帝国最強、決着。
「ったくよォ、あれからどんだけ時間たった? 全然伸びてねェじゃねェか。死にまくって再生速度上げただけかァ?」
「うる、せえよ!」
僕は叫びながら炎弾を打つ。これまた威力は上がっているわけだが、アーカーにとっては、些細な差。軽く弾かれる。
立ち上がりはするが、正直、勝てるビジョンはない。
だが、再生速度は今異常なレベルの速さだ。つまり、負ける要素はそうはない。せいぜい、つかみかかられてしまうくらい。どんな攻撃だろうと一瞬で治るので、気絶させられる以外には負け筋はない。
いや、ほかにもあるにはある。溺死とか、窒息死とか。慢性的に死に続けるという状況に置かれれば、動くことはできない。
ただ、これらは今の状況では、……、いや、あるにはあるが、まさかしないよな……?
そんなこと、思いつかないよな……?
「死なねェんだったな。なら、土の塊にでも閉じ込めてやるよ」
思いつくか。さすがに帝国最強だ。
だが、空へ逃げれば、……、だから、ここは屋内なんだって!
空へは逃げられない。外へ出ることもおそらくはできない。
いや、待てよ……?
一つの案を思いついた僕は、炎弾を連続で放つ。
「おいおい、当たってねェぞ?」
「いや、当たってはいるんだ。お前だけを狙ってるわけじゃないってだけで」
壁などに当たる。壁は崩れ、僕らを密閉する。
家具などに当たる。壊れた家具などに引火する。
そう、つまり僕が狙っているのは、
「閉じ込めて一緒に焼死しよォってかァ?」
「そうだな。どうせ僕は死なない」
「面白れェ。なら、もっと火力上げてやるよ!」
アーカーは何を思ったか、炎をその辺にばらまく。
すでに炎は外まで燃え広がっているだろう。
「まあ、死んでやる気もねェがな」
言うと、自身の頭上に水球を作り出した。そこそこのサイズだ。
それをそのまま落とし、アーカーはぼびしょぬれになった。
周りはどんどん燃えていく。
僕自身の皮膚も焼けたりしているが、すぐに治る。
対してアーカーは一切燃えることなく立ち続けている。
「時間かかるなァ、これは」
もはや火力は最大に近い。
石造りの家だ。巨大な石窯の中にいる感覚に近い。
だが、僕もアーカーも、倒れることはない。
このまま終わることなく燃え続けるのか。
二人は同時に倒れた。
僕が本当に狙っていたのはこれだ。
酸欠。
炎が燃えれば、酸素は減る。
二酸化炭素中毒。
炎が燃えれば、二酸化炭素は増える。
二人は、酸素が減り、二酸化炭素の増えたこの空間で、耐えきれずに倒れたわけだ。
だが、僕には再生がある。
すぐに立ち上がると、僕は息を止めてアーカーに近づく。彼の肩を持ってつかみ上げ、外に連れ出す。
その前に、戦闘によって落ちた魔石を拾っておくことも忘れない。
かなり短時間だったからか、外に出るとすぐに彼は息を吹き返した。
外は燃え盛っているとはいえ空気なら豊富にある。
上空にまで行けば、なおさら。
「俺様は、負けたってことか?」
「さあな。でも僕は勝ったとは思えない」
「?」
「これは一つの経験だ。僕はこの世界に来てすぐに、こういう状況に遭遇したんだ。君が殺した少女。名前はシロナっていうんだけど、僕が見つけた時彼女はまさにこんな状態だった」
「こんな……?」
「室内で、火を燃やして、倒れていたんだ。僕はその状況を再現したに過ぎない。知識の差かな。次からは同じ手は君には使えないだろうね」
「どォして助けた?」
「僕は、もう誰にもこんなふうに死んでほしくないんだ。こんなふうにっていうのは、通常の死とは違う死に方だ。平穏に死んでほしい。病気や事故は仕方がない。回避のしようがないからね。でも、戦いの中で死ぬっていうのは、回避できるはずなんだ。それは普通じゃないよ。誰もが、平等に平和な死を迎える権利はあるはずなんだ。それを奪うっていうのは、僕には認められない。まあ、僕には平穏な死なんて永遠に訪れることがないわけだけれど、もう、誰にも普通じゃない死は迎えてほしくはないんだ。だから」
「助けたってのか?」
「そうなるね」
「俺様はそんなこと望んじゃいねェ」
「僕が望んだんだ」
「なら、俺様の命はお前のもんだ。てめェが生かした。てめェで責任取れ」
「いや、でも」
「お前が認めてなくても、俺様はてめェに負けたんだ。負けたら死ぬもんなんだよ。それを生かしちまったのはお前だ」
「僕だって頻繁に負けてるよ。君にだって二回は実戦で負けてる」
「全部、本気じゃなかった。手を抜いてた。どォせてめェは死なねェんだろォが。そんなの、勝てやしねェっつーんだ。俺様はお前に戦いでは勝っちゃいねーよ」
「それでいいのか?」
「あァ。もォ疲れたしな。あとは任せる。俺様には、軍の運営は向いてねェ」
「ふふ、せいぜい使いつぶさせてもらうとするよ」
ということで、僕はアーカーに勝利したことになり、彼を今度こそ手に入れた。
恐らく、彼がわざわざ僕の迂遠な、時間のかかる作戦に付き合ってくれたのも、もう考えて戦うのが面倒になっていたからだろう。
「次こそ裏切るなよ?」
「しねェよ。もォめんどォなことはしねェ」
「なら安心だ」
「それより、いつまでぶら下げてんだ」
「下は炎の海だからね」
「全部消しゃァいいか?」
「そうだね。よろしく」
「じゃあ落とせ」
「はい」
ぱっと、手を離した。
決着!
まさかこうなるとは。
ここは負ける予定だったんですけどね……。
まだまだ続きますよ~。