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愛妻家の旦那を持つと大変です。

作者: ゆっきー

夏も過ぎて葉が落ち始めてきたこの頃、少しだけ肌寒い。

とにかく癒しが欲しくて久々の残業で疲れた体に鞭打ち、家へと帰ってきた。


「ただいま、波留」

「おかえりなさい。お疲れ様です」


玄関のドアを開け、迎えてくれたのは俺の可愛いお嫁さんである波留。今日の夕食はオムライスですよとニコッと笑って、仕事から帰ってきたばかりの俺の鞄とコートを受け取ってくれた。


「ありがと。波留、こっち来て?」


俺よりも一回り小さい波留が遠慮がちに近づいてきた所を、ぎゅーと腕の中で抱きしめる。

これこそ俺の求めていた癒しだ。

いきなり抱きしめたからか波留は腕の中であたふたしていたが、すぐに大人しくなり、恥ずかしがりながらぎゅっと抱き着いてきた。それすらも可愛いと思ってしまうのだから俺は重症なのだろう。


高校からずっと付き合っていた波留とは、今年の夏に結婚したばかり。

お互い28歳と10年近くも経つのに、飽きるばかりか好きになっていく一方で。

可愛い波留が毎日おかえりと迎えてくれるのを見てるだけで満足だった。


だがしかし、一つだけ大きな問題があった。


今の俺たちは賃貸に暮らしていた。同棲の延長上でそのままにしていたが、俺としては致命的な問題。

人によっては、そんなこと気にしない人もいるが。

一刻も早く、一戸建ての新居に引っ越しをしたいということで波留には隠れながら絶賛探し中なのである。


「りりりり陸斗君、ご、ご飯!冷めちゃうから…」

「それは大変だ、波留の作ったご飯が美味しくなくなってしまう。いや、波留が作ったものだから冷めても美味しいよね」

「そんなこと言ってないで、早く着替えてきてください」


照れ隠しなのか腕の中からするりと抜け、ぱたぱたとリビングへと駆けていった波留。

そういう俺も玄関から移動しなければと、少しだけ軽くなった足を動かす。

スーツが皺にならないよう部屋着へと着替え、リビングに向かった。


「お待たせ、時間かかってごめんね」

「大丈夫だよ。もう用意してあるから、席に座って」


テーブルには美味しそうなオムライスと生野菜が並べられている。

最後に、スープが運ばれてきてすべてが揃ったようだ。


「今日も美味しそうだね。ありがとう」

「気に入ってもらえました?どういたしまして」

「「いただきまーす」」


最初の一口を食べる前に、波留を観察する。

本当は早く食べたいが、その前に波留の可愛い姿を見たいのだ。

もぐもぐと口に頬張るその姿は、まるでハムスターのよう。

それを見て満足した俺も、オムライスを口へと運ぶ。


「美味しい、最高だよ波留」

「よかった」


嬉しそうにニコニコと笑って俺を見る波留。

どうしてそう、いちいち行動が可愛いのか。

今は食事中なので抱きしめたい衝動をなんとか抑えて、ご飯を食べ進める。


波留を抱きしめていたらご飯すらいらないのではないか…?


30分ほどかけて完食をした。

波留の料理を残すなんてもったいない。もはやそれは、罪である。

食後のコーヒーを用意してくれた波留にお礼を言って、片手でケータイで家探しをする。

時折、食器を洗っている波留を眺めたりしながら。


本当はその間も抱きしめたいのだが、前に一度それをした時に怒られてしまった。

『陸斗君、それは危ないからやめてください』と良い笑顔で。

あの時の波留は背後に黒いオーラが出ていてそれはそれは怖かった。ということで大人しくしているのだ。


「陸斗君、終わりました!」

「も、もう終わったの?」


ある程度時間が経っていたのか、波留がキッチンから戻ってきていた。

慌ててケータイの画面を消し、ばれないように隠す。

テレビの前にある机に波留はミルクティーを置き、俺がいる二人掛けソファの隣に座った。


「はい。陸斗君珍しくぼーっとしてましたね」

「そうかな?今日ちょっと疲れてるからかも」

「今日だけじゃないですよ!なんか最近怪しいですよね?」

「隠しごとなんかしてないよ…って」

「「あっっ…」」


ここで二人とも気づいてしまった。

これはとても良くない状況である。

隠しごとがあることを認めてしまったようものだ。

慌ててフォローを入れるが、焦っているせいでどんどん墓穴を掘っていくばかり。

しまいには波留が泣きそうになってしまった。


「陸斗君、私じゃだめでしたか?」

「何が?」

「私と結婚するのほんとは嫌だったのでしょう?」

「な、なんでそんなことになったの!?」

「だ、だって…う、浮気しているんでしょう?」


波留の瞳に溜まっていた涙がポロポロと落ちていく。

そして、えぐえぐと泣き出してしまった。

どうしたらいいのかわからない俺はおろおろとすることしかできず。


「ち、違うんだ、波留。その…」

「な、なにがっ、違うのですかっ…」


とりあえず波留が誤解をしていることに気づいた俺は説得をすることにした。

こんなことになるなら初めから言っておくべきだったと反省し、この際全てを話すことにした。


隠し事をしていたことにきちんと気づいていた波留は、理由を聞きたくて、でも聞くのが怖くて。

ずっと辛かったのだろう。

溜めていたものを吐き出すかのように泣いていた。


「ごめん、波留。隠し事をしていたのは事実だけど、浮気はしてないよ」

「だってケータイ隠したり…」

「それは波留にサプライズしたかったからで、…っ!?」


がばっと抱き着いてきた波留を支えられず、俺が押し倒される形となってしまった。

なんだか新鮮な視界に、どきどきと胸が鳴る。

泣き目で俺を睨んでくるが、それはただ可愛いだけである。


「それは、浮気はしてないってことですよね?」

「そうだよ。この際、言ってしまうけど波留と一緒に住める一戸建ての家を探していたんだ」

「…っ!?」


波留はその言葉に驚き、大きく目を見開いた。

さっきまで泣いていたが、もう涙は引っ込んだようだ。

よかったとほっと胸を撫で下ろし、波留を優しく抱きしめ頭を撫でる。


「第一、波留大好きな俺が、他の人と浮気するとか絶対ないよ」

「じゃ、じゃあ、私の誤解ですか…?」

「しょーゆこと!」


顔を勢いよく上げた波留に、くすっと笑ってしまう。

すると波留は顔を真っ赤にさせ、俺の胸に埋めてしまった。

波留のころころと変わるその表情が好きだ。


「誤解してただけだったのですか…、恥ずかしい。早まってごめんなさい」

「ううん、俺も何も言わなくてごめんね。これからはちゃんと言うようにするね」

「はい…」


小さい頭をぐりぐりと俺も胸に擦り付けてくる。

やっぱり、可愛い。

ぎゅーっと抱きしめから、態勢を変えて波留をお姫様抱っこをする。

その作業がスムーズになったのはおそらく慣れたからだろう。


「ちょ、陸斗君!?」

「なあに?波留が可愛すぎるのが悪いんだよ」


ニコッと笑って、そのまま波留を寝室へと連行した。



「け、結構ですっっっ!!!」


愛妻家のお嫁さんは大変です。

初めての投稿となります。

拙い文章でしたが、閲覧ありがとうございました。

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