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転生先が間違ってます

 意識を取り戻した私は、神様に言いたいことがあった。

 出来るだけ威圧感を与えられるように、腕を組んで表情を消した私は、仁王立ちをしている。


 目の前には布団の上で正座をする神様が、しょんぼりと背中を丸めている。

 布団の上で正座させたのは、床だと汚いし痛いかなと思ったからだ。

 私の最大限の温情だと思ってほしい。


 ――だって、おかしいじゃない。


 前回の転生でスライムになって、酷い目にあったのは、私がはっきりしなかったからだってわかる。

 でも、今回は『普通の人間がいい』って言ったし、神様も『叶えてやろう』と言っていた。


 今回、私に落ち度はないはずだった。だからこそ、私は怒っているのだ。


「神様、私……普通がいいって言いましたよね?」

「すまない……」

「どうして、私が魔王になってるんですか?」

「まおうというのは何だ?」

「ま……まさか」


 もしかして、神様は(つの)が生えてても人間の一部だと思ってる?

 え、嘘でしょ……? そ、それとも角が見えてないとか。


 ちらりと視線を送ると、気まずそうに私を見る神様。

 その破壊力抜群な憂いを帯びた顔で、こちらを上目遣いで見るのはやめてほしい。


「どうして普通の人間ではなかったんです……?」

「それは……力があればお前が喜ぶと思ったからだ」


 重ねて「すまない」と言う神様は、謝る度に体を小さく丸めていく。

 初めて会った時の神様は、綺麗で端正な顔立ちで、大人の色気を漂わせていた。

 今は、あの時よりもあどけなくなったのに、ずるいと思ってしまうほど素敵だった。


 小さな声で謝る神様を見ていると、怒っているはずなのにどうしても怒りが持続しない。もしかしたら、まだ頭に生えた角以外に『普通ではない所』を自覚してないからかもしれないけど。


 それに、神様は良かれと思ってやってくれたようだった。これ以上、神様を責めるのもおかしい気がして溜め息を吐く。


「……もういいです。ここで話をしてても埒が明かないし。勇者が来る前にどうするか考えます」

「……俺を許してくれるのか?」

「許す、許さないの問題じゃないです。もうやり直せないんですから……。それなら殺されないように、この世界で精一杯頑張ります」

「すまなかった……」

「……私のため、だったんでしょう? だったらあまり怒れないじゃないですか」


 私が「仕方ないですね」と笑うと、神様も力が抜けたように少しだけ笑んだ。その微笑みが可愛らしくて毒気が抜かれていくような気がする。


「ところで、神様はどうしてここにいるんですか?」

「ああ……実は……」


 神様が言うには、弟と私がやっていたゲームの世界、つまりプリンもどきの『スライム』がいる世界を最初に創造した。

 神様であっても、本来ならば干渉してはいけない転生を、何度も私の転生に干渉した為、神様自体の力が弱くなってしまい同じ世界に転移することにしたらしい。


「でも、何で神様は私の転生に干渉したんですか?」

「最初は人を助けて死んだお前を哀れだと思った。だが……次第に……」


 言いづらそうに口ごもる神様に、これ以上聞いてはいけないことなのかもしれないと、それ以上問い詰められなかった。

 私が黙っていると「それに」と神様が口を開く。


「共に転移したのは、お前が寂しがっていたからだ」

「え……?」

「俺が傍にいてやろうと、そう思ったのだ」

「でも、それは人間に転生すれば……」

「人は裏切る生き物だろう。俺ならそれはない」


 自信満々に胸を張っている神様に、先程まで丸くなっていたのにと、微笑んでしまった。

 私が笑んでいると、神様がふいっと視線を逸らして呟くように話し始める。


「詫びになるかはわからないが、お前が望んでいたことを了承しよう」

「……何です?」

「今は俺も神の力はほとんどなく、身一つで転移した。だから……お前が望んでいた俺の髪やら、体やらに触れてもいい」

「……へ?」

「お前が魂の時に言っていただろう? 触れたい、と」

「え!? あ、あれ……そうか! 聞こえていたんです……よね!?」


 そうだ。すっかり忘れてたけど、確かに心の声が聞こえてるって神様が言ってた。

 今までのことを思い出して顔が熱くなる。誤解を解かないとと思って、焦って口を開いた。


「あ、あれは夢の中だと思ったからです! もう会わないと思ってたし……じ、実際触れるわけないじゃないですか! は、恥ずかしい……」

「そう……なのか? 先程もお前は触れようとしていただろう?」

「あれも寝惚けていたからです! ご、ごめんなさい!!」


 は、恥ずかしすぎる。なのに、視線で神様の引き締まった体を追ってしまって余計顔が熱くなった。

 熱い頬を冷ますように手で扇ぎながら、話題を変えようと神様に話しかける。


「か、神様! そういえば、この体にはどんな力があるんですか?」

「ああ、お前は甘い物が好きだと言っていたからな。俺とお前は菓子を召喚できる」

「え……!? 本当ですか?」

「まあ、見ていろ」


 得意気にそう言った神様が手を差し出すとキラキラと手元が光り出す。

 ドキドキしながらその様子を見ていると、現れたのは黄色の……スライムだった。

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