一騎当千、千変万化、化け物。
「へェ、今のを受けて無傷。お前、なかなかやる……、その朱い前合わせの服、てめェ、本物か?」
「本物?」
何を言っているのかは判然としないが、僕がやるべきことは依然として変わらない。
僕は襲撃者の方を見ながら、おっちゃんへ手を振ってここを離れるように示す。
「いいのか? 任せて……」
「早く逃げてください。シロナのことはよろしくお願いしますよ」
「ああ、わかった。すまん、恩に着る!」
そう言いつつ、彼は駆け出した。
「って、逃がすと思ってんのかァ!?」
そう叫びながら、襲撃者は雷撃を放った。
それを、僕は翼と体を使ってなんとか受け止める。
魔法が見えたわけではない。
どうせ狙うだろうと思って、おっちゃんとの間に飛び込んだだけだ。
「ふん、まずはてめェからってかァ? わかったよ。俺様が相手してやる。聞きたいこともあるしなァ」
「聞きたいこと?」
「ああ、てめェは本物か? 本物の、不死鳥の加護の保持者か?」
「何で知ってる……!」
「姿から明らかだろォが。朱い装束に火炎の翼、伝承どォりだ」
「伝承なんてのがあるのか……!?」
「その様子じゃァ知らなかったようだなァ。まあいい。ここの爆発、てめェの仕業で間違いねェな?」
「ああ。正解だ」
こんな会話を続けながらも降り続けていた襲撃者の攻撃の雨が、その時やんだ。
「わかった。なら、こっちへ来い。そうすりゃ、そっちのやつらに手出しはしねェよ」
「!?」
言われて振り返って、僕は知った。
誰も逃げていなかった。
こちらを窺い、反撃のチャンスを待っている。
「何してるんです! 逃げてください!」
「はっ、逃げられるわけがねェんだよ。そもそも、てめェがこっち側じゃないと誰が証明できる? はじめからてめェは信用されてねェんだよ」
そういうことか。
僕は突然現れ、とらえられることを望んだ。そうか。それは、確かに、疑われても仕方のない行動だった。
でも、
「僕はどちら側にも属してなんていない! とりあえず、シロナが無事であればいい! だから、それの邪魔になりそうなこの男を止めて、シロナを助けてくれそうなあなた方に頼んでる! 無理そうなら、どっちも全員殺しますよ!?」
その言葉で、襲撃者の男以外がざわつく。
「おい、逃げちまおうぜ」「逃げた方がいいよ」「せっかく逃がしてくれるんだから」「逃げよう。殺されたくねえ」
そんな声が聞こえてくる。
そう、それでいい。
僕に恐怖し、逃げるんだ。
「逃げるならさっさとしろ!」
僕はそう叫んだ。
「ったく、なにうだうだやってんだ。わりィが、逃がす気なんて、更々ねェよ!」
そう叫び、襲撃者は右手を振るう。
当然僕は対応できない。
風の刃が、逃げようとしていた兵士達を襲い、全員を斬って捨てた。
僕の体も切れ、治っていた。
「どォやら、その回復能力、貫通しちまうよォな攻撃を防ぐには適してなさそォだな」
「っっ、そうみたいだね」
「俺様はよォ、五色の魔力を持ってる。だから、どんな魔法も使えるんだが、欠点があってなァ」
「欠点?」
「そうさ。体内の魔力バランスが揃わねェ。故に、その時々で使う魔法が変わる。だから、俺様は千変万化って二つ名を貰ってるわけだが、魔力の回復速度は早ェからな」
一呼吸置くと、彼は右手を振るいながら言った。
「使う魔法の選び方次第で、バランス合わせてこォいうことも出来んだよォ!」
振るわれた魔法は、五色の輝きを纏っていた。