★9話 わざとはしなくていいんだよ
「夢乃ちゃん、一緒におもらししちゃったね」
私は夢乃ちゃんを励ますために両手で夢乃ちゃんの手を握る。
夢乃ちゃんが顔をぱあっと明るくする様子を私は予想した。
しかし、いつものように夢乃ちゃんの顔は明るくはならず、曇ったままだ。
しばらくして夢乃ちゃんが口を開いた。
「叶乃ちゃん、わざとおもらししなくていいんだよ」
ドキッとした。私が考えていたことがばれてるの?
とにかく、弁明しないと……
「わざとじゃないよ。ほんとに我慢できなかったの」
嘘に嘘を重ねて嘘を作り上げる。
しかし、そうやって嘘だけでできた嘘は軽く、脆い。
「だって私たち、いつも本当におもらししちゃうときは握ってる手に力を入れるもん。
でもさっきの叶乃ちゃんは私の手を握りしめなかった」
私はハッとした。夢乃ちゃんの言うとおりだ。
もう夢乃ちゃんに返せるような言葉はなかった。
私たちの間には、周りの小学生が道端でおもらししている中学生二人を見て、あれこれ言う声しか音がない。
「で、でも叶乃ちゃんは私のことを思ってしてくれたんだよね。ありがと、叶乃ちゃん」
私は私自身を問い詰める。
本当に私は夢乃ちゃんのことを思っておもらししたのかな?
もしかして、私は一人だけトイレに行ったことに引け目を感じて、私のためにおもらししたんじゃ……
それに甘えたかったからおもらししたのかな……
私はそんな複雑な思いを心の中に閉じ込めて、地面にいくつかの水滴を作りながら夢乃ちゃんと一緒に家まで歩いた。
それから数分間かけて家までたどり着き、玄関のドアを開けるとそこにはお母さんが立っていた。玄関に置かれている様々な食材の入ったエコバックからするに、お母さんはちょうど買い物から帰ってきたところだった。
突然私たちが帰ってきたことに驚いたお母さんは、私達二人の方へ顔を向ける。
「あらあら、帰り道におもらししちゃったの? それにその手荷物……」
「えっとね、帰り道に私がね……」
夢乃ちゃんがついさっきあったことをちゃんと話始めたが、私の口からはそれを遮るようにポッと言葉が出てきた。
「帰り道に二人でおもらししちゃったの。このビニール袋はね、授業中にトイレに行こうとしたけどその道でおもらししちゃったの」
半分嘘で半分事実のようなものだった。
ただ、保健室でのおもらしが私のわざとおもらしだなんて夢乃ちゃんですら知らない。
私達からそれぞれのビニール袋を預かった、お母さんは私たち二人をリビングまで連れてきた。
「二人とも、約束は覚えてるよね?」
お母さんが私たち二人の方を見て、少し不気味で何かを企んでいるような笑みを浮かべる。
もちろんここでの”約束”とはおもらしをしたらその日はおむつで過ごすという約束だ。
「じゃあ二人とも、びしょびしょのスカート脱いで」
お母さんにそう言われて私たちはずっしりと重くなったスカートをその場で脱ぎ、それからショーツも脱いだ。
季節の変わり目のまだ少し冷えた空気が、露わになった股間のあたりをくすぐりどこか恥ずかしい。
「ねえ二人とも……」
お母さんが私と夢乃ちゃんのことを見ながら、少し不安そうな面持ちをしながらそう言った。
私たちは何も言わずに同じ方向に首を傾げる。
「一枚だけパンツタイプがあって、ほかはテープタイプなんだけど……」
私は夢乃ちゃんと向き合ってお互いの顔をよく見た。
実際のところ私はテープタイプの方が、お母さんに甘えられるためテープタイプの方がいい。
でもテープタイプの方が良いだなんて言ったら、私が甘えたいと思っていることがバレバレである。そこで私は少し考えて夢乃ちゃんに言った。
「夢乃ちゃんはどっち履きたいの?」
「そりゃもちろんパンツタイプだけど……」
予想していた通りの答えだった。
「いいよ、夢乃ちゃん。私がテープタイプするね!」
私は夢乃ちゃんの両手を手に取り、夢乃ちゃんの目をよく見ながらそう言った。
私たち、双子なのになんだか最近ずれてきているのかな……
私はそんなことを心の中で何度も考えた。
「じゃあ叶乃、おむつつけるからそこにごろんして」
私は言われたとおりにリビングに敷かれたおむつ替えシートの上に寝転んだ。
隣では夢乃ちゃんがちょうどパンツタイプのおむつをはいているところだった。
私の下半身はおむつで包まれていく。
その時は、夢乃ちゃんよりもお母さんに甘えられてる気がしてとてもうれしかった。
それからの今日は、二人ともおむつを濡らさずに済み、今日という日を終えた。