第六話 静かな騒動とやって来た友達
ニノンの使い魔がやってきました。
ニノンの才能を確認した数日後、王宮の上層部に動揺が走った。
原因は、国王宛に届いた一通の書簡。
その差出人はニノンの祖父であり、世界で数人しかいない賢者、その中の“赤の賢者”の称号を持つウォート本人からのものだ。
ニノンの才能を知った日、今後起こりうる事態を想定して、帰宅後すぐにウォートが国王に宛ててしたためていたのだ。
その内容は、孫が先日の“生誕の儀”を受けたこと。
可愛くてとても賢いなど、ひとしきり孫自慢が長々と述べられており、最後に見逃せない文が続いていた。
それは、詳細は書かれていないが、才能の確認をした際とても恵まれた才能を授かった事。
その中に魔法の素養があった事。そして使い魔を召喚するとドラゴンの卵が召喚に応じて出てきた事が書かれていた。
更に、これは通達でありお願いではないこと、これを知った貴族や宮廷の面々がよからぬことを企んだり接触するのを禁じ厳守させること、ニノンを含めたウォートの一族とその縁者には絶対の不干渉を約束するように、とあった。
もし、この手紙の内容を無視したり、あらぬ干渉や弊害が起きた場合には、赤の賢者に対する敵対行為とみなして相応の対応があることが脅しを含めて追記してあった。
これには国王も頭を抱えた。
もちろん無視をするという選択肢は考えられない。
相手は“赤の賢者”だ。
ただの魔法使いでも上位の者ともなれば、その力は数万の兵力に相当する。それが世界に名だたる炎の賢者であれば、数十万ではきかないだけの力を持っている。
それに敵対するということは、王国の危機を意味する。
直ちに宰相を含めた上層部を集め、緊急会議を開く。
話し合いを始めるものの、検討する余地がなく要求を呑むか否かで、静かに紛糾した。
一部の文官で、長年の安寧に溺れ思いあがったものがおり反対意見を述べるも、「では単独で赤の賢者に対抗してみろ」と告げられると言葉を飲み黙った。
結果として王国はこの手紙の内容を飲み、遵守する事、破った貴族には厳罰が下ること、証として国王が後見人となるメダルを贈ることが決められ、国内の貴族に即時通達された。
それらの内容が書かれた書簡と証のメダルがウォートの下に届けられたことで、ひとまずこの騒動は収まった。
そんな事になってるとは思いもしないニノンは、毎日一生懸命卵の世話をしていた。
お世話とは、主に使い魔のモモと一緒に卵に一生懸命話しかけることだ。
そうしてお世話を始めて10日ほどたった朝、朝食を終えてまもなく、卵に変化が起こる。
「おかあさん、たまごが!」
変化に気付いたニノンがキッチンにいるフリーダを呼ぶ。
そうしてフリーダと一緒に静かに卵の様子を見た。
プルプルっと震えたかと思うと静かになる。
しばらくそれが続いて一時間くらいたつと、静かになる時間が短くなり、内側からカリカリとひっかくような音がし始めた。
ひっかく音にコツコツとつつく音が混じり、その音が強くなったころ、ピシッと亀裂が入る。
あっという間にその亀裂は卵を一周し、パカリと蓋のように持ち上がると、卵の殻の帽子をかぶったドラゴンの幼体が姿を見せた。
体長は三十センチメートル程度、尻尾を含むと四十センチメートル位ありそうだ。
幼体らしく少し頭が大きい、全体にトゲトゲしており、殻の帽子がズレ落ちて見えた頭には、短い角と長い角がそれぞれ二対生えていて、顎の横に張り出すように突き出て前方に鉤状に曲がった角も生えていた。
背中にはこれで飛べるのか?と思うような小さな二対の羽が生えていて、たまにパタパタと動いている。
小さな手としっかりとした太い脚の指には鋭い爪がしっかりと生えていた。
体色は卵の殻と同様に、黒くて光を受けると紫色の光沢が美しい漆黒の子である。
「きゅ…」
と、小さく鳴くと震えながら辺りを見回し、ニノンを視認するとひと際強く鳴いて卵の殻から出ようともがいた。
「わあ、こんにちわ」
そういうとドラゴンを抱き上げて卵の殻から出してやり、卵白の残渣で濡れた体を拭いてやる。
「きゅ…きゅう、きゅう」
気持ちよさそうに羽をパタパタとさせ、甘えるように鳴きながら、体を拭くニノンの腕にスリスリと頬ずりをする。
拭き終わるとそのまま膝の上にのせて優しくなでたりして落ち着かせた。
「ニノン、この子の名前は決まったの?」
落ち着いて、手足もしっかりして動けるようになったノワールを見てフリーダが聞く。
うん、頷くとドラゴンの幼体を抱き上げて目を合わせる。
「きみのなまえはノワールだよ」
「きゅっ?……きゅう!」
すぐに理解できずに小さく首をかしげたノワールは、次の瞬間嬉しそうに高く鳴き尻尾をフリフリさせる。
「ノワール?変わった響きね」
「なんとなくおもいついたの、くろいっていういみ?」
聞いたことのない単語の響きに感心するようにうなずいたフリーダ。
前世の知識からの思い付きなのでニノンも理解できずに首をかしげたが、気に入った感じで笑う。
「生まれたそうじゃの!」
ノワールが生まれたと知らせを受けて、ウォートが訪ねてきた。
リビングに入るとフリーダがお茶を飲んでおり、その前で、ニノンの膝の上でモモとニノンに遊んでもらっているノワールが目に入る。
「ほう、その子が生まれた子じゃな」
「きゅ?」
誰!?という感じでウォートを見てノワールが少し警戒した。
「ほっほっ、大丈夫、何もせんからの」
歩み寄り、ニノンの頭を撫でながらノワールに微笑みかける。
「きゅ~?」
ほんと?と確認するようにニノンを見た。
「だいじょうぶ、じーちゃんだよ」
ニノンが笑って答えると納得したように警戒を解いてモモと遊び始めた。
「これは賢い子じゃのう…、生まれたばかりじゃのにその賢さ、その姿…、やはり古龍種か」
通常の属性竜にはない体色からある程度当たりはつけていたウォートが、今のやり取りで確信した。
「ほんとに古龍種?それなら強くなるわねー」
フリーダは、のほほんと笑ってノワールを見た。
「ニノンや、その子も生まれたことだし、そろそろ魔法のお勉強をしようか」
「おべんきょうするー」
「きゅー!」
シュタッっと手を上げて答えるニノンに同調してノワールも鳴いた。
「ほ、ノワールもお勉強するかの」
そういうと、ウォートは楽し気に目を細めて微笑んだ。
その翌日から魔法のお勉強、という名の賢者への弟子入りが始まった。
読んでいただきありがとうございます。
想定より語りたいエピソードが出てきています。
ニノンの生い立ちや世界観を見せるエピソードが含まれていますので、
もう少しお付き合いくださいませ。
続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、
評価や感想などいただけたら作者が小躍りします。