戦闘、逃走、迷走。
氷が迫る。
氷塊が、僕らを襲う。
「ちっ」
小さく舌打ちをしつつ、僕はヒヨ様を抱き寄せつつ炎翼を広げ、後方へ少し跳びつつ、翼を正面の氷塊へ振るう。
消し去ることはできないので、当てつつ軌道を逸らし、氷塊の無い方へ足を使って跳ぶ。
「捕らえるとか言ってなかった? これ、当たったら死ぬよね?」
「これが当たるほどの弱さではないでしょう。何とかして防ぐ、もしくは避けるでしょう? そうすれば、大きな隙が生まれます。ほら、ちょうど今のように、ね!」
言いながら、今度は、サイズの小さな氷柱が飛ばしてくる。
これは、炎によって消し飛ばせる。
そう判断し、炎翼を振るう。
「くそ、面倒だな……」
だが、こうやって時間を稼いでいれば、そのうちアーカーが来るだろう。
そうすれば形成は一気に逆転だ。
「時間を稼がれれば、例の『千変万化』が来ますかねぇ? それは怖い。さっさとあなたを止めるとしましょう。そうすれば、あなた方はもはや敵ではなくこちらの人質となるでしょう。そうすればこちらのものです」
さすがに読まれてしまうか。
ここは自分で何とかしなければ。
しかし、守りながら格上と戦うというのは、かなり辛い。
まあ、守りながらじゃなくても辛いのだが、それ以上だ。
相性がいいからなんとかなってはいるけれども、僕の炎では消せないレベルのものも多い。
さっさと逃げてしまうのがいいかもしれない。
どうする……?
逃げてしまえば、とりあえずは大丈夫かもしれないが、アーカーとの合流は果たせない。
そうなれば、僕の方の戦力は上がらない。
それは少し厄介だ。
どうする……? どうしよう……?
しかし、考えている暇はなかったのかもしれない。
さっさと逃げるべきだったのかもしれない。
なぜなら、
「ミサゴ、お前も働きなさい! さっさと捕らえれば終わりです!」
つまり、後ろからも追っ手、ブラウンさんが来るということ。
これはまずい。
僕は、ヒヨ様に手を伸ばしつつ言う。
「逃げます。捕まってください」
「え、合流は?」
「とりあえずは生き延びましょう」
ヒヨ様の体を抱き抱え、僕は、飛び立とうとする。
「坊主、すまん!」
そんな声と共に、僕の炎翼は捕らえられた。
「土魔法……!」
一旦翼を消す。
くそ、面倒だ。
何とかして捕まらずに飛ぶには……。
「炎幕!」
視界を遮って逃げる!
これに尽きる。
失敗すれば終わりだ。
でもやるしかない。
どうせやらなきゃ結果は一緒だ。
ゴウ!
周囲に炎の幕が生み出される。
高く立ち上ったそれらは、一瞬で僕らを覆い隠す。
その瞬間に、僕は飛んだ。
ヒヨ様を抱えた腕が炎幕に触れる寸前で、炎幕はかき消える。
そもそも長くは持たないのだ。
視界に僕らを捉えたのであろう氷の男から氷矢が飛ぶが、全速力で飛行する僕に狙いを定めることは難しいようで、一発二発僕に刺さったが、ヒヨ様には当たらなかった。
他は一部炎翼に飲まれて消えたりもしただろうが、大半は町に降り注いだ。
「うっそだろ……?」
当然町にはシロナもいる。
目を離せば危ない。
そう判断した僕は、一度急降下し、シロナを追加で捕まえて飛び去った。
「きゃ!」
「悪いけれど、ここは危ない! 安全そうなところまで連れていく!」
僕がそう言うと、反対の腕で抱えていたヒヨ様が言った。
「両手に華ですね」
「片手で抱き抱えるには二人とも思いですから辛いですよ!」
「あらあら、ひどいことを」
「……」
なんだか気の抜けるやり取りだが、ヒヨ様とは違って、シロナはなにもしゃべらない。
震える姿も中々画になるなあ、この子。
そんなことを考えていると、
ビュン!
先程までよりも大きい氷矢が僕の頭上を掠めた。
「さっさと逃げますよ!」
僕は全力で飛行した。