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コンコンっ、
軽やかな音が、部屋に響く。
「おはようございます、お嬢様。お目覚めですか?」
扉の向こうから声がした。メイドだ。
「おはよう、入っていいわ」
「はい。お召し物をお持ちしました。」
彼女が入ってきて、持っていたのはドレスだ。
ド派手なピンクの。
「……。」
いけない。クラっときてしまったわ。
なんでこんなに趣味の悪いドレスを選んだのかしら?ファッションセンスがとんでダメ。
バカなのかしら。バカなのね。
このドレスを選んだのは私だが、これはひどい。
アンリエッタのファッションセンスはどこか方向がずれていた。
ファーストレディがこんなださいドレスを選んでいたら、国民たちに恥ずかしいったらありゃしないじゃない。
まぁ、アンリエッタだけではなく、このドレスを選ぶことを否定しなかったお父様や商人もどうかと思うけど。
「ねぇ、あなた。そのドレスどう思う?」
私はドレスを指さしてやって来たメイドに聞く。
「え、」メイドは驚いて小さく呟いた。
あぁ、このメイドは常識人ね。絶対ダサって思っている表情をしているもの。少なくともファッションセンスはまともよ。
でもきっとどう答えようか迷っているのね。
正直に答えたらアンリエッタの機嫌を損ねる可能性があるもの。
なんだか頭が痛くなるわね…。
部下に自分に仕えてくれる人にここまで信用されていないなんて!貴族として、ましてや将来王族になるかもしれない令嬢としてあるまじきことだわ!
「しょ、正直に申し上げますと。少し派手すぎはしませんかね…。あの、決してお嬢様の趣味が悪いというわけではありません!趣味趣向は人それぞれでございますから!」
このメイド…!!
私はハッとしてメイドの顔を見た。
メイドはビクッと怯えてしまったがそんなことは気にせず私は彼女の顔を見る。
顔というのは他人にその人の一番最初の印象付ける部位である。
実際に美人はブスに比べて話しかけられやすいではないか?ナンパもその例。
ふむ。なかなか彼女はいい相をしている。まっすぐした目にはなんだか既視感を覚えた。
レティと同じ目をしているのね。
気に入ったわ。
アンリエッタに意見をきちんと述べられるメイドなんて初めてだった。
さらに相手の気分を害さないように自然と意見をしていた。そこもポイントだ。
私は立ち上がって彼女に言った。
「あなた、私の専属メイドにならない?」
「え…。こ、光栄でございます!」
すっごく驚いていたが反射的に光栄だと答えていた。まぁ!優秀だこと。
ついでに何故私が任命したのか話そうかしらね。
「私ね、今まで我が儘でどうしようもないクズだったでしょう?それを、止めようと思うの。」
「は、はい…」
突然話し出した私に彼女はうなずくしかしなかった。
「だって来年には学園に入学するのですよ。大人の女性になるために変わりたいのです。そして…」
私はメイドを再度じっと見つめる。
彼女の顔からは真剣に話を聞こうというのが伝わってきた。
9歳の少女の話をきちんと受け止めてくれる。
ふふっ、素晴らしいわ!
「あなたは私にきちんと意見を述べた初めてのメイドよ。だからあなたにわたくしアンリエッタ・ユリエスの専属になってほしいのよ」
メイドはゆっくりと顔をあげる。
頬が紅嘲している。なんだか感動にうち震えているようだった。
「分かりました、お嬢様!一緒に頑張りましょう!!」
メイドはドレスを放り投げて私の手をぎゅっ、と掴む。
ほんと、このメイド面白いわ。
「ねぇ、あなた名前は?」
「レティーシアと申します!」
メイド、レティーシアは元気に答えるとドレスを拾った。
私はたいそう驚いた。
「…っ!!そう。じゃあまずは命令よ。その趣味の悪いドレスを選び直してきて」
「承りました!!」
命ずると彼女はビューンっ!と部屋から出ていった。たぶん大急ぎでドレスが置いてある大きな部屋に行ったのだろう。
戻るのを待ちましょうかね。
しかし、なんの偶然かしらね、このメイドがレティと同じ名前だなんて。
▪▪▪▪▪▪▪
レティーシア・アーデノイド。
通称レティは、アリアと共に国を救った英雄であり聖女であった。
つまり、アリアと一番最初に冒険を始めた仲間だ。
魔王戦では私たちが倒れかけたところを全力で癒してくれた。
彼女がいなければ私たち勇者一向は敗れていただろう。
アリアの親友であり忠臣。
彼女はこの国の医療機関に革命を起こしたことでも有名だ。
癒着で腐りきった教会を建て直し、貧しい人々や病気の人々のために無償の医療機関を国に10箇所置いた。
貧しい人々への炊き出しを始めたのも彼女だった。
改めて考えると本当に出来た親友だった。
しかし、彼女はアリア同様魔王戦での毒によりアリアが亡くなった三年後に亡くなったと記録されている。
国民はその時たいそう嘆いて彼女を称えた祈りの像を王城の前の広場に建てたのだった。
▪▪▪▪▪▪▪
まずは婚約破棄させていただきたいわね。
相手が旦那様でないなら結婚なんてしたくないもの。
それに相手も私を嫌っているようですし。でも同時に私を盾として考えているのもありますわ。
無駄にイケメンですもの。アンリエッタか間違って一目惚れするぐらいには。もちろん旦那様には劣りますけれど。
「お嬢様持って参りました!」
レティーシアが駆け込んでくる。
あらぁ、早いわね。機動力50っと。
彼女が持ってきたのは水色の清楚な雰囲気のドレスだった。
よかった、レティーシアに任せて。
公爵令嬢として恥ずかしくないドレスだわ。
でも、サイズが合うかしら?
二年前に流行っていたデザインのドレスなのでその頃に買った予備のドレスを持ってきてくれたのだろう。捨てていなくてよかったけれど、着れるかどうかか問題だ。
私はドレスをなかば強引にレティーシアから受け取って自分に合わせてみた。
(少し足の丈が短いな…、ギリギリ膝下)
幸い、横にはあまり太くなっていないため着れそうだ。
花嫁修業で日頃甘いものは我慢しているもの。それが今回役にたった。
だがその分身長もあまり伸びていない気がするのだが…。
「レティーシア、ありがとう。着させていただけるかしら?」
レティーシアはそそくさと動いてドレスを着せてくれた。
ふぅ、とりあえず着れたけど。
結構パツンパツンだ。
あまり料理は食べれないとみた。
残念だなぁ…。食べ物はアリアの時代よりはるかに美味しくなっているもの。
さて、今日はユリエス家でアンリエッタの誕生日パーティーが開かれるのであった。
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