった?」
朝の登校中、宿題の実施について友人に尋ねている女子高生の名前は「葵燈花」。高校二年生になったばかりだ。平均よりも少し高い身長と、それに見合った体型。肩まで伸ばした艶のある茶髪や大きく綺麗な瞳と整った顔立ちは、多くの男子生徒から人気を得ている。尤も、そんなことは彼女自身の知るところではないが。
「うん、勿論やったよ。もしかして、トウカちゃん……」
「えへへ」
質問を受けた女子高生は至って真面目かつ優秀であり、当然の如く宿題は済ませているようだ。
このアリスと呼ばれる少女の名前は「アリス・鳳橋」と言い、日本人の父とアメリカ人の母を持つハーフ美少女だ。鳳橋家は、この地方一帯では知らぬ者がいないほどの大企業の一つで、彼女はそこの令嬢だ。煌びやかな金髪を二つに纏め、海外の血が成すハーフ特有の美貌とスタイルの良さを併せ持ち、令嬢として育てられた彼女の高貴な立ち居振舞いは、見る者すべてを虜にしてしまう。
燈花との付き合いが長いアリスは、彼女の質問の意図にも気付いたようだ。
「しょうがないわね。いいわ、見せてあげる」
「やったぁ!! ありがとう、アリ――」
「ダメです! いけません!!」
燈花の言葉を遮るようにしてなかなかの剣幕で怒って見せたもう一人の女子高生、「三枝那海」は、二人に負けず劣らずの美少女であり、腰まで伸ばした黒髪は、アリスとは対照的な大和撫子を想起させる和風美少女だと言える。ただ残念ながら、燈花やアリスと比べるとその身体は成長途中で凹凸は緩やかだ。その点を指摘すると般若の如く怒るので、誰も触れることは無い。
「いいですか、燈花! そもそも宿題とは授業で学んだ内容を定着させるための復習の一環です。それをやっていないとは何事ですか! アリスに写させてもらおうなど、言語道断です! 自分でしなければ意味などありません。アリスを始め、真面目に宿題をしてきた人に申し訳が無いでしょう!?」
「うええ、ご、ごめんない……」
根が真面目で正義感の強い那海の怒涛の説教には流石の燈花も謝るしかない。那海の言い分は間違っていないが、他の生徒が登校中かつその他の人の往来が多い大通りで大声を出すことは少々問題だ。本来は常識人のはずの那海だが、そこに気付かない辺り、余程頭に血が上っているのだろうか。
「まあまあ、ナミちゃん。トウカちゃんも悪気があった訳でないのだから、その辺で許してあげて」
表情を曇らせる燈花を見かねたアリスが那海を宥めようとするが、那海の怒りは収まらない。
「アリス! 大体、貴方がいつも燈花を甘やかすから調子に乗るんです! それではいつまで経っても燈花のためにはなりません。ここで厳しく注意をしておくことが大切なんです!!」
「トウカちゃんだって、宿題のコトくらい憶えていたハズよ? きっと宿題をやれない理由が何かあったと思うの」
何故か燈花を庇うアリス。当の燈花はアリスに惚れ惚れとするような視線を送っている。味方をしてくれることが余程嬉しいのだろう。しかし、那海も引き下がらない。
「確か昨夜は、燈花の好きなアーティストが出る歌番組と、夢中になっている連続ドラマが二本放送されていたはずです。大方、それに夢中で宿題のことなど全く憶えていなかったのでしょう!!」
那海の言葉を聞いて、燈花は「何で分かるの!?」と、驚いている。那海は当然だと言わんばかりの表情で燈花を睨み付けている。燈花は、単純を絵に描いたような人間であるからして、それなりの付き合いがあればこれくらいは想像が容易いのだが、本人には一生理解できないだろう。
「まあ、私もそうだろうとは思っていたけど……。トウカちゃん、流石にもう少し意識を高く持つべきよ」
「えっ! アリスちゃん、急にそっち側!?」
「最初は宿題くらい見せてあげようと思ったけど、ナミちゃんの話を聴くと、不用意に見せてはダメみたいね」
「そ、そんなぁ~」
あからさまに落胆して肩を落とす燈花に対して、那海は未だ怒りの視線を、アリスは憐みの視線を向けている。小学生の頃からの幼馴染である那海とアリスを頼れないと悟った燈花が最後に頼る相手は決まっていた。
「うええ、助けてよぉ、晃ちゃ~ん!」
燈花が“晃ちゃん”と呼ぶのは、これまで一切、三人の会話に入らず、周囲の背景に溶け込んでいた男子高校生だ。その名を「九澄晃」といい、彼女ら三人と彼は半年ほど前からの付き合いで、この春、偶然にも四人で同じクラスとなった。
傍から見れば比較的その仲は浅いかもしれない。しかし、彼女が、彼女らが彼に寄せる信頼や想いというのは、決して浅く薄いものでは無い。
「あー、燈花。すまない。助けてやれん」
「そんなっ!!」
頼みの綱の晃まで敵なのかという思いで燈花の表情は絶望に染まる。それを見て那海は勝ち誇ったような顔を、アリスは苦笑している。しかし……。
「何故なら、俺も宿題をやっていないからだ」
「ええっ!?」
「晃! 貴方まで!」
「アハハ……」
晃の清々しい開き直りに燈花たちはそれぞれ驚きや呆れを口にした。
「晃! 貴方もそのようでは示しがつきません! 一体、何をやっているのですか!」
再び怒る那海の横で燈花は味方ができたことに嬉しさを感じているようだ。
「まあ、聞いてくれ、那海。俺はテレビを観たりして宿題をやらなかったんじゃない。テキストとプリントを学校に忘れていたから、やりたくてもできなかったんだ!」
「ああ、成程。そういうことでしたか。それなら仕方ありませ……って、それもいけませんよ!?」
「一人で何を言ってるの? ナミちゃん……」
那海のノリツッコミが華麗に炸裂し、それを見たアリスは困惑しているようだ。
「どうどう? 那海ちゃん! これで晃ちゃんは私の仲間だよ! 一蓮托生、運命共同体だよ!! 二人で一緒に先生に怒られようね。私たち、ず~っと一緒だよ?」
仲間を獲得し、水を得た魚のように生き生きとした燈花は、嬉しさのあまり、晃の左腕に抱き着いた。その瞬間、那海とアリスの表情が一変し、ドス黒いオーラのようなものまで噴出した。
「……燈花。何をしているのですか?」
「トウカちゃん? それはどういうことかしら?」
「ヒイッ!?」
二人の豹変ぶりに燈花は思わず悲鳴を上げた。花の女子高生がこんなに低い声を出してはいけないだろう。今なら、この二人だけでマフィアの一つや二つくらいは軽く潰せそうな迫力がある。
「ドサクサに紛れて、晃の腕に抱き着くとは良い度胸ですね」
「それ以上は黙っていないわ、トウカちゃん」
「ううう……」
那海とアリスの迫力に言葉らしい言葉を発することができない燈花は一層、晃の腕に強く抱き着いた。それくらいしか抵抗ができないのであろう。
「……ねえ、トウカちゃん。いつまでそうしてるつもり?」
「いい加減にしないと、実力行使に出ますよ、燈花」
「ふ、ふ~んだ! 二人とも、晃ちゃんに抱き着く勇気がないから羨ましいんでしょ? 悔しかったら真似してみなよ!!」
「あ?」
「ハ?」
話の論点が明後日の方向に向き始めたことと、まだ通学途中であることを三人はもう忘れてしまっている。晃は溜息をつくことしかできない。
「ハア。あのさ、そろそろ行かないと遅刻だぞ? それと燈花、勘違いしているぞ?」
「へ?」
「別に俺は燈花ほど古文が苦手じゃないから、登校したら古文の授業までの空き時間に自分でやるつもりだぞ?」
「う、う、裏切り者!!」
「裏切るも何も、宿題がちゃんとできてないなら、それくらい普通だ」
晃も晃でそれなりに真面目で、できなかった宿題は自力で間に合わせるつもりでいたのだ。他力本願で、自分で解決をしようとも考えなかった燈花とは意識に雲泥の差がある。燈花は晃から腕を放し、自分の頭を抱きかかえるようにして「そんなぁ~!!」と大声で叫んでいる。
「那海、アリス」
「は、はいっ!」
「何? コウくん」
一人で叫んでいる燈花を尻目に、晃は那海とアリスに声を掛けた。
「まあ、なんだ。燈花が朝から全開で面倒なのは解るけどさ、そんなに怖い顔しちゃ駄目だと思う。二人とも美人なんだ。折角なら笑ってた方が良いと思うぞ?」
「びびび、びじっ!?」
「美人……ウフフ」
那海とアリスは顔を真っ赤にして目を伏せた。ここまでストレートに言われると、流石に照れざるを得ない。晃の言葉に下心は無い。当人たちはそれを理解しているからこそ、彼の言葉が嬉しくて仕方ないようである。
「ううぅ、晃ちゃんの馬鹿ぁぁぁ~!!」
そんな光景を見た燈花は面白くないようだ。そんな捨て台詞を吐いて駆け出す彼女を見て苦笑する晃。よく見ると燈花は鞄を地べたに置き去りにしている。
「さて、燈花を追い掛けつつ俺たちも仕切り直して登校するか」
晃は燈花の鞄を背負うと、未だ赤面中の二人の美少女を引き連れて再度歩き出した。
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活動報告に色々書きますです。
※2022/2/23 部分的に修正をしました。