「プリンだ」「いや、スライムです」
「す、スライム?」
「……プリンを作ろうとしたんだが」
「い、いや、待って下さい……! もういいですから!」
神様の手がキラキラとし始めた所で、私は慌てて両腕を振って神様を止めた。またプリンもどきを作られても困る。
神様はまだ「神力が足りていないだけだ」とぶつぶつ言っていたけど、布団の上からぽよんと跳ねてくるスライムを見つめて、私は妙に納得してしまった。
「なるほど……。確かに色合いはプリンですね……」
私はきっとこういう姿形だったんだろうと思うと、やけに感慨深くなってしまう。
しかし……見れば見るほどプリンだ。
底についている突起をプチンとすれば、綺麗にお皿に出てくるというあの……いやいや、やめよう。これはスライム。食べられません。
「もしかして、神様はプリンを知らないんですか?」
「見たことはある」
「ということは……食べたことがないから再現できないんですか?」
私の言葉で黙ってしまったことを肯定と受け取ることにした。食べたことがないと駄目なのか……と心の中でメモをして、神様に詳しい話を伺う。
「どうすれば食べ物が出てくるんですか?」
「ああ。頭で思い描くのだ。形や味、細部が分かればより良く作れる」
――うーん……なるほど。原理はよくわからないけど、とりあえずやってみよう。
私が死ぬ前に食べたかったプリンは、とろとろしてる滑らかな舌触りのものだ。バニラビーンズがふんだんに使われていて、くどくない甘さが疲れを癒やしてくれる。
そう……私が求めているのはスライムではないのだ。
「そう! 断じてスライムではない! 出でよ、プリン!」
思い切り差し出した私の手が黒い靄に包まれる。てっきり神様の時と同じようにキラキラと光りが集まると思ったのに、私のは何だか毒々しい。
――こ、これが魔王の力……!! 見た目が悪い……!!
しばらくすると黒い靄が晴れていった。
手の中にあったのは瓶に入っている黄色い何か。匂いは確かに甘くて良い香りだし、見た目は思い描いたような物だった。召喚されるときに毎回この靄から出てくるんだろうか?
確かにプリンのようだけど、食べられるのか不安になるような……むしろ口に含むのが恐いような……。
「ほう。これがプリンか」
「あ、神様!」
私の手元を覗き込むように見ていた神様に、ひょいっとプリンを取られてしまった。そ、それは私のプリンなのに……取り上げるなんて酷い。
「だが、どうやって食すのだ?」
「……スプーンがあればいいんですけどね」
「そうか。ならば俺がそれを出してやろう」
「えっ、でも……」
「大丈夫だ、この位なら俺の力でも足りるだろう」
にこにこと笑いながら「任せておけ」という神様に、嫌な予感がする。
――神様……本当に任せて大丈夫なの? ここは止めるべき? いや、でも……あの笑顔には言いづらい……。
神様を止めようか見守ろうか悩んでいると、城の外で金属がぶつかるような音が聞こえた。徐々に近づいてくるその音に、布団の上に居る神様も怪訝そうな顔をしている。
足音が近づいてくることに「もしかして……」と不安になり、傍で跳ねていたスライムを抱きしめた。
「か、神様……」
「大丈夫だ。こちらへ来い」
立ち上がった神様に促されて近くに行くと、背中を強く押された。そのまま、私とスライムはベッドに倒れ込んでしまう。
何事かと思って神様を見ようとしたら、スライムごと布団を被せられてしまった。