初出所、新開花、再出発。
どのくらい時間がたっただろうか。
一度加護の深淵を覗いてきたのもあるが、ここには光が入ってくることも、食事が来ることもないため、時間がわからないのだった。
作戦は考えた。
伝え方も。
あとは呼ばれるのを待てばよい。
それだけで、この計画は動き出す。
待つだけだ。待つだけ……。
それからいくらか時間が経って、扉が開いた。
「ほう、本当に生きておったか。出てこい」
偉そうな声が聞こえてきた。
彼の後方から光が差しているため、顔は見えないが、その少し後ろにアーカーがいる様子からして、どうやら彼が帝国王だろう。
国の王がこんなところに来るとは狂っているとしか思えないが。
どうやらその辺りもアーカーが王を無能だと言っていた理由なのだろう。
とりあえず、僕は逆らうことなく外に出た。
外はけっこう明るい。
僕のいた部屋の外側には、番号が振られていた。
ローマ数字で、一番。
他の部屋にも振られていて、アーカーの言っていた通り、四番まで存在するようだ。
なぜローマ数字なのかは不明だが、ここではそれが一般的なのだろう。
そう思っていたが、階段の踊り場に書かれている階数はアラビア数字で書かれていた。
違ったようだ。
まあ、そんな場合ではないか。
僕はアーカーに念話を送る。
これが今回深淵を覗いたことで分かった技能だ。
どうやら、かなり遠くにまで届くらしい。
使ったのはこれが初めてだったが、この技能を知ったときに分かったのだ。
さて、うまく届くといいが……。
『聴こえてる? 聴こえてたら右手を動かすかなにか念じて』
すると、アーカーは動いた。
「ん? なんだこりゃ」
右手を動かしつつ言う。
「どうした?」
当然だが、王が聞く。
バカかあいつは。
なんで声に出すんだ。
『聴こえてるんだね。返事はいい。僕の声だけどわかってるよね?』
『なんだ、クロトか。何なんだこれ?』
適当に王の相手をしつつ、アーカーは念話を返してきた。
意外と器用なのかもしれない。
僕は説明をしつつ、階段を上っていく。
「それにしても、長い階段ですね」
「うむ。最下層のみ深く作ってあるのだ。他の階層の階段は短い」
「そうなんですか」
さっきから、踊り場を何回も通りすぎるが、一向に第二階層にたどり着かないのだ。
その後も、少し話したり話さなかったりしながら、階段を上り続けた。
階段はけっこうきれいで、なんでも土魔法使いのなかにはこういう加工が得意なものがいるらしい。
ようやく地上に出た。
「よし、応接室を用意してある。行くぞ」
「はい」
すでに作戦は通達し終えた。
あとは、進めるだけだ。
そう思いながら、応接室に入った。
席に着くなり僕は言った。
「それで、話というのは?」
ようやく話が進みそうです。