プロローグ
黒く塗り潰された屋根、亀裂の入った壁、必死に働く部下達。それらを全て取り囲む、紫色の禍々しいオーラ。この見るからに危険な建物は、世界の支配を企む覇王率いる覇王軍の拠点となっている城だ。最近知名度が上がるにつれ、魔王と間違えられるのが気に食わないらしい。
耳を澄ませば中から会話が聞こえてくる...
「今どれくらい支配できたの?」
「はっ、約三分の一程かと。」
「やだぁ〜、まだまだじゃない。」
「すみません、最善を尽くします。」
「頑張ってねぇ。あと。」
「何でしょうか。」
「この世界の色んな場所に伝説の装備たる物があるという事を噂で聞いたのよ。んでもって、その装備が滅茶苦茶強いらしいのよ。私の世界征服に支障をきたす可能性大じゃん?だからその場所をこの地図に記しておいたから、強い部下達を配置して守っておいてぇ。」
「お言葉ですが魔王様。場所を確認出来ているのなら、こちらまで持ってきてしまえば良いではないでしょうか。バリアもありますし。」
「今魔王って言った?」
「あっ、やべっ。」
「まあいいわ。そんな事よりバカねぇ、装備の噂を聞きつけた奴らが取りに来るでしょう?そういう奴らは大体私を倒す事が目的だからぁ、危険因子はわざわざここにおびき寄せる前にそれぞれの場所で殲滅しておくのよ。」
「畏まりました。すぐに手配します。」
相変わらずのオネエ口調に戸惑いながらも、覇王から受け取った地図を確認し、幹部は部下に指示を出した。
一方その頃、ここは山に囲まれた地形の中にひっそりと佇むセント村。どこを見ても変わらない街並み、自然が作り出す落ち着いた風景。
しかし、その中でも異様な雰囲気を放っている物があった。村のはずれにあるそれは、ゲームなどでよく見る、台座に刺さった剣だった。それを見つめる一人の少女。
「ねぇ、おばあちゃん。あれを抜く勇者様本当に来るの?」
「えぇ、もちろん。もしかしたら今日にも来るかもしれませんよ。」
「ほんと!?」
「もしかしたらね。」
この村には昔から言い伝えがある。世界が危機的状況に陥った時、伝説の装備を纏った勇者がこの村に訪れ、台座から剣を抜き、諸悪の根源を滅ぼしてくれると。あるあるだが。
ちょうど今は覇王軍が暴れ、世界の危機だ。危機的状況とはまさしく今の事だろう。あるあるだが。
その時村の方から叫び声が聞こえてきた。
「勇者様がお見えになったぞ!!」
その言葉を聞き、少女と老婆は村の方へ急いだ。少女は突然の出来事に驚きや喜びなどの感情が入り乱れていた。
村に着くと、村人達に詰め寄られている一人の男が。確かに、神々しい装備を身に付けている。
「勇者様、ささっ、どうぞこちらへ。」
「なんなんですか!これは!」
村人達は勇者と思われる人を台座の方へ連れて行く。遂に剣を抜く所が見れる!その気持ちでいっぱいだった少女もついていってみた。
「さぁ、どうぞこの剣を抜いてください、勇者様!」
「さっきからなんなんですか!」
しかし、言う通りにしないと終わらないだろうと悟った男は、仕方なく剣に手を掛けて力いっぱい引っ張った。
剣は微動だにしない。村人達の中でどよめきが起こる。
「何をやられているんですか、勇者様。どうぞ剣をお抜き下さい。」
「さっきからその勇者様ってなんなんですか!」
「何を仰られているのですか。その装備こそ、勇者が装備できる伝説の装備ではありませんか。」
「ちょっと待って!」
少女が声を上げる。
「ペンダントはまだこの村にあるよ。確かあのペンダントが無いと伝説の装備は装備出来ないんだよね?」
「そういえば...確かに。」
再度、どよめきが起こる。その時、男の口から衝撃的な言葉が発せられた。
「そうです、これはただ単に店で買った装備ですよ。その伝説のなんちゃらでもなんでもありません。しかも僕はただの旅人です。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
まさしくそれは衝撃だった。長い間待ち続け、遂に訪れた勇者は偽物だったのだ。
果たして、世界に平和は訪れるのだろうか。