表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美味しい冒険はじめました。  作者: 流水行雲/ながみこううん
5/17

第五話 才能と使い魔召喚

努力が必要ですが多才なようです。

 赤く染まった空に夜の(とばり)が混じりだす。

 好天の中順調に進んでいた帰路を邪魔をしたのは,昼過ぎから吹き出した強い向かい風のせいだ。

 雨や魔物に邪魔をされないだけましなのだが、馬車に乗る賢者と元B級冒険者にとっては、風も魔物も同じようなもの。

 上等な部類に入る馬車だが、この強い風には抗えず揺れた。

 「鬱陶(うっとう)しいのう」

 思わず愚痴が漏れた。


 宵闇に空が染め直される頃、村に帰り着く。

 「おかえり、隊長」

 門番のカイルが御者台に座るエクトルに声を掛ける。

 「おう、問題なかったか?」

 「特に何もありませんでしたよ。流れのゴブリンが3匹ばっかり出ましたけどね、なあ」

 隣にいるもう一人の門番のトールに話を振る。

 「ああ、集落でも作られたら面倒なんで一応確認で見回りましたが、他はいませんでしたね」

 「そうか、まあ詳しい報告は明後日出勤したら聞くからまとめておいてくれ。じゃあな」

 話を切り上げると帰宅した。

 

 不満そうに頬を膨らませたニノンをなだめる。

 夕飯を軽めに済ませようと言ったのが原因だ。が、当の本人も重い瞼と激戦を繰り広げている。

 食事を済ませる頃には、船をこいでいたニノンも撃沈していた。

 才能の確認は翌日にして、解散する。

 

 目が覚めるとベットの上だった。

 昨日の強い風は収まり、鳥のさえずりが聞こえる中で穏やかな日差しがカーテンの隙間から差し込んでいる。

 夕飯の時のニノンの不満顔を覚えていたフリーダ、朝食はオークのばら肉にジャガイモと玉ねぎ入れてコンソメで煮込んだスープと、鳥の手羽を甘めのソースに少しチリの粉末を入れたピリ辛の手羽焼き、パンとサラダというボリュームたっぷりメニューだった。

 大満足で朝食を終え、ひと息ついているところへウォートが訪ねてくる。

 ソファに座り紅茶を一口飲むと、

 「じゃあ、はじめるかの」

 そう告げるとおもむろに手をかざし、預かっていた羊皮紙をソファテーブルの上に出した。

 「さて、どんな能力を持ってるかな」

 楽し気に笑うエクトル。

 「どんな能力を持っていてもニノンはニノンですから」

 そういって微笑むフリーダ。

 「能力がわかれば無駄に時間を費やさずに済むから、知ることは重要なことじゃがの。じゃが、あくまで参考に留めた方がよい。能力があろうとも本人の性格に向いてるか、本人が望んだ方にゆくかは別の話じゃ。能力がなくとも努力すれば大抵のことはできるようになるでの」

 その言葉に深くうなずくエクトルとフリーダ。

 「そうね。でも、ニノンは…持ってるわよね…」

 半ば確信を持ってフリーダが言った。

 「ほっほっほ、そうじゃの。どれ、ニノンおいで」

 朗らかに笑うとニノンを(かたわ)らに呼ぶ。

 「はぁい」、返事をしてウォートの隣に座るニノン。

 「ち~っとばかしチクッとするからの」

 やさしく言うとニノンの手を取り人差し指に針を刺す。

 いたっ、思わず声が出た。

 針を刺したところからプクッと血が膨らむ。

 素早く羊皮紙に血を擦りつけると、付けた血がふわりと柔らかく光り、そこから羊皮紙全体に広がる。

 ポーションの雫を指に垂らしすと、うずくような痛みが(またた)く間に消え去った。

 羊皮紙の光が消え去るとじわりと文字が浮かび出る。

 そこには能力の名前と内容、解説が書いてある。


 魔眼(鑑定・封)……本人が望むときに目にしたものの情報を得ることができる。封印状態。

          魔力の扱いを習熟すると封印は解ける。


 魔法の素養(全)……あらゆる魔法を扱うことができるようになる。


 適応力………………本人の力量を元に、環境に従い行動や考え方をうまく切り替え対処する力。


 龍族の友……………対象の種族と親しくなることができるようになる。


 食道楽(食物探知、食物育成、未知のレシピ、調理)…複数の能力を内包した力。


 「これは…」 

 言葉を飲むエクトル。

 「あらすごい」

 素直に喜んだフリーダ。

 「ほっほっほ、これは大変じゃのう」

 大らかに笑ったウォート、何かを思案して髭を撫でつける。

 「いっぱいかいてる、すごい?」

 羊皮紙を覗き込んだニノンが、無邪気に聞くと三人を順に見た。

 「すごいぞニノン、これからじーちゃんが色々教えてあげるから、一緒にがんばろうの」

 優しくニノンの頭を撫でる。

 うん、と元気よく頷くニノンを微笑ましく見ていたエクトルが、まじめな顔になりウォートに向く。

 「この内容は、そのまま受け取るととんでもないような…」

 「そうじゃの、じゃが、これはそのまま受け取るものではないのじゃ。できるようになる、というのは可能性の話で努力せねば可能性の頂に至ることはないじゃろう。対応力というのも本人の力量を元に、とあるからの。そこも地力を上げる必要があるであろ。まあ、鑑定の魔眼と食道楽か、これは純粋にすごい能力じゃで扱いを間違わぬように教育していかんとのう。特に“食道楽”は既に影響が出始めるほど強い力を秘めておるようじゃしの」

 大人たちがまじめに話す傍らで、ニノンはモモと遊んでいた。


 「おお、そうじゃ。魔法の素養があるのなら使い魔が呼べるのう」

 「え、モモをよべるの!?」

 ウォートの言葉に反応したニノンがはじけるように飛び上がりその膝にすがりついた。

 見上げる瞳には純粋な期待がこもっている。

 「モモではないが、ニノンの大事な相方が来るのじゃ」

 「あいかた?ってなに?」

 相方が理解できないニノンが首をかしげてキョトンとした。

 「相方というのはとても親しいお友達じゃな」

 可愛らしい仕草に目を細め答える。

 「おともだちよぶ!」

 スチャッと手を上げ立ち上がり宣言した。

 「そうか、では手を貸してごらん。まず魔力を感じて動かせるようにしようの」

 「あ、それをやると魔眼の封印が解けるんじゃ…」

 心配そうにエクトルが言葉を挟んだ。

 「この程度では封印は解けぬよ。魔力を動かせるようになって、それをある程度精密に扱えるようになるところまでいかんとの」

 ホッとして納得したエクトルにウォートが微笑む。

 「では、ゆくぞ」

 そういうとニノンの両手を軽く持ちそっと魔力を送った。

 手先から流れ込んできた魔力の違和感に小さくうめくニノン。

 「気持ち悪かろ、でも、それに似たものがニノンの中にもあるから、感じてみるのじゃ。目を閉じると感じ取りやすいぞ」

 そっと目を閉じて集中する。

 しばらくすると手先から入ったウォートの魔力が、体内をめぐるのを感じる。

 その魔力に寄り添うように自分の魔力が絡みつき移動するのがわかった。

 「ほう、もう感じ取れたか。思ったりよりはやかったのう」

 感心するように言葉を漏らした。

 「じーちゃんのにくっついちゃってる、はなしていい?」

 「ええぞ」

 答えを受けてしばらくするとニノンの中を二つの魔力の流れが並行して同じ方向に動きだす。

 「できたのぅ」そういうと、そっとニノンに気付かれないように手を放す。

 そのまま気付くことなく魔力を動かしているニノン。

 「あれ?」

 違和感を感じて目を開けると手を離され、一人で魔力を動かしていたことに気が付いた。

 「それよいぞ、では、お友達を呼ぶかのう」

 ソファーテーブルの上にあった能力が書かれた羊皮紙をエクトルに渡し、空間庫から大ぶりで丸く巻かれて紐で縛られた羊皮紙を取り出し広げた。

 広げた羊皮紙には、紙面いっぱいに丸や四角の図形で幾何学模様が描かれており、その隙間を埋めるように魔法文字が並んでいる。

 キラキラした目でそれを眺めているニノンが手を伸ばす。

 「まだ触れてはいかんぞ」

 優しく注意されビクリと手を引く。

 それを見て微笑むウォートが言葉を続ける。

 「これが使い魔を呼ぶ魔法陣じゃ、モモを呼んだ時に使ったものじゃが基本的に消耗するようなものではないからこのまま使える。ここに魔力を通せば、その魔力を感じて相性の良い使い魔の卵が得られるからの。魔力は大量に注ぐ必要はないぞ、少しでもその性質が感じ取れれば使い魔の方から出てくるもんじゃ」

 そこまで言って念のため魔法陣の不備がないか確認した。 

 「大丈夫そうじゃの、ではニノン、これに触れてさっきやったみたいに魔力を動かしてみるのじゃ。動かした魔力を指先に集めるようにしての」

 握った手から人差し指をピンと突き出した直後、指先の空中に、ホタルのような淡い光が灯る。

 「わかった」

 そっと手を伸ばし触れると、魔力を動かし始める。

 すぐにはうまくにいかず、うんうん唸っていると不意に指先が淡く光る。

 その直後、魔法陣全体が光り出すと徐々に強さを増していき、魔法陣サイズの光の柱が天井に向かって伸びた。

 光の柱からキラキラと漏れ出る光の粒に気を取られていると、魔法陣の中心に高さ三十センチメートル、幅二十センチメートル位の大きさの卵が現れていた。

 卵の表面は真っ黒な金属の光沢のように艶めき、光を受けるとわずかに紫色を帯びており、大ぶりな蛇のうろこ模様に覆われていた。

 それは見るからにドラゴンの卵に見える。

 「やはりのぅ…」

 才能に龍族の友とあったので予想はできたが、いざ目の前にそれが現れると驚きを隠せない。

 目の前のエクトルは目を見開いてぽかんと口を開けていた。

 「ドラゴンね」、嬉しそうにそうつぶやいたフリーダが顔を寄せてよく観察する。

 静かに光が収まっていき、完全に消え去った時、ゆらりと卵が倒れそうになる。

 「あぶない」

 慌てて両手を伸ばして掴むニノン、胸元に引き寄せると優しく包み込む。

 「これを使うとよいぞ」

 そういうと空間庫から出した抱っこスリングのようなものをニノンに差し出す。

 「それで包んで使い魔が生まれるまで、常に一緒に身に着けて抱いておく事じゃ。そうすることでニノンの魔力を取り込み、よりニノンの事を理解してくれるようになるからの」

 「ねるときもいっしょなの?」

 屈託なく聞くニノンに、一緒に寝るように答えた。

 「つぶれちゃわないかなぁ?」

 心配そうに卵を見つめるニノンに、

 「使い魔の卵はとても頑丈に出来ておるから心配はいらんぞ。そこの壁に投げつけても壁の方がこわれるじゃろうの」

 そう言うとかっかっか、と笑った。


 「それじゃあやることもできたし帰るかの」

 そういうとエクトルとフリーダに目で促し玄関に向かう。

 フリーダに目配せしたエクトルが後に続く。

 「ニノン、お昼何食べようか?」

 モモと一緒に卵に話しかけてるニノンに聞くと、おにく!と元気よく答えが返ってきた。

 「お肉ね、じゃあこれから準備するから、ニノンはそこでモモと一緒にいてね」

 「はぁい」

 よいお返事は背を向けて卵に夢中な状態で返ってきた。

 「なまえはなにがいいかなー?」

 フンフンと卵の匂いを嗅ぐように鼻を寄せるモモを撫でて相談した。




読んでいただきありがとうございます。


徐々にお話が進行してますが旅立ちにはもう数話かかります。

お付き合いよろしくお願いします。

色々つたない点があるとは思いますが、温かい目でお読みください。



評価や感想などいただけたら作者が小躍りします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ