襲撃、戦闘、開花。
まずい、まずいまずい。このままじゃ、あの子が、シロナが、きっと、危険だ。
おそらく後方は襲撃を受けている。
そして、彼女は後方にいる。
彼女は戦闘能力を持たない。
であれば、かなり危険な状態であることが、容易に想像可能だ。
まずい、助けなければ。
誰が?
もちろん僕が。
いや、出来ないだろう。
僕ではそもそも戦闘能力はほぼない。さらには、今僕は檻の中だ。
出ることすら出来ない。
あそこに向かうことすらもままならない。
ああ、できることならすぐにでも飛んでいきたい。
そう願いながら、僕は後方を睨み付ける。
すると、不思議な感覚が訪れた。
視線だけが、無制限に飛んでいくような感覚。
その飛んでいった視線が、戦場の様子を、ありありと映し出す。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
少女は逃げ惑っていた。
襲撃者は見たところ一人。
だが、破壊の様子はかなり悲惨だった。
馬車のようなものたちはほとんどが横転、もしくはひっくり返っている。
襲撃者が言う。
「オイオイ、まさか、こんなもんじゃあねえよなァ?」
そういいつつ見下ろす彼に、ボロボロになった兵士の一人が切りかかる。
「くそ、化け物が……、っっ!」
だが、兵士は手を振るわれただけで吹き飛ばされた。
「てめえじゃあねえなァ。いるだろ、強いのが、出せよ。それか、なんだ? この爆発の戦力はてめえらじゃあねえのか? それとも、これはそういう兵器の仕業で、てめェらの中の強えのはそれを守ってるとかかァ?」
触れることすらされなかった。
彼らの間にはかなりの実力差があった。
このままでは、シロナもすぐにやられてしまうかもしれない。
誰か、誰か助けに入ってくれ。
その願いに答えるかのように、再び手を振るおうとした襲撃者を、割れた地面が吹き飛ばした。
そう、おっちゃんの登場だ。
「悪かったな、待たせた。もう大丈夫だ。お前らはその辺の嬢ちゃん達連れて逃げろ。こいつは俺が止めておく」
そう言いつつ、おっちゃんは背負っていた大剣を抜いた。
「そォかそォか、てめェが強ェのかァ?」
そう言いつつ、襲撃者は立ち上がる。驚いたことに無傷だ。
それを見て、おっちゃんは逃げることを躊躇していた兵に向かって叫ぶ。
「早く逃げろ! たぶん長くは持たん!」
兵たちは慌てて逃げ出した。
つまりは、彼でももたないということだろう。
ということは、彼女、シロナも危険だということだ。
このままでは、危ない。というか、僕も危険なんじゃないか?
まあいいか。僕はどうせ死に得ない。
であれば、僕はどうすればいい?
視界は戻した方がいいか? いや、戻ってもなにも出来ない。
なら、このまま見ていよう。
どうせそれ以外にできることなどない。
おっちゃんと襲撃者はぶつかりあう。
襲撃者の放つ魔法は、すべてばらばら。違う魔法をいくつも放つ。
それらは、おっちゃんの大剣、もしくは魔法で生み出した土壁で受けられる。
止められるもの、止められないもの、それぞれの魔法は違う方向へ向かったが、どれも人に当たることはない。
おっちゃんは、経験から、被害の無いように魔法を受けていたということだ。
「はっ、けっこォやるじゃァねェか。誉めてやるよ」
だが、動きの精度は落ちている。しばしば人の近くに直撃するようになってきた。
このままでは時間の問題だろう。
まずいな……。
「あァ、こういうのはどォだ?」
そう言いつつ、襲撃者は右手を横に振るった。
その先から、光の線が放たれる。
それを体勢を崩しつつもおっちゃんが避けたのを見届けたのと同時に、僕の視界は引き戻された。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
見上げると、焼き切られた檻の上部と僕の首のない体があった。
その体は燃え上がりつつ消え、僕の首から下が生み出される。
どうやら、先ほどの疑問は解決されたようだ。
「にしても、……」
回復速度、早くなってないか……?
これも深淵を除いた結果か……?
よくわからないな……。
「って、そんな場合じゃない!」
早く向かわなくては。
僕は飛び上がった。
翼が使えてる……? なんだか、とても馴染んで扱える。まるで、もとからあったかのような感覚でだ。
すぐさま僕は飛ぶ。
おっちゃんの元へ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
おっちゃんは何とか生きているような状態だった。
「は、しぶといなァ。さっさと死ねよォ。すぐに残ってるやつらも送ってやるからよォ!」
そう叫びながら、襲撃者は火炎を生み出す。
「じゃァな。けっこォ楽しめた」
そう言って、それをおっちゃんへ振るった。
そこへ、僕が駆けつけた。
その炎翼で、庇うようにして。
僕は言う。
「逃げてください。あとは僕が」