プロローグ
「お願い、私を忘れないでね…。」
「ッ陛下!!」
私のことを思ってみんなが涙を流してくれている。
あぁ、なんて幸せだったのだろう…。
手を握ってくれている私の愛しい人。
祈るようにぎゅっと掴んでくれている。
(あぁ、もう。ダメね…。)
私は瞼を閉じる。
すると走馬灯のように沢山の思い出が目に映った。
たくさんの冒険があった。
私は勇者に選ばれて、それから魔王を倒し、女王となった。
その間にいくつもの出会いがあって、私は愛しい旦那様と結婚した。
ふふっ、なんて幸せだったのだろう。
魔王戦での毒により私の体は今なお蝕まれている。もう長くない。
(でも、後悔なんてしてないわ。)
私の意識はだんだんと遠のいていく。
声だけが聞こえてきて、みんながどこか違う世界にいるように感じた。
手から伝わってくる旦那様の温度だけがなぜかすごく近く感じた。
(あぁ、あったかいなぁ。)
…そこで、私の意識途絶えた。
▪▪▪▪▪▪▪
「…っはぁ!?」
私は思わず飛び起きた。
なんだ、今の夢…!!!!
額は汗びっしょりだった。
(そう、思い出したわ…!私は、私は。)
私の名前はアンリエッタ・ユリエス。
今日、9歳の誕生日を迎えた。
ユリエス公爵家の一人娘。
母親が早くに亡くなったために、父親に甘やかされて育った。
社交界では<黒き白百合>と呼ばれるほどプライドの高い腹黒我が儘娘という印象を受けている。
おまけに国の第三王子のシリウスに一目惚れしてお父様に頼み込み強引に婚約をしたのだ。
特別美しいわけでも、才能があるわけでもないのに…。
すべて自分の思い通り。自分こそ世界の中心だと信じきっていたのだった。
だが、今日私は思い出した。
自身が元勇者で若くして亡くなった伝説の女王アリア・スフィーリアであったことを。
また驚くべきことに、この国はアリアの建国したスフィーリア王国なのであった。
私ったら、何をやっていたのでしょう!!
この国の母であった私が、貴族たちに<黒き白百合>だなんてバカにされた呼ばれ方をされているだなんて!
なんて愚かな…。恥ずかしくて洞窟のなかにでも籠ってしまいたいわ。
さらには王子に無理矢理婚約を迫る始末。
私は旦那様と結婚してからすぐに体調を崩したので、まだ処女なのですよ…?!それなのに、他の男性と婚約を結ぶなんて。
いえ、前世のことではあります。分かっているのです。でも私は旦那様以外に自分の純潔を差し出すつもりはありません。
「挽回しなくては。元はこの国の女王、思い出したからには今までの不名誉を挽回させていただきませんと!」
こうして私、アンリエッタは9歳にして生まれ変わることを決意した。
アリア・スフィーリア
アンリエッタの前世。
スフィーリア王国の建国の母であり、世界を救った勇者、英雄。
魔王戦での毒により早くに亡くなる。
結婚していたが、子供はいなかった。
アリアが亡くなった後は旦那が国王に。養子を迎えていたため、その子が旦那の次に国王になった。
アンリエッタ・ユリエス
主人公。9歳にして<黒き白百合>という呼び名をもつ。
自分の今までの行いをアリアであったことを思い出してからとても悔いた。穴があったら入りたい。
みんなの手本になるような素晴らしい令嬢に生まれ変わることを決意。
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