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ショートコメディ『〇〇くん』

ショートコメディ『重々くん』

作者: かげる

 楽しいことをしよう。


 ただ、十年以上生きてきた一介の学生である私だって、『楽しむ』という言葉の意味合いが人によって異なることは百も承知だ。いいや、二つだけ知っている。今楽しむか、後で楽しむか。その違いだ。


 今楽しめば、あとで楽しめなくなる楽しさが存在する一方、今、我慢しながらも未来に楽しさを残しておく楽しみもある。どちらかがいいと主張したいわけではない。楽しいにも色々あるということを言ってみたかっただけだ。


 そんなことを言っていると、もう一人の一介の学生である重々くんが、この私に(この私に!?)物申してきた。


 おいやめろ(他人の独り言に物申すな! 今すぐ消えろ! そこは何食わぬ顔で、素通りしろ!)。私は陰キャなんだよ。


「〇〇さんって、そんな独り言を言うキャラだったっけ……? うん。明るいのが取り柄なのはいいことだけど、あまり関心しないなその独り言。楽しいをわかった気でいるみたいだけど、それはどうかな」


 なんだか、含みを持たせるような言い方。その言い方のほうが、どうだよ。あれ……もしかして『それはどうかな』で終わり? 句点なの? 下述してくれないの? そう思っていたら、重々くんは、数秒の沈黙に耐えかねたのかどうかはわからないが、話しを続けた。


「〇〇さんって、そんな独り言を言うキャラだったっけ……? うん。明るいのが取り柄なのはいいことだけど、あまり関心しないなその独り言。楽しいをわかった気でいるみたいだけど、それはどうかな」


 ……流石は重々(かさねがさね)くん。同じ話しばかりしてくる……。確か、同じことを二回言うのが彼の特徴らしい。私は、他人の話しを聞かないクズなので、二回言ってくれるのは助かる。ただ、私以外の人間は例外なくうざがられるだろうことは、想像に難くない。死ね! って思われるかもしれない。死ね。


「え、今なんて? 今死ねって言わなかった?」


 いいや言ってない。死ねなんて一言も言ってない。私は他人の心が傷つくのを容認できない聖人なので、死ねなんてどす黒い気持ちは心の奥底に封じ込めておくようにしているのだ。口に絶対に出さない。


「なにを言ってるのかな。それより話しの続きを聞きたいな。重々くんが、未来に向かって羽ばたく栄光の軌跡を」

「そんな話し、した記憶ないけど」

「……」

「そんな話し、した記憶ないけど」

「続けて」

「そんな軌跡、全くないな。過去には暗い思い出しかないから、相対的に未来が明るくなるだけで……」

「……」

「そんな軌跡、全くないな。過去には暗い思い出しかないから、相対的に未来が明るくなるだけで……」


 なんか、いっきに話しが重くなったぞ……? 暗い話しを二回続けて重ねられたからか……? しかも『全くない』ってさりげなく二重否定……。


 こいつ……。







 私は暗い話しになってしまって、気分が塞がってしまわないように明るい話題をふる。窓枠の内側から見える明るい世界に対して、飾り気のない自然さで。


「あ、今日はいい小春日和だね!」

「うん。大雨だね」


 六月の雨だった。私の『今日はいい小春日和だね!』が失敗した典型的なパターンだ。これは場が鬱屈した雰囲気の時や、話題を変える時によく使ってる口癖。どうやら私は、学生としての年月を過ごしていくいうちに、悲しい習性が身に付いてしまったらしい。今日はいい小春日和だね!


「悲しい」

「うん。大雨だね」


 重ね重ねくんの表情は、さっきより柔らかくなっているようだった。私が悲しいときにそんな顔するな。私に同調しろよ。友達だろ?


「ねえ。あのさあ、雨好きなの?」


 ふと疑問に思っていることを訊いてみた。外は豪雨なのだ。低気圧で気分が悪い人だっているだろう。それなのに、どうしてこの天気をそんな楽しそうに見れるのだ。


「別に、嫌いってわけじゃないけど。うん。それに、好きではないわけでもないから、この気持ちは、好きなんだと思う。重ね重ね言うけど、別に、嫌いってわけじゃない。うん。それに、好きではないわけでもないから、この気持ちは、好きなんだと思う」


 重々くん……。

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